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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第12話「シスター」

『……英雄じゃないんだ。じゃ、別にどうでもいい。興味もない。稚魚だし』



 12歳の少女が言い放ったとは思えない辛辣な感想は、リリンサの心の声だ。


 ワルトナと魔法で心を繋げているリリンサは、気になっていた事の答えを聞いて納得したように頷く。

 リリンサがそう思ったのには、二つの理由がある。


 一つは、ソクトのレベルは3万程度であり、連鎖猪にすら苦戦しそうだという事。

 50匹を越える群れとなればドラゴンですらくびり殺す連鎖猪も、リリンサが本気を出せば100本の高級素材へと瞬時に変わる。

 リリンサにとって連鎖猪とは、オイシイ獲物以外の何者でもない。


 そしてもう一つの理由。

 それは、リリンサが所持している、ユニクルフィンへ直接つながる唯一の手掛かりと見比べた結果だった。



『第一、アイツはユニクルフィンじゃない。カードに載ってる写真と違う!』

『そうだね。「ゆにクラブカード」の写真と見比べて全然違うねぇ。ユニクルフィンの方が1億倍カッコイイし』


『私もそう思う!ユニクルフィンはカッコイイ最強の英雄!!連鎖猪とか、1秒で1億匹倒せると思う!!』

『なんだそれ。神話か何かかな?』



 リリンサが授けられし神託には、1枚のカードが同封されていた。

 漆黒に輝く、手のひらサイズの金属板。

 そのカードこそ、ユニクルフィンを探す手掛かり『ゆにクラブカード』であり、表面に赤い髪の少年の写真が映し出されている。

 ユニクルフィンの顔写真のみが映っている不思議な魔道具であるそれは、唯一の直接的な手掛かりだ。


 そんな、細すぎる活路を辿りながら、この広い世界で一人の人物を探す。

 普通の感覚ならば、それは不可能というものだろう。

 だが、リリンサは信じている。

 ユニクルフィンと出会うのは運命で決められていると、信じて疑わないのだ。


 ……ただし、今回はハズレだった。

 そうして、リリンサの興味はソクトから失われたが、ワルトナは未だにソクトに興味を示している。

 正確には、ソクトが所持している権力をどうにか奪えないかと、目を輝かせているのだ。



「ソクトさん、それで連鎖猪の角を欲しがる理由って……」

「あぁ、それはな……。シル達が在籍している孤児院のシスター、『ヤミィル・グレール』を救うためだ」


「えっと、シスター・ヤミィールって事ですか?」

「そうだ。ヤミィルは不安定機構から正式にシスターだと認定されているし、そう名乗ってもなんら問題ない」


「へぇ……、シスターか。……暗劇部員シスターねぇ」



 ビンゴだ!幸先がいいねぇ!!

 まさか闇に紛れているはずの暗劇部員がこんなに目立つ所にいるなんて、とっても幸先がいいじゃないか。

 英雄は居なかったけど、悪女がいたなら、それで良しだね!



 ワルトナは内心で歓喜を露わにし、無邪気に笑う。

 密かに設定していた第二目標を見つけて、純粋に喜んでいるのだ。


 不安定機構には、様々な暗躍を仕事とする『暗劇部員あんげきぶいん』と呼ばれる者達がいる。

 その者達は『導くもの(シスター)』とも呼ばれ、人の世にて暗躍し、裏で権力を握っている事も少なくない。

 言ってしまえば、暗劇部員が街を支配している事は度々あることだ。

 市長や領主がその役割を担っていたとしても、実質的な支配者は暗劇部員であり、仮初の玉座に座る身代わりでしかないのだ。


 それを良く知るワルトナは、表の顔役のソクトと、裏で実効支配しているであろう存在を探していた。

 ユニクルフィンが居ない以上、別の目的を立てるのは自然な事だ。


 そして、ワルトナが選んだ目標はこの『エルダーリヴァ―』の実質的支配。

 ドラゴンが目撃されているという情報を得た時から見据えていた目標だ。


 目標を立て終わり、獲物の尻尾もつかんだ。

 後は引きずり出して従えるだけだと、ワルトナは邪な気持ちで無邪気を演じる。



「えっと、確かシルストークの話だと、毒を受けてしまって大変なんだよね?」

「そうだ。ヤミィルはヨミサソイに刺されてしまってな。このまま治療をしなければ……あと半年も生きられない。そんな状況だった」


「半年って、すごくピンチですよね!?でも角があれば助かるんですか?」

「助かる……というより、半年の延命が出来ると言った方が正しい。だが、それでもヤミィルに残された時間が倍になるのは事実なんだ」


「そうですか……。もっと角を僕らが持ってれば良かったのに。ごめんなさい」



 そう言いながら、ワルトナは沈痛な表情で頭を下げた。

 そして、それを横で見ていたシルストーク達も謎の腹痛を覚え、頭を下げて苦しんでいる。

 人生初の、後ろめたさからくる胃痛である。



「ワルトナ君、どうか頭を下げないでくれ。なにせ、僕が2年もかけて手に入れた角は、この半分の大きさが一本だけなんだ。なんて情けない。これで英雄の子孫を名乗るなど、おこがましいにも程がある」

「ん?英雄なんですよね?」


「いや、私の祖先が英雄だったと言われているだけで、私自身は英雄でない。そう回りから煽てられて調子に乗っているだけの冒険者だ」

「えー。そんなことないですよー。僕から見たら凄いですよー」



 明らかな棒読みでの鼓舞。

 それでも、年下とはいえ一目置いている存在からの言葉にソクトは元気を貰い、いつもの調子に戻ってゆく。

 やがて、ソクトが元気を完全に取り戻したのを見計らって、ワルトナは口を開いた。


 ……ダメ押しの追撃である。



「ソクトさんはレベルが三万を超えてるじゃないですか。この街最強なんですよね!?」

「ははは、よしてくれ。確かに私は最強だが、それはヤミィルがいないからでもある。アイツは腕の良い魔導師だったからな」


「おや?実力を知っているなんて、仲が良かったんですね?」

「それはそうだ。私とヤミィルは同じパーティーだったからな」


「同じパーティー?」

「駆けだし冒険者の頃の話だ。私達は『鳳凰の卵』という熟練冒険者チームに所属していたんだ」


「その人たち、どこに行ったんです?もう居ないですよね?」

「ヤミィルがヨミサソイに刺されてしまったのがきっかけで、別の街に拠点を移したよ。もともとこの街に来た流れの冒険者だったし、私達とは違って、あまり稼げないこの地に留まる理由もないからな」


「良くある話だねぇ。でも元気出して下さい!連鎖猪を見かけたら僕がちょちょいのちょいってやっつけて見せます!」

「ははは、期待しているよ」



 ソクトのその軽快な笑い声を聞いて、シルストーク達は震え上がった。

 角の山を見ている以上、ワルトナなら間違いなく連鎖猪を瞬殺するだろうと思っているのだ。


 そしてそれは事実であり、ワルトナも黒い笑顔を浮かべている。

 笑顔で取り繕いつつ、考察をしているのだ。



 ……ふむ?ちょっとおかしいねぇ。

 そのヤミィルってのが暗劇部員なら、連鎖猪の角なんて簡単に手に入るはず。

 だがそれをしないのは何でかな?お金が無いか、はたまた、別の理由があるのか。


 ヤミィル……。『闇にいる』、か。

 コードネームにピッタリな名前だし、たぶん暗劇部員だと思うんだけど……。

 違うって事あるのかな?

 よし、調べてみよー。



「それにしても、ソクトさんと同じくらい強い冒険者さんですか。レベルってどのくらいなんです?」

「レベル?……はて?そう言えばヤミィルのレベルなんてしばらく確認してなかったが……。シル達は知っているか?」

「えっ。知らないよそんなの!」


「知らないんだ。そうかいそうかい」



 うん。確定。

 認識阻害が掛けられているなら間違いないね。

 だが、連鎖猪の角ごときを手に入れないのは何でだろ?

 何か策謀があるのか、それとも……?



 心の中で考察しつつ、そろそろ話を纏めるかとワルトナは動きだした。

 ヤミィルの狙いが不明瞭であれ、一番最初に打つべき一手はもう決まっている。


 その一手とは、『ソクト達を精神的にボコボコにして隷属させ、支配する』。

 まずは表の顔役を手に入れようと、ワルトナは可愛らしい顔をソクトに向けた。



「あの、それで、一緒に冒険しに行くのって、いつになりそうですか?待ちきれないから早く行きたいんですけど」

「そうだな……。明後日なんてどうだろうか?明日はこの角で薬を作りに行きたいしな」

「はぁ?何言ってるのよソクト。今から行くに決まってるじゃない!!」



 その言葉の発生源はナキだ。

 だが珍しくモンゼもその言葉に同意を示し、頷いている。


 いつもは意見が合わず喧嘩ばかりしている二人の同調に、ソクトは驚きの声をあげた。



「どうしたんだ二人とも?何故、今日森に行く必要がある?」

「何を馬鹿な事を言ってるの?ワルトナが森に行きたいって言ってるんだから、行くに決まってるじゃない」


「いや、理由になって無いだろう」

「理由なら拙僧がお答えしましょう。ワルトナさんとリリンサさんの実力を確かめるのは、出来るだけ早い方が良いからです」


「どうしてそう思うんだ?モンゼ」

「善は急げと神はおっしゃっています」


「理由に神様を使うなんて不敬をするから、破門されるんだと思うぞ」

「それに、私達を選んでくれたのですから、今度は私達が彼女達の願いを早急に叶えてあげるべきでは?」


「……確かにそれは一理あるな。この角の礼もするべきか……。よし、今日の午後から行くとしよう」



 その決定に、ナキとモンゼはそれぞれ喜びの声をあげた。


 ナキは、リリンサとワルトナが持つ魔法の技術を見せて欲しくてしょうがないのだ。

 特に、ワルトナの氷結杭を実戦で見てみたいという思いが強く、好奇心が抑えきれないが故の発言だった。


 そしてモンゼは、幼女と冒険がしたくてたまらなかった。


 二人の思いは違えど、目的は同じ。

 奇跡的な同調はソクトを説得させ、……彼ら三人は、人生を踏み外したのだ。



「それでは、この角を薬屋に預けたら早速行くとしよう。ナキとモンゼは装備や準備を整えておいてくれ」

「分かったわ!」

「任せておいてください」


「では私は薬屋に行って来るとしよう。シル、エメリ、ブルト、一緒に行こうか」

「……ううん。その角はソクト兄ちゃんに預けるよ。俺達も装備とかを準備しなくちゃ」


「ほう?良い心がけだ。冒険者らしくなってきたな!」

「……。一緒に行ったら、喋っちゃいそうだし」


「なんか言ったか?」

「ううん。なにも」


「そうか。では……総員、各々の準備を整え、午後1時にここに集合!目的は、新しい仲間たちの実力測定と訓練だ。泊まりで行う予定だから、野営装備も整えておくように!」



 ソクトの歯切れのいい声が響いた後、それぞれ一斉に散開しその場にはリリンサとワルトナのみが残された。

 こういった動きはまさに一流の冒険者のそれであり、非常に素早い。


 ちょっと感心したワルトナは、気の抜けた声を出すとリリンサへ語り掛けた。



「あー、疲れた。無駄にキャラ濃いし。なんだあれ」

「あれは稚魚。英雄ではない!」


「自称してたしねぇ。さてと……」

「ん。これからどうするのワルトナ。英雄じゃないし、放っておいて帰る?」


「無慈悲すぎるから却下で。まぁ、せっかくだから新人冒険者を演じて体験学習と行こうじゃないか。森にドラゴンが出るって言うし、その調査もかねてね」

「あ、忘れてた。そんなのあったね」


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