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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第19話「戦利品の分配」

「どうですか?少し落ち着きましたか?ソクト、ナキ」

「あぁ、心配を掛けたなモンゼ。大丈夫だ」

「私もよ」



 受け入れがたい事態を体験し、しばらく錯乱していたソクトやナキも、だいぶ落ち着きを取り戻してきた。

 まるで熟練の冒険者らしからぬ態度を披露してしまったが故に、失ったものも大きかったが、手に入れたものと比べれば些細なものだ。


 ソクトの目の前には、求め続けた連鎖猪が5頭も横たわっている。

 後ろで和気あいあいと騒いでいる幼女を無視していいのなら、小躍りしたい程の戦果だ。


 だが、実際にはそういう訳にはいかない。

 事実上、この連鎖猪を仕留めたのはリリンサとワルトナなのだと、ソクトも理解している。

 陽動だって立派な役割だとは知っていても、獲物の取り分の比率はリリンサ達が多くの割合を占める事は明白だった。


 どうにか角を多く譲って貰えないかと、交渉をしなければならないのだ。



「リリンサ君、ワルトナ君、本当に助かった、ありがとう。それでだ……この連鎖猪はどうやって分配しようか?」

「そうですねぇ。リリンはどうしたい?」

「全員で平等に分けるべき。あ、お肉は食べるべき!!」


「えっ、均等割りでいいのか?じゃ、じゃあ……戦闘に参加した私とモンゼ、リリンサ君とワルトナ君の4等分という事で……」

「んー、それでいいかい?リリン」

「だめ。それと、ご飯の用意もよろしく」


「えっ……。あぁ、食事の準備くらいはさせて貰うが……。高く売れる毛皮と角は別計算という事だろうか?」

「違いますよー、ね、リリン」

「同じチームのナキや、この場に同席しているシルストークやエメリーフ、ブルートを数に入れない意味が分からない。利益を独り占めするとかダメに決まっている!!」


「えぇっ!!」



 リリンサから平均的なジト目を向けられ、ソクトは硬直している。

 敵対することは命の危機に繋がっている上に、リリンサの言っている事の意味が分からなかったのだ。



「一見して見れば、そういう見方もできるだろう。だが実際は違う。何もしていないナキやシル達まで含めると、キミ達の取り分も減ってしまう事になる」

「……確かに減るけど、私達はお金に困って無いのでちょっとくらい減っても問題ない。それよりも、未熟な装備しか持ってないシルストーク達の強化を速やかに行うべきだと判断した」

「エメリーフの杖はともかく、それ以外は速やかに新調するべきで、お金はあるに超したこと無い。連鎖猪を売ったお金で装備を改めるべきだねぇ」


「な、なんて……」

「まだ言いたい事があるの?」


「なんていい子なんだ、リリンサ君ッ!!ワルトナ君ッ!!」



 ソクトは、己が浅ましさと愚かさを恥じた。

 目の前の利益ばかりを見て、自分が最も利益を欲しているからこそ、リリンサやワルトナもそうなのだと思ってしまったのだ。

 その冷えた考え方は、冒険者に必要なものだという事は分かっている。それでも……。


 目の前で屈託なく笑う二人の少女のようになりたいと、ソクトは思った。



「はっはっは、本当に凄いな!リリンサ君!ワルトナ君!」



 **********



「それでは連鎖猪の転送を頼めるだろうか?リリンサ君」

「分かった。ワルトナと一緒にしてくるから、それまでご飯の用意をしておいて欲しい」



 あれからいくつか言葉を交わして、早めの夕食を取ろうという事になった。

 ワルトナが「せっかく大物を倒したんですし、みんなで祝杯をあげましょう!」と言い出したからだ。


 その準備をしている間、リリンサが連鎖猪を転送しておくという事で話が纏まり、リリンサとワルトナ、それとエメリーフが一緒に行動する事になった。

 本当はナキも行きたそうにしていたが、ソクトとモンゼでは料理に不安が残る為、しぶしぶ残っている。



「エメリ、私の分までしっかり見て来て、ワルトナとリリンサがどんな事をしてたか教えてね。頼むわよ」

「はい。分かりました。……頑張って逃げないようにします」



 ものすごく温度差があったが、確かな信頼関係で結ばれている二人は、どうにか通じ合った。

 まるで恐ろしき敵に立ち向かう義勇兵な顔つきで、エメリーフはリリンサ達の所へ歩いてゆく。



「さて、リリン、連鎖猪を一匹、そこに転送してくれ」

「分かった《空間認識転移テレポスフィア!》」

「え?ふぉぉぉおぉぉぉおる!!」



 ズズゥン!っと地鳴りを響かせて、一番手前に居た連鎖猪が、ソクトの横に転移されてきた。

 危うく角が激突しそうなったが、持ち前の反射神経でギリギリ回避。

 その面白い動きに、シルストークは噴き出した。



「あ、調理器具もよろしく。ハイそこ退いてー危ないよー」

「ん。《サモンウエポン=キッチン道具一式!》」

「え?ふぅぅぅぅぅうぅぅる!?」



 ズドドォン!と地鳴りを響かせて、料理台、かまど、紐で縛った薪、包丁セット、テーブル、椅子、鍋、……などなど、が召喚された。

 まるで一軒家のキッチン丸ごと転移させてきたかの様な光景に、一同は唖然。

 たまたま近くに居たソクトだけは、その召喚に巻き込まれそうになり前方へ飛んで緊急回避している。


 その面白い動きに、無口なブルートまで噴き出した。



 **********



「さてと……エメリーフ。ついて来たねぇ、来ちゃったねぇ」

「ひっ。」



 漫才を繰り広げているソクト達を放置し、リリンサとワルトナ、エメリーフは連鎖猪の所までやってきた。


 連鎖猪は倒れているとはいえ、その体の厚みは、エメリーフの身長と同じくらいある。

 そんな理解しがたい化物を近くで見て震え上がっているエメリーフは、振り返ったワルトナに肩を掴まれた。

 まるで「次の獲物はキミだよ。」とでも言われてしまったかのように凍りつき、微動すらしない。



「おっと、そんなに怯えなくていいよ。取って食べたりはしないさ。ただね……」

「……。」


「今から僕はキミに実力を見せることになる。そして君は、それをソクト達にバレない様に誤魔化して欲しいんだ。分かるね?」

「あの……そもそも、何で実力を隠しているんですか?」


「あぁ、それはね……キミが思ってるよりも、僕らは強いからさ」

「え?アレ……よりも?」



 エメリーフはそれを聞いて、なんとなく嫌な予感がした。

 それでも、好奇心の方が勝ってしまうのは、冒険者の宿命なのかもしれない。



「ある程度は察したと思うけど、僕らは実力を大きく偽ってる。リリンに至っては本職は魔導師なのに、剣士をやってるくらいさ」

「えっ、あんな芸当ができるのに……?」

「剣士は仮の姿。本当は魔導師!」



 ふんす!と鼻を鳴らし、誇らしげに胸を張るリリンサ。

 エメリーフはその瞬間、理解した。

「あ、なんかこれ、かなり大がかりに騙されてるっぽい……」と。



「そんな訳で僕らは凄く強い。ソクト達よりもね。で、いきなり来た僕らが偉そうにしているとソクト達に迷惑が掛っちゃうから自重してるってわけさ」

「そうだったんですね?」


「そうそう。そんで僕は、空間魔法がリリンよりも上手なんだ。だから、僕が連鎖猪を転移させるよ」

「えぇー。じゃあ、さっきの転移陣を使わないんですか?蛇は一瞬でしたよね?」


「こんな血だらけの獣を転送したら汚れるでしょ。掃除するのが面倒なんだよねぇ」



 何かがおかしい。とは、エメリーフも思っている。

 ただ、何がおかしいのかは理解できなかった。

 それは不幸な事であり、幸運な事でもある。


 今からワルトナが使おうとしている魔法は、正真正銘、伝説級の魔法。

 ランク8の虚無魔法であるそれは……一人で戦争の戦況をひっくり返す事すらできる魔法であり、それをナキが見たのならば――再び錯乱し、泣きじゃくったであろう。



「ま、見てなよ。この魔法は、そうそう簡単に見れるもんじゃないからさ。《数百の軍勢はどこへ消えた?塵すら残らず消し去ったと申すのか?英雄を名乗りし者よ―― 《次空間の抜け穴(ウロボロス・ホール)》」



 その変化は、唐突に起きた。

 今まで何も無かった地面に、複雑な魔法陣が出現したのだ。

 何重もの円形が組み合わされたそれの中に、記号と文字を混ぜて作ったような象形文字が動き回っている。

 明らかな異常物体。

 普段から魔法を使い、魔法陣を見慣れているエメリーフですら見た事のないそれは、まるでこの世のものとは思えない真っ黒な黒穴を中心に穿っている。



「あれは……なに……?」

次空間の抜け穴(ウロボロス・ホール)。あの黒い穴は別の場所に繋がっている転移ゲートだ。一見して転送陣と同じに見えるけど、触れた物を吸い込んで別の空間に強制転移させる戦闘用(・・・)の魔法だよ」


「せ、戦闘用の転送陣って……普通のすら凄い魔法なのに……?」

「そうそう。キミ達が凄いと言っている召喚魔法や、転移陣よりも遥かに高度な――ランク8の虚無魔法。この魔法が使える奴なんて、この大陸で10人も居ない。リリンも使えないしね」


「ら……ランク8……?」

「あぁ、ランク8な所に驚くんじゃなくて、虚無魔法なところに驚いて欲しいんだ。なにせ僕もリリンも、ランク9の魔法を使えるからね」


「え。」

「いいかい。エメリーフ。僕らは本当に滅茶苦茶なくらい強い」


「え?滅茶苦茶……?化物イノシシを簡単に倒しちゃうのにもっと強いの?」

「あんなの準備運動にもなりゃしないよ。あの10倍の数の連鎖猪だって僕やリリンが本気を出せば数秒で全滅だね。こういう風に」



 そしてワルトナは、地面の魔法陣を拡張させ、横たわる連鎖猪へ触れさせた。

 その瞬間、小山のようだった巨体は消え去った。

 まるで手品のようなあっという間の出来事に、エメリーフは悲鳴をあげる。



「ふぇぇぇぇ。何それ怖いぃぃぃ!!」

「こんな事を僕もリリンも当たり前にできる。そしてキミにも出来る可能性があるよ、エメリーフ」



 ワルトナが良い笑顔で語ったその言葉は、到底信じられないものだ。

 だが、先ほど見た光景が、その言葉に信憑性を持たせている。


 混乱し始めたエメリーフは、一週回って冷静になり、ワルトナとリリンサを見た。



「わ、私にも、さっきみたいな事が出来るんですか……?」

「おっと、前向きで良いね!ま、それを教える条件は前に言った通り、『僕らと仲良くしてくれること。怯えずにね』。できるかな?」


「怯えないのは、無理な気がする」

「そうそう。そんな感じなら大丈夫だね。じゃ、これからキミ達へ魔法を教えて行くけど、その間、ソクト達に怪しまれない様にしておくれ。二人に教えている時には一人が気を引いて欲しい。順番でね」


「あ。シルストークがやらされてた奴……。でも、それが必要な事ならやります」

「良い返事だ。さてと、その前に、エメリーフにちょっとお願いがある」


「お願い……ですか?」

「そうそう。30分くらい僕らは森を散策してくるよ。その間、適当に誤魔化しておいてくれ」


「え?」

「それじゃ、頼むよ!」


「えぇっ!?」



 それだけ言って、ワルトナとリリンサは森の奥深くへと走り出した。

 訳が分からず、その場に残されたエメリーフはしばし呆然とし……。

 ソクト達の所に戻ってきた。



「くそう!!なんて堅いんだこの角はッ!!剣じゃダメだッ!!ナキ、ノコギリを出してくれッ!!」

「ふぅ!ふぅ!毛皮も厚く、なんて強靭なのでぇぇぇすぅぅぅ!?くぅ……包丁じゃ無理ですね。ナキ、拙僧にはサバイバルナイフを!」

「ノコギリにナイフね!分かったわ。ほら、シル、ブルト、あんた達も手伝いなさい!」


「……。」



 先ほど見た光景とのあまりの格差を見て、エメリーフは溜め息を吐いた。



 **********



「ワルトナ、私はどうすればいい?」

「近くに危険動物がいないかどうか索敵。見つけたら殲滅で。あと、危険が無い限り魔法は使わない方向で」


「りょーかい。ワルトナは?」

「僕は一足先に結界の所まで行って状況を見てくるよ。流石に結界が完全破壊とかしてたら困るし」



 深い森を走り抜けながら、リリンサとワルトナは言葉を交わす。

 別の目的があって森に入ったと言えど、危険生物対策の結界が破損している状況を放っておく事など出来ない。

 だからこそ、30分という短い時間であるが、二人は情報収拾に出掛けたのだ。



「集合は30分後にさっきの場所で。居ないと思うけど、レベル99999(最大値)を見かけたら手出しはしないでね。危険だから」

「分かってる。ワルトナも気を付けて」



 そして二人は別れて森の中へ消えてゆく。

 程なくして、森の奥から妙な鳴き声がするようになったが、連鎖猪に夢中なソクト達は気が付く事は無かった。


……風邪、治りました!(回復・∀・)b

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