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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第1章 聖女見習いと盗賊
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第4話「狩る者と狩られる者」

 

「ブチ転がすだぁ?ぐへへ、そうだな、転がされてーなー。その可愛いお口でよぉ!」



 ぎゃはは!と騒いでいるのは、副頭と他3名。先ほど下品な漫才を繰り広げていた4人だ。

 彼らは盛り上がり、幼い身体のつぼみを想像して、また盛り上がる。

 そんな彼らを冷ややかな目で見ているのは、リリンサとワルトナだけではなかった。


 仲間のはずの3名の盗賊も、ドン引き。

「いくらなんでも幼すぎるだろ……。」と、そこそこまともな感性を持つ彼らは、アジトに帰ったらボスにチクると決めて、一歩、体を引いた。

 流石に、幼女を汚すのは人としてダメな気がする……。と少ない正義感が働いたのである。


 そして、それが明暗を分けた。

 開始の合図は唐突に起こり、リリンサの一番近くに居た盗賊が、最初の犠牲者となる。



「ぎゃはは!こりゃ、こっちが本番にな……」

「リリン。やってよし」

「……《極炎殺(バーニング・デス)!》」


「ひっ?」



 リリンサが杖を振り抜いた刹那、下品に笑っていた盗賊の一人は爆裂し吹き飛んで、岩肌にめり込んだ。


 体重30kg程度の小さい体のリリンサが、体重70kgを超える大人を吹き飛ばす。

 それは通常ではありえない事だ。


 それを可能にしたのは、杖を振り抜く直前にリリンサが唱えた魔法『炎極殺』。

 杖が着弾すると同時に超高温の炎が噴き出し、杖と盗賊の間に有った空気が爆発的に膨張。

 解き放たれた破壊力は軽々と盗賊を持ちあげて、鋭い岩肌へ叩きつけたのだ。


 そして、岩肌にめり込んだ盗賊がドサリと崩れて落ちて、ピクピクと震えた後、場は沈黙が支配した。

 今まで騒がしかった空気の名残は無く、盗賊がゴクリと唾を飲む音だけが響く。



「は?はぁ……?何が、起こった?」

「やれやれ。魔法を知らないのかい?今時、魔法を知らないなんて、野生動物にも劣るねぇ」


「ま、魔法?……嘘をつくんじゃねえよ!呪文の詠唱が無かったじゃねえか!!」



 副頭が抱いた疑問は、当然の事だった。


 魔法とは、それぞれの魔法に適した呪文を詠唱した後、最後に魔法名を唱える事により世界に出現させる『神の定めし、概念を超えた現象』の事だ。

 古くから伝わる文献によると、魔法は神が作ったものであり、世界の真理を疑似的に歪ませる特別ルールであるとされている。


 ・惑星には重力があり、『空中で手放した物体』は、『地面に向かい垂直に落下する』。


 これは、神が定めし概念であり、生物が影響を及ぼす事の出来ない真理だ。

 そして、これに逆らう方法として、神は、『×××』という魔法を唱えた場合、『○○○』という結果を起こすといった特別ルールを作り、全ての特別ルール(魔法)は魔法次元と呼ばれる別の次元に保管してある。


 そして、それらを呼び出す為の鍵として、呪文と呼ばれる長い詠唱が必要になるのだ。

 逆に言えば、呪文さえ唱えられれば、魔法は誰にでも扱える物だ。


 しかし、魔法の存在は生活に根付いていると言えども、体重70kgもある大人を吹き飛ばすほどの魔法は普及していない。

 正確な呪文を唱えれば誰しもが魔法を扱えるこの世界で、どうしてそういった高火力の魔法が広まらないのか。


 それは……魔法を出現させるために必要な呪文は、個人によって違うものになるからだ。


 例え同じ魔法であっても、一人一人によって、使われる単語も長さも異なる。

 故に、魔導書という一冊の本から、自分にあった単語を選び出し繋ぎ合わせて、自分専用の呪文を作り上げるのだ。


 しかし、リリンサは、魔法名だけで魔法を使用した。

 それは、小さな身体の幼い少女が使用するには、あまりにも過ぎた……暴力。



「呪文の詠唱ぉ?キミ等をしばき倒すのに、そんなもの必要ないだろう?」

「うん。呪文の詠唱が必要な程の高位の魔法なんて、あなた達にはもったいないと思う」



 そんな馬鹿な……と、盗賊達は一斉に目を見開いた。


 悪徳商人な笑顔を浮かべているワルトナが呟いたその言葉は、壮年に差し掛かるであろう熟練の冒険者が言うべきものだったからだ。


 魔法の発動には、必ずしも、呪文が必要になる訳ではない。

 魔法には、『ランク』と呼ばれる階級分けがあり、『ランク1(生活魔法)』から『ランク9(大規模戦略魔法)』までの9段階に分けられる。

 そして、ランクの数字が低い程に呪文が短くなる傾向があり、ランク1の魔法程度なら、魔法名だけで唱える事が出来る人物も多い。


 しかし、ランク3を超える魔法から急激に威力が向上し、呪文も長く難解になる。

 そのため、ランク3を超える魔法を無詠唱で発動させる事が出来るのは、歴戦の魔導師に限られるのだ。



「おかしいだろ……。今のは、ランク3なんかじゃないはずだ……。ただ吹き飛ばすだけじゃなく、岩壁にめり込んだんだぞ……?」

「そうだねぇ。ランク3なんかじゃないねぇ。リリン、今の魔法は一体ランクいくつだったんだい?教えてあげなよ」

「獄炎殺は、ランク5の魔法。ちなみに、今のは意図的に威力を弱めている。本当はもっと、『ずがーん!』ってなる」


「ズガ―ンだと!?それはもう、なったじゃねえか!!」

「いやいや、あんなもんじゃないよ」

「うん。ちょと訂正。本当は、『ずばぎゃしゃーん、ずどどどど、どぎゃーん!』ってなる!」


「「「「「なんだそれぇぇぇぇぇ!?」」」」」



 盗賊は目玉をひんむき、唾を撒き散らしながら、酷く混乱した。


 大人を吹き飛ばせるような魔法はランク3では無く、それ以上。

 それを知ってはいても、まったく悪びれもせずランク5の魔法を無詠唱で使ったと言われれば、混乱するのは当たり前の事だ。


 盗賊という、戦闘をする事が職業の人物たちでさえ、理解しがたい理不尽。

 そんな理不尽をこんな幼い少女たちが行ったなんて、到底信じられず。

 それを何とか理解しようとして、レベル目視を起動した盗賊達は。


 神が作りし概念、リリンサとワルトナの『レベル』を見て、目玉が飛び出すほど驚いた。



「なんだそのレベルはぁぁぁぁぁぁ!?レベルが、よ、5万だとッ!!け、桁が違うじゃねえか!桁がッッッ!!」

「おやまぁ、気が付くのに随分と時間が掛ったねぇ。……と言いたいとこだけど、ま、しょうがないよね!僕らのレベルに意識が向かないように、注意力を阻害しているし」


「注意力を阻害だと!?そんな事が出来る超高価な魔道具を持ってやがるのかッ!!」

「言っただろう。僕らを心配してくれる人は多いって。そう、キミらの様に心配するふり(・・・・・・)をして襲いかかってくる人は多いんだ」


「ふざけんな!譲って貰ったって言ってただろ!!」

「あれ?言い間違えたかな?本当は、『強請ゆすって奪った』が正解だねぇ」


「く、くそぉおおおおおおおお!全員バラけろッ!包囲して波状攻撃で殺す!加減はするな!確実に殺しに行けッ!!」



 その叫びは、盗賊の副頭が叫んだものだ。

 そして、その叫びを理解できなかった者はいない。


 盗賊に求められる、最も必要な資質。

 それは、危機感知能力。


 大きな成功を狙い危険を冒すより、危険とは程遠いリスクの無い悪事を選ぶ。

 それが、『冒険者』と『盗賊』の違いであり、危機を感じ取る感覚が鈍い者は、すぐにその人生を終わらせることになる。


 この世界は、究極の弱肉強食。

 上を見ればキリがなく、数万の人間の命が、強者の気分によって浪費される世界。


 盗賊達は理解している。

 この目の前の、幼女の皮を被った化物に勝てないという事を。

 しかしそれは、逃亡を試みても同じ事だ。


 背中を見せて走るより剣を向けて戦う方が、まだ可能性がありそうだ。

 立場が逆転し、一気に窮地に立たされた大人たちは、無邪気な声で話す子供の前で筋肉を膨張させ、必死になって陣形を作る。



「ワルトナ。6人いるし、半分こにしよう」

「おっけーい。あ、僕は右側が良いなー。いいだろう?リリン」


「いいよ」

「ありがと、それじゃ僕の魔法をご覧あれ!」



 それはまるで、おやつに出されたクッキーを友達と分けあう少女のような声色だった。


 命を賭けた必至の戦闘だと思っているのは、6人の盗賊のみ。

 その少女達、リリンサとワルトナにとって、これは対等な戦闘なんかでは無い。


 ただの、私腹を肥やす追い剥ぎ(おやつの時間)だ。

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