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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第21話「目標と魔法訓練」

「さて、みなさん達に聞いて貰いたい事があるんです」



 日が傾き始め、盛り上がりを見せていた祝賀会も終りに向かい始めた頃、ワルトナが話を切り出した。

 それぞれ満腹になるまで連鎖猪を堪能し、随分と身も心も満たされている。

 そんな中で上がった声に、おのずと視線は集まった。



「ソクトさん、確か、このシケンシの森には連鎖猪は生息していなかった。……そうでしたよね?」

「あぁ、私達が2年も探して見つけたのは、小さいはぐれが一匹だけだ。恐らく生息していないんだろう」


「なのに、今日は連鎖猪が5匹もいたと。その理由、分かりますか?」

「いや、さっぱり浮かんでこないが……。もしや、ワルトナ君には心当たりがあるのか?」


「ありますよ。連鎖猪の出所、知りたくありませんか?」

「それは是非とも聞きたいが……、黄泉の国とか言うんじゃないだろうね?」



 ソクトはワルトナの顔を見て、嘘や冗談を言っている風には見えないと思っている。

 だが、連鎖猪がいた理由を考えても思いつかず、本当に黄泉の国から湧いたと言われたら信じてしまうかもしれないとも思っているのだ。

 それゆえの言葉だったが、ワルトナは不敵な笑みを浮かべ「違いますよ」と返事をした。



「もっと現実的な話ですよ。僕の仮説では、連鎖猪は奥の森から来たと思うんです。恐らく、結界に穴とかがあって、そこを潜ってきてるのかと」

「なるほど、奥の森からか。立ち入り禁止の結界が破けているのなら、可能性は充分ありそうだが……こんな近くにいたとは驚きだな」


「幸い、今日の昼時点で連鎖猪を見かけたという人はいなかった。だからまだ町にいる冒険者は知らないし、乱獲するなら今の内だと思うんですよ。僕とリリンがいる以上負けはないですし、奥の方まで見に行きませんか?」

「確かに、連鎖猪の角はいくらあっても嬉しいが……。今はシル達もいる。深く森に入るつもりは無かったんだが……」


「戦力は衰えておらず、食事などの補給も十分に残っている。それに、連鎖猪は普通のパーティーが戦うには強過ぎますよ。だからここは英雄の子孫のソクトさんが率いる伝説の冒険者パーティーの出番じゃないかなって」

「私の出番……か……」


「連鎖猪の大量発生とか結構な危機ですし、これを解決したら、ソクトさんは本物の英雄になれるかもしれません。チャンスですよソクトさん!カッコよく凱旋しましょう!!」

「カッコよく凱旋、本物の伝説のパーティー、か……。そうだな、町にいる冒険者では連鎖猪は荷が重い。出来る限り私達で対処したほうが良さそうだな!」



 あーちょろい。チョロすぎる。

 何が伝説的パーティーだよ。キミらなんかが伝説なんだったら、僕らは英雄になってるつーの。


 というか、奥の森の危険性について、本当に知らないっぽいねぇ。

 知ってるなら、結界が破れたと聞いたら一目散に逃げるもん普通。

 ドラゴンが当たり前にいるし。


 まぁ、ここはシケンシの森。

 逃げたら試験紙にならないし、知らなくて当然だね!



 ワルトナは計画が上手く進んでいると内心で嗤い、表情でも笑顔を作った。

 無邪気な振りをして、「目指せ討伐100匹!頑張るぞ!!」と掛け声までを掛けて、リリンサとハイタッチまでしている。



「それでは夕食も済ませたし、日が暮れる前に野営の準備をするとしよう。ここなら道も広いし丁度いいしな。モンゼ、テントを組み立ててしまおう」

「分かりましたが……。リリンサさん達はどうするですか?」

「ん、テントもしっかり準備してあるから問題ない。《サモンウエポン=テント一式!》」



 モンゼの心配などまるで気にも止めず、リリンサは呪文を唱えて、予め組み立ててあるテントを召喚した。

 それは縦横3mもある大型のもので、ズシンッ!!と、随分と重みのある音を響かせている。


 そして、リリンサが開いた入口から中を覗き込んで見たモンゼは、その不条理さに絶句。

 そこには、あろうことかベッドが2台も設置され、可愛らしい衣服タンスや大きめの鏡まで置かれていたのだ。


 どう考えても野営をする装備ではないが、召喚されてしまった以上、文句を言える道理もない。

 モンゼは引きつった表情で、肩をすくめて笑って誤魔化した。



 **********



「リリンサ君、水を召喚出来たりしないだろうか?」

「もちろんできる。《サモンウエポン=水樽!》。この水は飲み水にも使える綺麗な奴だから、好きな用途に好きなだけ使っていい」


「本当に何でもありすぎて、冒険に出なくてもリリンサ君が手放せなくなりそうだな」

「……。ナキに転移魔法を教えておく。私の代わりにして」


「はっはっは!やんわりと拒絶されたな!」

「あんたが気持ち悪い事を言うからでしょ。ソクト」



 食事が終わった後は、皿洗いなどの雑務の時間がやってくる。

 食事の準備はナキが主導で行う為に、片付けはソクトとモンゼの出番だ。

 普段ならスープを温めた鍋を洗う程度で済むが、今日は普段よりも人数が多く肉を焼いた鉄板などもある為に、あと片付けが多い。

 竈から炭を取り出して袋に詰めておいたり、串を磨いておく必要もある。


 これは一仕事だと思ったソクトとモンゼはさっそく取り掛かり、それが終わるまで新人冒険者とナキは、ワルトナとリリンサの指導を受けることになった。

 二人の才能を見たナキが、どうしても教えて欲しいと言い出したのだ。



「それでは第一回、ワルトナちゃんの魔法講習を始めます!」

「わーぱちぱちぱち。……ほら、あんた達も拍手しなさい」

「「「ぱちぱちぱち」」」


「さて、今日の議題は僕の氷結杭についてだ。さて、僕の氷結杭とナキさんの氷結杭、何が違うか答えられる人は挙手!」



 これ見よがしにホワイトボードをリリンに召喚させたワルトナは、ノリノリで魔法の解説を始めた。

 目の前には、5人の生徒。

 新人冒険者とナキとリリンサだ。

 なお、リリンサまで生徒側なのは、優秀な生徒枠という謎のポジションを与えられたからである。



「はい!はーい!」

「はい、ナキさんどうぞ」


「正直に言って、もはや別物だけど……ワルトナは無詠唱で氷結杭を使ってたわ!」

「その通り。僕は魔法名を唱えるだけで氷結杭を発動する事が出来る。それが出来るのは――」



 ワルトナは、無詠唱に関する知識を解説しながら、ホワイトボードに図解を書いて行く。

 それを簡単に説明するならば、『無詠唱魔法を扱うには、魔法の熟練度よりも、親和性が重要』となる。


 呪文を短くする為には、熟練度や品質の良い魔導書を手に入れる他に、身体と親和性が高い魔法を選ぶことが重要なのだ。

 いくら才能がある魔導師と言えど、不得意な魔法系を無詠唱で唱えようとしても限界がある。

 そういう部分は魔道具で補ったりも出来るが、そういった工夫をするよりも、親和性の高い魔法を極めた方がずっと効率がいいのだ。



「ナキさんは、僕の見た感じ、水魔法の親和性は高い方だと思う。練習すれば直ぐに使えるようになると思うよ」

「そうなの、やった!……あ、それとね、ワルトナの氷結杭は意思があるように動いて戻ってきてたわよね?あれは凄いわ。どうやってやるの?」


「あぁ、アレは氷結杭の先端から魔力を放出して、空気を凍らせて進路を変えてるんだ――」



 そこから、かなり複雑な魔法知識を説明され、それを一字一句丁寧にメモをとってゆくナキ。

 その真剣な顔を見て、シルストーク達もつられてメモを取るが、まったく理解できていない。

 そこで役に立つのがリリンサだ。


 リリンサは知識よりも、直感で魔法を使う事の方が圧倒的に多い。

 そして以外にも、魔力の流し方といった身体の感覚を説明するのが上手く、実際にシルストークやエメリーフ、ブルートの手を取って魔力を流し、体感的に教えている。

 しばらくすると、知識をしっかりと身に付けたナキもその輪に加わり、魔導書を使った実践へと進んでゆく。



「いくわよ……。《氷柱連なりし冷たき杭に、歯向かう事は許されんと知れ。発動せよ――氷結杭》」



 ナキは杖を構え、数m先の地面に書いた印に向かって氷結杭を唱えた。

 それは、今まで使っていた呪文より格段に短く、充分に戦闘に使用できる呪文だ。


 そして、詠唱が終わった瞬間、ナキの杖の先端に魔法陣が出現。

 見事、発動に成功し、長さ1m程の氷柱が地面に突き立てられた。


 その瞬間、後ろで見ていたシルストーク達から歓声が上がる。



「おぉ!ナキ姉ちゃんすげー!」

「カッコイイです!ナキさん」

「凄く深く刺さってそうですね。いいな、ボクも使ってみたい」


「……私、やったの?やったのね?氷結杭をあんなに短い詠唱で使えたのね?……あはは、やったわ!!ありがとぉワルトナ!!」



 そして、その喜びを噛みしめるように笑ったナキは、ワルトナに駆け寄った。

 そしてそのまま喜びの感情のままに、ワルトナを抱きしめて、はしゃいでいる。


 こんなにも早く魔法が上達したのには、当然、理由がある。


 ワルトナが持っていた、タダでさえ薄い氷結杭の魔導書。

 それを始めから終りまで音読して唱える事で、その人に取ってどれが正解の呪文なのかが、ワルトナとリリンサには分かるのである。


 それを可能にしているのが、こっそり仕掛けている、認識を共有する魔法『第九識天使ケルヴィム』。

 実は、第九識天使は視野情報のみならず、その他の五感も共有する事が出来る。

 だからこそ、氷結杭を発動できるワルトナ達には、正解の呪文を唱えた時に起こる魔力の微妙な高ぶりを感じ、呪文の成否を判定する事が出来るのだ。


 後は判明した語句を繋いでやれば、非常に短いその人専用の呪文の出来上がり。

 この方法ならば、適正のある魔法はすぐに実践で使える呪文に仕上がる。


 そして、ナキは見事に氷結杭に適正があり、おおよそ10秒で発動が可能になったのだ。



「ほら、あんた達見なさいよ!あの氷結杭、私が撃ったのよ!どう、すごいでしょ!!」

「良いなーナキ姉ちゃん。俺達には魔法の才能ないから、ああいうの出来ないし」

「うん、ボクも魔法を使ってみたいよ」


「ふっ、魔法の道はそう簡単に身につく物じゃないのよ!シル、ブルト」



 ナキの大人げないドヤ顔をうけたシルストーク達は、子供らしくブーイングをしている。

 そんな中、エメリーフとリリンサは二人で黙々と氷結杭の魔導書を読み進め……そして。



「できた。エメリ―フ、怖がる必要はない。やってみて」

「分かりました《……さざ波打つ空気、氷尽くす鼓動。貫き通すは己が信条なり――発動して!氷結杭!!》」



 エメリーフも、氷結杭を発動させた。

 瞬時に、ドスッ、っと重い音がして、ナキの放った氷結杭の隣にもう一本、氷の柱が突き刺さる。


 その氷杭の大きさはエメリーフの方が小さいが、撃ち出されたスピードはこちらの方が速く、威力的には同等だと思われた。

 ソレを見たナキは、ギリリ!と鋭い笑顔で、エメリーフを褒める。



「あら、やるじゃないエメリーフ。師匠として鼻が高いわ」

「え、えっと、その、あの、……ごめんなさい」


「良いのよ謝らなくて、才能があるもの同士、頑張りま――」

「《抗う意思など、凍てつく矛にて刺し殺さん!氷結杭》……え、あ、できました!」


「えっ」

「えっ」



 大人の余裕を見せようとしたナキの視線を奪う様に、氷結杭が飛んでゆく。

 逆算してその出所を見てみれば、そこにはブルートとワルトナの姿。


 流石に、剣士なはずのブルートが使った事にはナキも焦り、エメリーフも慌てている。



「「えぇぇぇぇ!なんで!?」」

「ん、今の所、ブルートが一番筋が良いっぽい。次はシルストークの番!こっち来て」

「よっし!俺も頑張るぜ!!」



 こうして、新人冒険者達は進化してゆく。

 皿を楽しげに洗っている二人の熟練冒険者を置き去りにして、進化してゆく。


 そして、ドラゴンを倒せる理不尽を目標としているリリンサとワルトナは、深い笑みを浮かべながら、どんどんエスカレートしてゆくのだ。


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