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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第25話「理不尽なるボスラッシュ!②」

「ナ、ナンダッテ、ドウシテこうなったァァァっっっ!?!?」



 瞬く間に積み上がった連鎖猪の屍の山を前にして、ソクトは狂乱している。

 持っていた剣すら投げ捨て、熟練の冒険者にあるまじき怒声をあげながら、ひたすら喚き散らしているのだ。


 だが、その声に賛同する者はいない。

 ソクト以外の人物は起こった事態に驚きつつも、想定の範囲内といった様子。

 唯一、同じ立場であるはずのモンゼは連鎖猪に突き飛ばされたまま、茂みに突き刺さっている。


 そして、獲物を屠って満足したシルストークに、温かい言葉が掛けられた。



「驚いたわ。やるじゃない、シル」

「へへ!俺は攻撃魔法を使えないけど、バッファや召喚魔法の適正が高いってリリンサに教えて貰ったんだ。んで、練習したらこの通り!」

「びっくりしちゃったよ、シルストーク!」

「うん僕も!それに……ちょっとうらやましいなー」



 和気あいあいと語り合う、新人冒険者達。

 その光景は、まるで孤児院の庭で遊ぶ子供たちの姿そのもので。


 ソクトは、あれ?なんだこれ?夢か?と思い、本気で自分の頬をブン殴った。

 そして……まったく痛くない頬を撫で、あぁ、夢だったか!と納得しかけた。



「なんだ、夢――」

「夢じゃない。現実」


「は?いやいや、これは夢だろう。頬を叩いてもまったく痛くないぞ?」

「それはそう。ドラゴンの大規模殲滅魔法に耐える第九守護天使せらふぃむが、あなた程度のへにゃちょこパンチで壊れるはずがない」


「……大規模殲滅魔法?第九守護天使?何を言っているんだ?」

「じゃあ、《第九守護天使、解除》。防御魔法を解いた。これであなたは普通にダメージを受ける」


「はっはっは!夢だから痛くないけどな!どれ……ぐぎゃああああ!痛いッッッ!」



 リリンサの話を無視したソクトは、この事態は夢だと確信し、目の前に転がっている連鎖猪の角を素手で思いっきり殴った。

 それは熟練の冒険者の拳。

 体重の乗った良いストレートパンチは角の根元を見事に捕らえ――、ソクトは地面をのたうち回りながら、これは夢ではないと確信した。



「……目が覚めた?」

「ぐぅぅ……。オカッお、おかしいだろう!さっきのが夢じゃないというのなら、シルの動きはなんだったんだ!?なんだあの意味不明な攻撃力の魔法剣はッ!?説明してくれッ!」


「シルストークは私と修行して強くなったということ。……稚魚のあなたよりも!」

「稚魚!?熟練の冒険者でランク3の私の事を稚魚と言ったのかッ!?」


「うん。だって弱いし」

「よっ……。この場にいる最高レベルだぞ私は!!弱い訳があるかッ!」


「少なくとも、最高レベルで無い事は確か。だってもう、シルストークの方がレベルが高い」

「え?は?……はぁああああああああああああああああああ!?」



 リリンサに指差された先にいたのは、ちょっと照れくさそうに笑っているシルストーク。

 そのレベル表示は『―レベル32125―』。

 先程の連戦で約3000レベルの経験をシルストークは得て、ソクトのレベルを超えていたのだ。


 だが、ソクトの驚愕はそこでは終わらない。

 その横にいるエメリーフのレベル……20200。

 さらに隣にいるブルートのレベル……24141。

 そして、自分のパーティーメンバーであるはずのナキのレベルは、なんと……36290。


 昨日連鎖猪と遭遇した時以上の混乱が、ソクトを襲った。



「なん、なん、……ナンダソのレベルっっ!?ナキ、お前のレベルは27340だっただろうっ!?」

「女は一晩で変わるのよ。知らなかった?」


「どこの世界に、一晩でレベルが1万近くも上がる女がいるんだ!それは女じゃなくて山姥やまんばだろっ!!」

「……ぶっ殺されたいのね?」



 ナキの殺気に当てられたソクトは、なんとか仲間を探すべく視線を巡らせて、茂みに突き刺さっているモンゼを見つけた。

 屈強な大男がピクリともせずに尻だけ出している滑稽な姿も、ソクトにとっては救いに見える。

 直ぐに駆け寄って無造作に引っ張り出した。



「モンゼ!モンゼ!!しっかりしろっ!起きてくれ!!」

「あぁ、拙僧は連鎖猪に跳ね飛ばされて……。あなたも死にましたか、ソクト。一緒に三途の川へ向かいましょう。おっと、連鎖猪がいると聞いていますので注意しないと」


「本当にしっかりしてくれッ!私だけじゃ無理だ!!ほら見ろ、お前を突き飛ばした連鎖猪ならそこにいるぞ!今日の昼も焼肉パーティーだッ!!」

「おぉ、それは川を渡る訳にはいきませんね。え?」



 ようやく意識を取り戻し始めたモンゼは、周囲の光景、ソクトの表情、死に絶えている連鎖猪の群れ、不敵に笑うリリンサとワルトナ、そして、信じがたいレベルの仲間達を見て絶句。

 混乱して騒ぎまくっているソクトと足して2で割ると丁度いいかも?と、眺めていたリリンサは思った。



「はいはーい!リリンの弟子のシルストークのお披露目は凄い結果だったね!それで、やられっぱなしはダメだと僕は思うんだけど、みんなはどう思う?」

「決まってるじゃない。今度は私達の番よ!」

「うん。頑張ります!」

「僕も!」


「いいねいいね!それじゃ同じ獲物を用意したから、力比べをしてみよー!《次空間の抜け穴(ウロボロス・ホール)》」



 今まで被っていた皮を脱ぎ去り、嬉々として本性を表したワルトナは、楽しげに指を鳴らす。

 すると……その視線が捉えている30m先の空気が揺らいだ。


 裂けるようにして空間が歪み、その中から、ぞろぞろと屈強な肉体が現れてゆく。

 合計20匹の連鎖猪の群れ。

 一匹の大きさは千差万別であるが、最低でもレベルは3万。

 そして、群れの中央に陣取るボスと思しき個体のレベルは――71301。


 ソクトとモンゼは男二人で抱き合い、ただただ絶望している。



「ワルトナ。ちょっと多過ぎよ!」

「いやいや、シルストークは一人で6匹も倒したんだよ?じゃあ魔導師のキミらだって、一人で6匹くらいは倒さないと」


「……それもそうね。分かったわ」

「という事で、ナキさん、エメリーフ、ブルート。やってよし!」



 何を馬鹿な事を言っているんだと、ソクトとモンゼは思っている。

 こんなの勝てるわけがないと、諦めの境地で成り行きを見守る事しかできないのだ。


 だからこそ、その瞬間は、しっかりと目に焼き付いた。

 20匹の連鎖猪が数秒で惨殺されるという恐ろしき結末は、人の尊厳を砕くには十分すぎる、暴力だ。



「数が多い!重奏魔法連マジックアンサンブルで一気に行くわよ!」

「はい!」

「分かりました!」


「《十重奏魔法連(デクテットマジック)・氷結杭!》」

「《八重奏魔法連(オクテットマジック)・氷結杭!》」

「《八重奏魔法連(オクテットマジック)・氷結杭!》」


「「え」」



 聞いた事もない呪文を聞いたソクトとモンゼは、たったの1文字しか発音できなかった。


 その目が捉えているものは、合計26個の輝く魔法陣。

 つい先日まで、10分以上の準備時間を掛けて出現していたそれらが連立する意味不明な光景を見て、汗が吹き出し、口の中が急激に乾燥してゆく。



「《放てッ!!》」

「「《はいッ!》」」



 チッ、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 空気を切り裂く音と、地面が爆裂する音。

 その音に掻き消され、連鎖猪の断末魔はソクトとモンゼに届かなかった。


 その代わり。

 土煙が晴れた後、全ての連鎖猪が死に絶えている光景を見せつけられたソクトとモンゼは、人生最大の金切り声をあげた。



「きィィやァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

「きィィやァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」


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