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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第16話「求めし獲物」

「これはいよいよ、リリンサ君達が必要不可欠になりそうだな、モンゼ」

「そうですね!リリンサさん達がいれば危険なんて起こりようがありません!」



 ブレイクスネイクを瞬時に転送するという利便性を見せつけられたソクトとモンゼは、非常にご機嫌だ。


 冒険者とは、『取捨選択の職業』と呼ばれる事がある。

 提示されている依頼のどれを選び、どれを捨てるのか。

 狩猟した獲物のどの部位を持ち帰り、どの部位を捨てるのか。

 パーティーが全滅の危機に瀕した時、誰を助け、誰を見捨てるのか。

 そういった取捨選択の積み重ねこそ、冒険者の本懐であり、ソクト達もそうやって冒険者として過ごしてきた。


 だが、例外という物はどこにでも存在する。

 そんな、理解が及んでいない例外を行使できる二人組の少女を手に入れた事により、二人の気分は絶頂となっているのだ。


 そして、楽しげに笑っている獲物を背後から見据えている例外少女達は、「笑っていられるのも、今のうち」とぺろりと唇を舐めた。

 それを不運にも見てしまったシルストークは、「これが蛇に睨まれたカエルって奴か」と、昔ソクトが語ってくれた話と重ね合わせて震えている。



「ねぇ、リリンサ、ワルトナ。あなた達って一体どれほど凄い魔道具を持ってるの?魔導書はもう無いのよね?」

「……ん。それは……」



 最後尾にいるナキから疑いと探りの声を掛けられたリリンサは、言葉に詰まり視線が泳ぐ。

 ワルトナと違い、色んな意味で素直な性格のリリンサは嘘を付くのが得意ではなく、直ぐにボロが出てしまうのだ。


 ちょっと困ったリリンサは、救援の視線をワルトナに向けフォローを求めた。



「実は……魔道具については、ちょっと自慢したいくらいに凄いのを持ってるんだ。ね?リリン」



 そして、良いタイミングだと思ったワルトナは、フォローに入りつつ話の主導権を奪いに行く。

 リリンサに限定的な話題を振ることで、情報統制をしているのある。



「ん。この殱刀一閃・桜華なんて、とてもすごい刀。切れ味が抜群すぎて、ちょっと危ないくらい」

「へぇー。どのくらいすごいの?」


「実はこの刀には魔法が込められている。だから、そんじょそこらの剣とは比べ物にならない」

「えっ。魔法剣なのそれ!?」


「そう。ぶっちゃけ国宝級。オタク侍の部屋に飾ってあった奴だし」

「……部屋に飾ってあった?その剣は師匠から授与されたものなのよね?勝手に持ってきてないわよね?」


「……。」

「その沈黙はダメな奴よ!?」



 リリンサが沈黙したのは、ナキの指摘が的を射ていたからである。

 だが、正確には無断で拝借しようと持ちだしたが、剣皇・シーラインの許可も得ているという複雑な状況であり、上手い切り返しが浮かばなかったのだ。


 修行時代のリリンサがシーラインの私室に遊びに行った時、殱刀一閃・桜華の美しさに一目惚れしてしまった。

 桜華がどうしても欲しくなったリリンサは、姉弟子と共謀し数か月かけて策を練り、見事に強奪を成功させる。

 その後バレて叱責を喰らったが、「我の部屋から持ち出すとはやるじゃねえか。名実ともに一本取られた訳だし、褒美にその剣はくれてやる」と与えられたのだ。



「勝手に持ち出したのは事実だけど、その後でちゃんと許可は貰っている」

「……良かったわ。で、その刀にはどんな魔法が込められているの?」



 再びリリンサの視線が泳ぐ。

 その質問にどう答えていいものかと、リリンサは再び黙ってしまった。

 これは答えないのではなく、どう答えていいか分からないが故のものだった。


 そんなリリンサの複雑な表情を見て、三人の人物が眉をひそめた。

 ナキ、シルストーク、ワルトナだ。

 それぞれ意味合いが違うが、疑問の声をあげたのはシルストーク。

「そもそも魔法剣ってなんだ?です?」とナキに聞いている。



「魔法剣って言うのはね、魔導杖と同じ役割を持っていて魔法の発動をサポートしてくれる剣の事よ」

「へぇー。そんな剣があるんだ」


「で、その中でも凄い魔法剣は、魔法陣そのものが刻まれてて、決められた魔法を発動できるの」

「えっとそれじゃ、魔法が使えない俺でもファイアーボールとか撃てるって事?」


「そういう事よ。ソクトが持ってる剣も魔法剣で、サンダーボールが放てるわ」

「あ、それ、兄ちゃんの必殺技の『雷光剣らいこうけん』でしょ!?」


「そうよ。切った瞬間にサンダーボールを放って相手を感電させるの。非常に強力な技で、私達『轟く韋駄天』の必殺技でもあるわね」



 その解説を聞いたシルストークは目を輝かせ、リリンサは「……。サンダーボールじゃ連鎖猪は厳しい。せめて雷光槍くらいは必要」と平均的な表情で考察している。

 だがその呟きは空を切り、ナキの質問に掻き消されて誰にも届いていない。



「で、リリンサの剣にはどんな魔法が込められているのかしら?炎?雷?風?教えて欲しいわ」

「どれも違う。この桜華は、攻撃魔法が仕込まれているタイプの魔法剣ではない」


「ん?どういうこと?」

「魔法剣には二種類あって、何かの魔法が付与されているものと、魔法的効果を宿したものの二つに分けられる。桜華は後者」


「ということは、魔法並みの凄い性能があるという事?」

「そういうこと」



 ナキは魔導師であり、リリンサが言っている事の違いが良く分からなかった。

 魔法を放てる剣と、魔法並みの性能の剣。

 結局どっちも魔法効果があるじゃない。と思ってしまったのは、剣を振るわない魔導師ゆえの失態だ。


 もし、この話を聞いているのがソクトだったのなら、その意味の違いに気が付いただろう。



「それって同じ事よね?何か違いがあるの?」

「全然違う。後者の方がより優秀で、結果的に戦力がまるで違うということになる」


「良く分からないけど……。結局その剣は何ができるのよ?」

「ん、この桜華は……凄く良く斬れる!」


「そりゃ斬れるでしょ。剣なんだし」

「普通の剣なんかとは比べ物にならないくらい良く斬れる!!」


「魔法みたいに良く切れるって事?んー凄さがイマイチ分からないわ」

「むぅ……。ワルトナ、説明して!!」



 剣の性能を熟知しているが語弊力のないリリンサと、剣に対して理解のないナキの攻防は平行線を辿った。

 そこでリリンサは、一撃必殺を求めて、ワルトナに事態をブン投げた。

 困った時に助けてくれるから、リリンサはワルトナへ絶対の信頼を置いている。



「はいよー。桜華についての説明をすればいいんだろうけど……弱、中、強、鬼どれがいい?」

「鬼で!」


「鬼ランクの説明、オーダー入りまーす」



 それはまるで、子供がふざけている光景そのもの。

 だが、ワルトナがナキを見上げる視線は真剣そのものだ。

 ゾクリと背筋に冷たいものが流れた気がしたナキは、その正体に気が付かないまま、ワルトナへ視線を向けてしまった。



「殱刀一閃・桜華。剣皇国・ジャフリートの七刀国宝の一本であり、その性能は『万物両断』だ」

「え?」


「斬った対象物の硬度を固定し、刃が通り抜けるまで保持し続ける。つまり、刃が0.1mmでも食い込んだのなら、その物体は斬れたって事であり、その硬度に固定するという事は、確実に両断が出来るって事になる」

「ふえ?」


「剣で生物を斬るという行為は実はすごく難しい。外皮と肉の硬度は違うし骨だって違う。鎧を着ていれば尚更で、その境界面が変わる時に剣はブレてしまう。結局、剣士の技量というのは、このブレをいかに無くすかってことなんだ」

「ぶれ?」


「肉から骨に入る時は、力を増せば案外斬れる。が、問題は骨を斬り終えたとき。余った力が剣を激しくブレさせて、筋繊維の中で剣が止まってしまうんだ」

「なん……なん……」


「だけど、桜華ではそれが起こらない。桜華が生物の外皮を切り裂いた瞬間、その先にある『内外皮』『筋繊維』『神経』『骨』も皮と同等の硬度となり、今現在の力で斬れる物体へと強制的にランクダウンされる」

「なん、なんばしよ……」


「だから、剣の達人がやるような一切ブレのない剣筋で斬ることができるんだ。簡単に言うと、素人が使っても達人になれる剣。それが、この殱刀一閃・桜華の能力さ!」

「なんばそげな剣!?ありえなかとぉおお!?」



 ワルトナが行った説明は『鬼』ランク。

 つまり、相手の事を一切考慮せず、事実を余すこと無く説明して、ビックリさせて欲しいとリリンサは言ったのだ。


 そして、その狙い通りにナキは驚いている。

 うっすらと、目に涙すら浮かべて。



「何よその剣!?そんな剣あるはずないわよ!?」

「ん。でも、実際にここにある」


「か、勘違いよ!切れ味が凄いからそう思ってるだけで、相手の硬度を変えるとか、そんな高次元魔法が付与されてるなんて……そんな……」

「むぅ、信じてくれな……あ。」


「こ、今度は何よっ!?」

「ちょうどいい。獲物がいたから試し切りをしてあげる。よく見てて」


「えっ!?えっ!?何を言ってるの?獲物なんてそんなのどこにも……」



 そう言いかけたナキは口を閉ざし、目の前の人物達に視線を送った。

 そこでは最前列で森を進んでいたソクトとモンゼが立ち止っている。


 正確には、立ち止り、肩を揺らして絶句している。



「お、おい……。あれって……」

「連鎖猪……ですね……」


「あぁ、なんてこった……。今日みたいな日に出くわすなんてな」

「探し始めて2年。子供の連鎖猪を一匹見つけただけで……正直、この森には生息していないと思っておりましたが……」


「ははは、本当に今日はなんて日だ。追加で角が10本も手に入るなんてな。まったく……嬉しい限りだね」

「そうでありますな。ですがそれは……生きて帰れればの話ですが」



 ソクトとモンゼが立ち尽くす道のその先。

 狭くなりつつある道幅を塞ぐように、獣の群れが聳え立っている。

 それは、ソクトが欲してやまない目標であり、あまりにも高い壁だった。



 ―レベル42462―

 ―レベル37564―

 ―レベル44320―

 ―レベル39562―

 ―レベル56229―



 乱立するレベル表記を見たこの場にいる全員が、ごくりと唾を飲む。

 緊張から無意識に唾を飲んだ者が6名と、夕食のメニューに想いを馳せているのが2名。


 随分と温度差があるが、そんなことは連鎖猪には関係ないことだ。

 人間という害敵を認識し、けたたましい鳴き声をあげている。

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