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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第32話「暗躍と裏切り」

「ということで、僕らの身元は理解してくれたかな?」

「あぁ、もちろんだとも。こうして既知を得られた事を嬉しく思っているよ」

「おぉ……、神に遣える者よぉー」


「モンゼさんの方はまだ時間がかかりそうだね。キミだけが頼りだよ、ソクトさん」

「任せてくれ。もう取り乱したりはしないさ!」



 錯乱していた冒険者達は、しばらくすると落ち着きを取り戻し始めた。

 最初はナキが、その後にソクトが正気になり、モンゼもあと一歩の所まで来ている。



「で、僕らが何でこんな街に来たのかって話になる訳だが……リリン!」

「ん、私達が来た理由、それは……英雄ユニクルフィンを探す為!」

「英雄ユニクルフィン?」



 平均的な笑顔で言い切ったリリンサとは対照的に、ソクトの頭の上には疑問符が浮かんでいる。

 その言葉使いこそ以前と変わっていないが、その態度はまるで違う。


 自分よりも圧倒的格上だと理解した事により、尊敬と恐怖の眼差しで二人を見ているのだ。



「そうそう、僕らは英雄ユルドルードとその息子ユニクルフィンを探しているんだ。そんで、この街には英雄の子孫がいるって噂を聞いて来たってわけさ」

「絶対に違うと確信しているけど、一応聞いておく。ソクト、あなたは英雄の子孫?ユニクルフィンと関係ある?」

「絶対に違うと確信されているのか……。だが、私が英雄の子孫というのは事実だ」



 意外な答えに、リリンサはちょっとだけ驚いた。

 その驚きは「英雄と関係しているのに何でこんなに弱いの?」というもの。


 自他共に認める英雄の大ファンなリリンサは、それを軽々しく口にする者を嫌う。

 ましてや、それが嘘だと知ったのなら、鉄拳制裁は免れない。


 平均的なジト目を向けたリリンサは、小動物的な威嚇を発し、ソクトの魂を揺さぶりに掛る。



「むぅ、それは本当?嘘だったら許さないよ?いいの?ランク9の魔法でブチ転がすよ?」

「ひぃぃ!信じてくれ、それは本当の事なんだ!」


「証拠を出して欲しい」

「証拠……そうだな、英雄ホーライ伝説という本を読んだ事があるだろうか?」



 唐突な話の切り返しにも、リリンサはしっかりと答えた。

 ホーライ伝説とは、歴史に名だたる英雄を記した伝記本。

 史実ともフィクションとも呼ばれるその本こそ、リリンサが一番大事にしている宝物だった。



「知ってるに決まってる。舐めないで欲しい!」

「そうか、では、第6巻に出てくる『知恵の英雄、ワルダー・コントラースト』の事も知っているね?」



 ワルダー・コントラースト。

 武を極めし英雄にしては珍しく、知恵と勇気で数々の困難を乗り越え、最終的に国を救ったとされる男だ。

 英雄ホーライ伝説でも語られている彼の口癖は、『言葉こそ剣だ』であり、口八丁を上手く使って立ち回るのが大変に上手だった。



「確かに、ワルダーは戦闘力控え目な英雄。でも、本気を出したら凄いって書いてあった!」

「まぁ、そうらしいが……それは300年以上も昔の話なんだ。そして、口がやたらと上手くその技法はしっかりと受け継がれていてだな……。私の祖父が商会を起こして、今は物流商をやっているよ」


「……。英雄の子孫なのに小売商なの?」

「残念な事にな。そこん所に思う事があった私は、こうして冒険者になったがな。優秀な兄が二人もいるから継ぐ店がないというのも理由の一つだが」



 その話を聞いてリリンサは興味を手放した。

 一応、「英雄の子孫を名乗るのなら、もっと強くならないとダメ!しっかりして欲しい!」と苦言を呈しているが、それ以上の追撃は無かった。


 だが、その後ろではワルトナが「へぇ、コントラーストで物流商って聞いたことあるねぇ。チャンスがあったら会いに行こう」と笑っている。



「ん、あなたが英雄ユニクルフィンに関係ないなら用は無い。どこにでも行っていい」

「まてまて!流石にこの状況で一人で行動する気にはなれないぞ!まだ森には危険な生物がいるんだろう!?」


「大丈夫。稚魚なあなたじゃ、苦痛を感じる暇もない」

「それ大丈夫じゃないだろ!」



 興味を失ったリリンサは、心底どうでも好さそうにしているが、ソクトはそういう訳には行かない。

 ソクトにまだ用事のあるワルトナは、出番が来たとばかりにリリンサに変わり前に出る。



「リリンの言うとおり、英雄がいるかどうか確かめるという目的はそうそうに果たされた。一目見て、「あ、違う。稚魚だし」って思ったし」

「ぐぅ……。の音も出ない」


「だけど、偶然にシルストーク達と話をする事になり、僕はこう思ったのさ『おや?もしかしたらこの支部、乗っ取れるかも?』ってね」

「急に話が飛躍したな。墨汁よりも黒いぞ」


「で、シスターなる人物が毒で苦しんでいると聞いて一芝居打ったのさ。シルストーク、例のものを召喚しれくるかい?」



 突然指名されたシルストークは、慌てて――いない。

 なんとなく自分の名前が出てくるのは分かっていたのだ。


 レベルが3万を超えた今、その危機察知能力は並みの冒険者を上回っている。



「じゃあ出すよ。驚かないでね、にいちゃん《永劫の時を超えて、我が元に現れん。サモンウエポン=連鎖猪の角、100本》」

「……はぁん?」



 それは、連鎖猪の100本の角が織りなす、流星雨だった。

 瞬きの間に呼び出されたそれは、ソクトを囲むように突き立てられている。

 その深々と地面に突き刺さった角を一本引き抜いて確認したソクトは、「フヘヘ―、角だぁー」と楽しげに笑った。



「にいちゃん!?しっかりしてよ!!」

「はっ!すまない、シル。で、なんだこれは?何でこんなにいっぱいあるんだ?」


「この角は、にいちゃんがナキ姉ちゃん達を呼びに行ってる時にリリンサに売って貰ったんだ」

「えっ。ってことは……最初っから騙されてるじゃないかッッ!!」



 シルストークの言葉の意味を理解し、絶句するソクト。

 そんな姿を見て満足げに嗤ったワルトナは、さらに追い打ちを仕掛けに行く。



「そう、あの時点でシスターヤミィールは一生分のお薬を手に入れていたってこと。……でも、連鎖猪に出会った時の表情が見たくて黙ってたんだ。ごめんね!」

「なんて酷いッ!というか、その言い分だと森に危険生物がいるって知っていたな!?」


「知っていたとも。この奥の森が『ハザードアラート』と呼ばれ最高位禁域に指定されている事も、手前の森は『シケンシ(試験紙)の森』であり、有事の際にはその命を以て危険を世界に知らせる役割だという事も」

「なんだって?」


「そして……それを隔てている結界が壊れ、こっち側にランク9のドラゴンが侵入しているという事もね」

「……。どっどっどっ、ドラゴンッッ!?」



 次々に飛び出してくる緊急事態だったが、ソクトは頑張って耐えていた。

 だが、最後に叩きつけられたランク9のドラゴンがいるという話は流石に無視できない。


 ドラゴンというのは冒険者の憧れであるが、同時に死の象徴でもある。

 分類上は、真頭熊などと同じランク9。

 だが、それはランク9以上が無いからであり、もっと上の階級があるのなら、ドラゴンはその最上位に君臨するべき生物なのだ。


 種類によって身体の大きさは千差万別だが、共通点が二つある。

 一つは、ただの格闘戦であっても真頭熊と同レベルであり、その肉体は非常に強靭であるという事。

 そしてもう一つは……人類最高レベルの魔法を容易に使いこなす事が出来るのだ。


 ただでさえ強い殴打が、山を吹き飛ばす魔法を纏って放たれる。

 遠くから魔法で攻撃しようとしても、それより威力の高い魔法で反撃される。

 ドラゴンを倒す為には、多勢に無勢が必要であり、例えるのならばミツバチとスズメバチの関係に近い。


 強大な力を持つスズメバチ(ドラゴン)が、ミツバチ(連鎖猪)の群れを襲う。

 ミツバチは多勢に無勢の状況でかつ、仲間の死をいとわない捨て身の反撃をしてやっとスズメバチを倒す事が出来るのだ。


 そんな生物が近くにいる。

 それを言われたソクトは、冷静に振る舞って考え込んでいる。

 単純に、ドラゴン戦闘力の高さを経験していないが故に、理解出来ていないのだ。



「ドラゴンか……。強いとは聞いているが、真頭熊と同じくらいか?」

「いやいや、僕が見たのはドグマドレイクだったから、真頭熊だと手も足も出ないんじゃない?」


「ははは……。嘘であってくれ」

「嘘じゃないねぇ、ホントだねぇ。ドグマドレイクは特に格闘能力が高いドラゴンだし、魔法だってガンガン使う。10対1で真頭熊にようやく勝機が出てくる感じだよ」


「ははは。勝てるかッ!!」

「ソクトさんがまったく勝てない連鎖猪の群れを一匹で滅ぼす真頭熊の群れを喰いもんにするドラゴンだからねぇ。……その戦闘力は、ソクトさんが100人いても足りないよ」


「勝てるかッ!!勝てるカッ!!」



 自分よりも100倍強い生物って、どんなんだろう?

 ソクトは純粋に好奇心を抱き、そして、動悸がしてきたので考えるのを止めた。


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