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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第26話「理不尽なるボスラッシュ!③熟練冒険者のプライド」

「うおーーーー!魔法がズバババって、すげーーー!」

「ふふ、どうよ、シル。私達も負けてないでしょ?」



 26発の氷結杭の乱舞を見たシルストークは、喝采の声をあげた。

 それは純粋な称賛と、自分が出来ない事に対しての憧れ、それに子供ながらの無邪気さを加えた心の底からの歓声だ。


 その隣で酷い叫び声と嗚咽を吐き散らかしているソクトとモンゼとは雲泥の差がある。

 そして、新人冒険者達は和気あいあいと語りだし、そこそこの時間が経った。

 その数分という時間は、自称『熟練の冒険者』二人組を会話可能な状態に戻し、酷い顔がシルストーク達に向けられた。



「オイ!オイッッ!!なんだ今のは、答えろナキッ!」

「氷結杭に決まってるじゃない。何度も見たことあるでしょ」


「ねぇぞあんなもん!!いくら何でもおかしいだろッ!!何故あんなに一杯の氷結杭が出た!?」

「ワルトナにコツを教えて貰ったからね」


「コツとかそういう次元じゃねえだろ!!数の話をしてるんダヨッ!!というか、氷結杭は5回が限界だって言っただろうが!!」

「あぁー。少し表現が悪かったわ。今のが5回って事よ」


「それじゃ結局何発にナルンダヨ!?」

「50発くらいねー」


「ナンでソウナッタァアアアアアアアアアアア!!」



 凄まじい攻撃力の剣を持っていたといえど、同じ剣士のシルストークの動きは、なんとか受け入れる事が出来た。

 だが、流石に大魔法26連発は許容できないと、ソクトとモンゼは錯乱している。

 今にも飛び掛かりそうなその気迫を見たシルストークが剣を構えた程だ。



「はいはい、僕から説明しましょうかねぇ」

「!!ワルトナ君」


「ナキさん達は実はすっごく才能があったんです。でも、今まで品質の良い魔導書に巡り合えていなかった。で、僕の持って来た魔導書を見たらこの通り」

「流石に納得しないぞ。もっと詳しく教えるんだ」


「そう?じゃ、ぶっちゃけて言うよ……。キミをビックリさせようと思って、イタズラを仕掛けたんだ。ねー、リリン」



 そう言ってワルトナは屈託のない笑顔をリリンサに向けた。

 その横では、信じられない顔をしたソクトとモンゼが目玉を飛び出させている。



「そう、稚魚のあなたに身の程を分からせる為にシルストークを育てた。ドッキリ大成功!」

「ドッキリだと!?そのまま心臓が止まってしまう勢いだったぞ!」


「そのくらいビックリしたという事?……ふ、稚魚なのに調子に乗ってるからそうなる。覚えておいて」

「そしてその態度は何だ!?キミのレベルは10000弱だよな!?」



 ソクトの目には、未だにリリンサの偽りのレベルが映っている。

 この極限の混乱状態であるからこそレベルを確認し、状況判断の材料にする為だ。


 だが、それこそが罠だと気が付かなかった。

 そんなソクトを無視して、リリンサは視線をワルトナに向け、心の中で語り掛ける。



『……ワルトナ。バラしていい?その後で転がしたい!』

『もうちょい先で』


『むぅ、分かった』

『じゃ、選手交代。僕があの稚魚の相手をするから、シルストーク達の士気を高めといて』


『りょーかい』



 嬉々としてトドメを刺しに行こうとしたリリンサを制止したワルトナは、ソクトの前に立つ。

 全ての布石は打ち終わっている。

 後は、詰将棋の様に、決められた手順で駒を動かしていくだけだ。



「まぁまぁ、僕らの話は置いといて、シルストークやナキさんがどうしてあんな事が出来るようになったのか、知りたくありませんか?」

「知りたいに決まってるだろう!エメリやブルトのレベルが2万になってるのは、稀に起こる事だ。ランクA以上の害獣と戦って生き残るとこうなる事もある。だが、流石にシルやエメリはおかしいだろ!私のレベルを超えてるじゃないか!!」


「まずはナキさん達の方から説明しましょうかねー。魔法とは呪文さえ唱えられれば誰でも使える物です。そして、それは僕の持って来た高品質な魔導書によってクリアされました」

「あぁ、あの薄い魔導書か。だが、あの連発はどうなっているんだ?そもそも、氷結杭は多くの魔力を消費する。連発なんて不可能だ」


「ソクトさん、それは無駄の多い呪文で魔法を使ってるからです。しっかりと正しい呪文を使えば魔力消費は最低限で済みます」

「なんだって?」



 ワルトナの言っている事は事実であり、そして、一般的な冒険者には知られていない事だった。

 一般的な常識では『魔法とは魔力を材料にして、発動させる』とされ、より高位の魔法を使おうとすれば多くの魔力を消費すると思われている。


 だが、それは違うと、ワルトナはソクトに説明し始めた。

 それは昨日の復習になると、ナキやエメリーフも耳を傾ける。



「いいですかソクトさん。クッキーの入った袋を思い浮かべてください」

「……クッキーの入った袋?あぁ、それで?」


「その袋が、この世に存在する全ての魔法が格納された『魔法次元』であり、中に入っているクッキーが『魔法』です」

「……?良く分からないな?」


「僕達が使う魔法という現象は、その魔法次元に入っている魔法を取り出しているだけなんですよ。良く考えてください、体の中にあるエネルギーが氷になって飛んでいくっておかしいでしょう?」

「言われてみれば確かに……」


「ということで、僕達は、『神様があらかじめ作った魔法を取り出している』だけに過ぎません。だから、正確な呪文を唱えれば誰でも魔法が使えるんですよ」



 この説明を聞いたソクトは、しっかりと頷いた。

 身体の中にあるエネルギーが氷になる訳がないと納得したのだ。



「だが、魔法を扱える者とそうでない者の差は何なんだ?私も攻撃魔法なんかほとんど使えないし、無理に使えば疲れ果ててしまうぞ?」

「そもそも、魔力って何の為に消費すると思います?」


「それは魔法を……って、魔法は取り出しているだけなんだったか?」

「そうです。さっきのクッキーの入った袋の話に戻りますが、中から魔法(クッキー)を取り出すには袋に穴を開けなくちゃならない。その穴こそが呪文であり、長い呪文を唱えるとその穴はどんどんと大きくなって、消費する魔力が多くなるんですよ」


「なに!?そうなのか!?」



 ワルトナが言っている事は事実だ。


 魔法は、魔法次元と呼ばれる高位次元に格納されており、その能力はあらかじめ設定されている。

 それを取り出す為に、魔導師は呪文を唱えて魔法次元と目の前の空間を繋ぎ、魔法を呼び出しているだけに過ぎないのだ。


 そして、より大きなクッキー(ランクの高い魔法)取り出す(発動する)為には、それが通れるだけの大きさの穴が必要になる。

 その穴をつくる為に魔力は消費され、魔法に適した形の穴をあけられるならば、必要な魔力は驚くほど少なくて済む。


 つまり、ナキが今までやっていたように魔導書をそのまま読むというのは、袋に特大の穴をあけて無理やりクッキーを取り出しているようなもの。

 通常であれば魔法の形に合わせた穴をあける所、袋の底を大きく裂くような事をすれば、労力が増えるのは必然である。



「ということで、正しい呪文唱えられるようになると、消費する魔力は少なくなり、威力は増大しますね」

「消費魔力は少なくていいというのは分かったが、何で威力まで上がるんだ?」


「正確には、間違った呪文で無理やり発動させると威力が下がると言った方が正しい。魔法が通る穴が合っていないのに無理やり取り出そうとするから、端っこが掛けたり傷ついたりして魔法が小さくなってしまうんですよ」

「なるほど……。つまり、氷結杭を5発も撃てば疲れ果てて『帰る!』と騒ぎ出していたナキが連射できたのは、正しい呪文を覚えて無駄に魔力を使う事が無くなったからという事だね?」


「そうですー。ちなみに、個人によって、どの魔法に適正――どれだけ小さい穴で魔法を呼び出せるか――には個人差があります。シルストークが攻撃魔法を使えないけど、バッファが得意なのはそのためです」

「なんてことだ……。なら、私にも得意な魔法があるかもしれないのか?」


「あると思いますよ?たぶん、シルストークと同じバッファ系じゃないですかねー?」



 いきなりナキ達が超絶パワーアップした理由が判明し、ソクトは考え込んでいる。

 結局、理解できていない事の方が多い。

 それでも、一晩でこれほどまでに差が付いたという事実は無視できないのだ。



「それで、なんでキミ達はそんな事を教えられるんだ?」

「僕達は大型新人なので!」


「こんな事が出来る奴は、絶対に新人ではない。覚えておきたまえ!」

「でも僕は冒険者になって1年くらいだしー。……魔法の修行はかれこれ5年くらいはしてるけど」


「充分に熟練じゃないかッ!」

「てへ!」


「誤魔化されるかッッ!!」



 ワルトナの適当すぎる愛想笑いを受けたソクトは、悔しそうに地面を蹴った。

 その大人にあるまじき行為を見て、新人冒険者達はちょっと引いた。


 だが、ソクトはそれどころではない。

 失った威厳を取り戻そうと、ギラついた目をワルトナ達に向けた。



「ワルトナ君、リリンサ君。次に連鎖猪が出てきた時は、私に優先して狩らせて欲しい」

「……たぶん、手も足も出せずに瞬殺されると思う」


「そうはならない。何故なら、新人冒険者のシルが出来たことぐらい、私にも出来るからだ」

「どうやって?その剣で?バッファもないのに?」


「そうだ。バッファはナキに掛けて貰っている。私の剣だって魔法剣だ。何も劣る物はない」

「まず、経験(レベル)が劣っていると自覚した方が良いと思う」


「だから次の連鎖猪を狩ってレベルを抜き返すと言ってるんだ!!」



 ソクトとの問答に飽きたリリンサは、「転がして良い?」という意味の視線をワルトナに向けた。

 そしてその意図をしっかり組み取ったワルトナは、「リリンがやるまでもないねぇ」と不敵に笑う。



「そうですねぇ、是非やって貰いたいかなー」

「やらせるの?絶対に勝てないと思う」


「だからさ。シルストーク達は強くなったけど、逆に相手を侮りやすい状態にある。ここらで一つ、連鎖猪がどんな生物だったのかを見て貰いたいんだ」

「なるほど。この英雄を語った稚魚を生贄にするんだね」



 今までリリンサとワルトナに敬意を払っていたソクトだが、その暴言は流石に許容できなかった。

 手に力を込め、落ちていた剣を拾い上げ、ギリギリと歯を鳴らす。

 完全に我を失っているその姿を見たリリンサは「ん。興奮してる連鎖猪に似てる?案外いい勝負するかも?」と呟いた。



「モンゼ!モンゼ!!やるぞ!!このまま舐められっぱなしでは私の気が済まない!」

「……3匹以上出てきたら逃げますよ、拙僧は」


「シルは一人で6匹も倒したんだぞ!そんな弱気でどうする!!」

「じゃあ、譲歩して4匹までという事で。それ以上でたら拙僧はリリンサさんやワルトナさんに軍門に下ります」


「キミは元聖職者だろう!?こんな悪魔少女に媚を売るのか!」

「今は破門されてますので。悪魔信仰とかちょっと興味もあります」



 あ、とうとう仲間割れし始めた。危険だねぇ、末期だねぇ。

 でも、面白そうだから煽ろーと。


 そうして、ソクトとモンゼは死地へと追いやられた。

 真っ黒い服を着た少女共は不敵に笑い、仲間だった友は、呆れた目で見ている。


 ソクトとモンゼと仲良くしてくれそうなのは、ワルトナがおびき寄せた連鎖猪3頭だけだ。

 ブモウ!ブモウ!と、とてもやる気に満ちている。

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