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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第18話「狼狽する熟練冒険者」

「「ど、ど、……」」

「ど?」


「「どげなありえなかとぉぉぉぉ!?」」

「あ、こっちも壊れた。簡単に壊れ過ぎだと思う!」



 颯爽と連鎖猪を足止めし終えたリリンサは、平均的な満足顔でソクトとモンゼが立ち尽くしている所まで戻ってきた。

 ここに来る途中でウォーターボールを出して桜華を洗浄、鞘に納刀済みであり、先ほど感じた覇気もない。

 さりげなくランク1の魔法を無詠唱で使った事は、ソクト達にとって些細な事でしかなく、もっとも気になる事を聞くために、口を開いた。



「い、いや、冗談だが……。リリンサ君、なんだ今の動きは……!?」

「そ、そうですよ、一人で群れに突っ込んで孤軍奮闘などと……」


「一人じゃない。さっきのはワルトナの指示だし」

「……ワルトナ君の?何を言われたんだ?」


「ワルトナに足止めしてって言われたから斬ってきた。私は剣士。剣士だから近づかないと斬れない!」

「足止め!?今のが足止めッ!?!?何かがおかしくないかッ!?」


「全然おかしくない。しっかり脚を斬って行動不能(足止め)にした。完璧だと自負している!」



 リリンサの平均的なドヤ顔を見て、逆に自分達が夢でも見ていたのではないかとソクト達は思った。

 だが、奥の方で死んでいる五つの小山を見て、正気に戻る。


 最早、自分だけでは対処不能だと思った二人は、お互いに顔を合わせ頷きあった。

 熟練の冒険者たる二人のアイコンタクトが示しているのは、秘密会談。

 リリンサへ、「すまない。少しモンゼと打ち合わせをしたくてね、あぁ、思わぬ収穫に心が躍るよ。はは……」といって離れて行った。



「なぁ、モンゼ……。無知な私に、足止めの定義を教えてくれないか?」

「牽制攻撃を仕掛けて注意を引く事です。基本的に遠距離攻撃が出来る魔導師が行いますね」


「だよな……?なんだあれ。私の知ってる足止めと違うんだが?」

「えぇ、あれは明らかに致命傷でした。あのまま待っていれば五分ほどで全滅したでしょう」


「だっ……だよな……。モンゼ、正直に答えて欲しい。リリンサ君と戦って勝てると思うか?」

「えぇ、正直にお答えしましょう。無理です。連鎖猪の横に添い寝することになるでしょう。確実に」


「……。」

「……。」


「……では、質問を変えるが、あのまま戦って連鎖猪に勝てたと思うか?」

「えぇ、正直にお答えしましょう。無理です。というか、よくよく見ればでかすぎでしょ、あの連鎖猪。なんだあれ、化物か」



「……。」

「……。」


「あぁ、マジでどうかしてるぞ、あの強さ」

「ホントですね。元聖職者の私が言います。悪魔か何かの末裔で――」

「ねぇ、まだ打ち合わせは終わらない?」


「「ふぉあああああああ!?オワタァァァァッッ!!」」



 ソクトとモンゼの打ち合わせが段々と暴言じみて来た事、リリンサは音もなく現れた。

 マズイッ!聞かれたか!!と身構えたソクトとモンゼは、リリンサの平均的な表情を見て、安堵。

 バレていないと判断し、なんとか体勢を立て直す。


 もっとも、リリンサにはこのやり取りは全て聞こえている。

 ランク4のバッファ魔法が掛っていて、聞こえないはずが無いのだ。

 そして二人は、リリンサの分かりづらい平均的な表情を見て安堵したが、実際は桜華を握る手の締め付けが強くなっている。



「打ち合わせが終わったのなら、今度は皆で話す番!」

「あ、あぁ、っとその前に……凄い働きだったぞ!リリンサ君!!まさに剣士かくあるべきという動きだった!!」

「そうですね!!この拙僧も感涙して前が見え無くなりそうです!」


「アレくらいできて普通。あなた達もここで冒険者を続けたいのなら、出来るようにならなくちゃダメ」

「はっはっは!これは手厳しいな!」

「そうですね!拙僧達も精進しなくては!!」


「いや、これは本当の話――ん?」



 リリンサはワルトナから実力を見せていいと言われた事により、新人冒険者プレイは終了なのだと思った。

 だからこそ、連鎖猪がいた事の意味を告げようとして――心の声で、ワルトナから待ったが掛った。



『待て待てリリン。新人冒険者プレイは続行だ』

『ちょっと厳しくない?疑われ始めてるし』


『大丈夫。そこにはもう一手打ったからね。ともかく、まだ新人冒険者を続けよう』

『それはいいけど……。早く行かないと、結界の破損が拡大して被害が出るかもしれない。急ぐべきだと思う』


『だからさ。いま、ソクトさん達を転送魔法で送り返すとどうなるかと言えば、『結界を破って連鎖猪が来ている!全員で討伐しよう』となるよね?』

『うん。連鎖猪は美味しい。進んで狩りに来ると思う!』


『連鎖猪は、一つの群れに対して3倍以上の冒険者で挑めば難しくない。で、ノコノコやってきた稚魚冒険者達は遭遇する訳だ。ドラゴンとか真頭熊とかいう、数を揃えれば勝てるなんてもんじゃない、本当の化物に』

『……。全員、食べられると思う。弱肉強食!』


『という事で、ソクトさん達を解放するのはドラゴンを見せて、事態をキチンと理解させてからだ。それまでは一緒にいて貰う必要がある』

『分かった。で、どうするの?』


『シルストークがそっちに行ったよ。適当に話を合わせてくれれば上手く行くはずさ』

『りょーかい』



 念話を終わらせてキョロキョロと見渡してみれば、直ぐ近くにシルストークがやって来ていた。

 その顔色は悪く、酷く緊張した表情で、挙動不審な目をリリンサに向ける。




「リ、……リリンサ!!今の凄かったな!!良く分からなかったけど、めちゃんこカッコいいぜ!」

「ん、ありがと。でもシルストーク達もこれくらいできるように頑張って欲しい!」


「え”え”っ。無理だ……うん、頑張るぜ!!」

「よしよし、後でやり方を教えてあげる」



 その同年代の子供達の可愛らしいやり取りを見て、ソクトとモンゼは先程の大事件が夢なのではないかと思った。

 だが、奥の方には相変わらず、五つの小山がある。


 くっ、夢じゃなかったか……。と本気で思い、シルストーク達の会話に入ろうと口を開く。



「はっはっは!そうだぞシル!リリンサ君くらい凄い剣士にならなくてはな!はーはっはは!」

「……ソクト兄ちゃんもね」


「えっ。」

「ソクト兄ちゃん達は、倍数以上じゃ無ければ勝てるって言ったのに、何も出来なかったじゃん」


「あ、いや、それは……」

「……兄ちゃん達って、連鎖猪に勝てないんだね。全然、大したこと無いじゃん」



 シルストークが言い放った、ワルトナ謹製の『氷結魔法(冷たい失望)』を受けたソクトとモンゼは、凍りついた。

 それでも、必死に言い訳をするソクトとモンゼ。

 ものすごく後ろめたい感情に、胃が痛くなるシルストーク。

 それを見ていたリリンサは、「なるほど」と頷いて、ちょっかいを出し始めた。



「シルストーク。勘違いしてはいけない。私が連鎖猪をスムーズに斬れたのは、注意を引き付けてくれたソクトとモンゼがいたから。パーティーとしてみれば役割を充分に果たしている」

「……!そ、そうだぞシル!私達は私達の役割を果たしただけだ!」

「そうですよ!あのまま行けば痺れを切らした連鎖猪が一匹ずつ飛び出して、消耗戦に発展したはずなのです!」


「……あー。」

「そう!私はそれを狙っていたんだ!いやーリリンサ君に見事に一本取られてしまったな!ははは!」

「ですね!」



 それは、みっともない大人の、ちっぽけなプライドを守る為の攻防。

 これはワルトナが仕掛けた逃亡防止装置で、対抗心を煽り、逃げ帰るという選択肢を取らせない為のものだ。


 ソクトとモンゼはしっかりと罠にはまったが、シルストーク自体は、さっきのは仕方が無いと理解している。

 ワルトナから状況説明をされているし、なにより、自分達が尊敬する中で一番強かなナキが涙をこぼすという異常事態を見たからだ。


 それでも、見苦しい大人の良い訳に、シルストークの価値観は冷めていき……最後には、自分の本音を呟いた。



「あのさ、兄ちゃん。連鎖猪は単体で仕掛けてこないから。あのままだと完璧な連携されて20秒で殺されるから。」

「……。」

「……。」



 シルストークの蔑むような眼差しに、ソクトとモンゼが魂まで凍りつく。

 そして、どうにか起死回生の一手は無いものかとキョロキョロと辺りを見渡し、今回の戦いで自分たちよりも戦いに参加していない存在に気が付く。

 そして、早速、ナキに向かって歩き始めた。


 まるで罪を擦り付けるような行いだが、実際、ナキが働けなかったのはパーティーに取って致命的であり、指導する必要がある。

 長年一緒に冒険者をしており、『逃げるよりも、まず攻撃魔法!』が信条だと知っているソクトは疑問を覚えているが、顔を真面目に切り替えてナキに近寄った。

 


「どうしたんだ、ナキ?なぜ何もしなかっ……!」

「どけなかせんと……いかんとは思っちょった。でもば、あんなおげにゃ化けモンらめらもん……。」


「……ヤバい。私でも聞き取れないぞ」

「怖かっがた。こわぐてちびっただにゃ、えっえっ……うぇぇぇぇ!い、いぎで、えぇっ、えっ……そく、もん……うええええええん!」



 ソクトの前で、号泣するナキがワルトナにしがみつき泣きじゃくっている。


 連鎖猪の強さを聞き、熟練の冒険者の感がそれを肯定した。

 それでも戦闘中という緊張感が、ナキを踏み留まらせていたのだ。


 だがそこに、悪ノリ大好きワルトナちゃんの無慈悲な氷結杭がブチ刺さった。


 えっ。っと言う間に連鎖猪を5匹刺し殺した戦慄の光景と、戻ってきた赤く色付いた見事な氷結杭を見て、絶句。

 魔導師としての、いや、生物としての格の違いを思いしり、劣等と安堵の涙を流しているのだ。



「えっっ、ひっく、えっひっくひっく。おかしいもん。あんにゃの、無理にゃもん……一生かかっても出来にゃいもん……」

「よしよし、怖かったね。ビックリさせっちゃったねぇ。僕が一緒に居るから安心だよー」


「うん。一緒にいてね。離れちゃ、やらからね……」



 ギュッと。ワルトナを抱き絞めて、ナキは頬をすりよせている。

 まるで子猫が親猫に甘えるようなその光景に――自分でも手を焼く事がある凶暴な仲間の変貌を見て――、ソクトとモンゼは絶句。

 その近くでは、ブルートとエメリーフがハンカチを持ってウロウロしているが、それも含めて触れてはいけないと、ソクトは視線を反らしてワルトナを見た。



「わ、ワルトナ君も、みごとな魔法……?魔法だよな?あれ」

「はい。僕がよく使う必殺技です!」


「……そうだな、必殺だな。ドラゴンも殺せそうだ」

「あードラゴンは無理ですねー。鱗に弾かれるんで」



 さらっと、気になる事を言われた気がしたが、ソクトは聞かなかった事にした。

 今の言い方だと、まるでドラゴンに氷結杭を撃ち込んだ事があるように聞こえたが、勘違いだろうと身なりを正す。


 そして、ソクトは振り返り、奥の方で転がっている五つの小山を眺めた。

 感嘆たる思いを声に乗せ、ほう。っと吐き出す。




「あぁ、これでヤミィルは5年も寿命が延びることになる。死を悟り、笑わなくなってしまった笑顔を取り戻せるかもしれないな」



 その言葉は、直ぐに風に流されて消えた。

 そして、拳を強く握りしめながら、ソクトは更に熱い思いを吐き出す。



「で、この状況をどうやって説明しろとッ!?私は作家じゃないんだぞ!!おとぎ話は専門外だぁぁッ!!」


風邪を引いたから、更新できない?

……嘘だっ!(狸・皿・)b


なんてスミマセン、めっちゃ熱高いです。

次話の更新(金曜日)が出来なかったら、日曜日になります~~

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