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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第9話「自己紹介(虚偽)」

「ふむ?それではキミ達のお話と目的を、お聞かせ願いたく思いますぞ」

「うん、頑張って説明するよ!」



 モンゼの微笑みを受けたワルトナは、それ以上の屈託のない笑顔を向けて、ワザとらしいくらいに手をぎゅっと握りしめ、子供のような無邪気を装い語りだした。

 しかし心の中では、高笑いをしながらこの状況を楽しんでいる。


 あーまったく、やり易いねぇ。

 僕らの出自と目的を聞くなんて、まさに思い描いた展開通り。

 その大人特有の不遜な顔がブチ転がるのが、楽しみでしょうがないよ。


 そして平然と、ワルトナは歪めた情報を語り出す。



「僕らは色んな町を旅して回っている冒険者なんだ。ここに来たのは、英雄の子孫が率いるパーティーが活躍しているって聞いたから、会ってみたいなって思って」

「ほう?それはソクトを中心とする拙僧達のパーティーで間違いないでしょうな。目的は拙僧達に会うためと。ですが、会って何をするつもりですかな?」


「それでね、えっと、……サインが欲しいなって!だって英雄だよ!?英雄ホーライ伝説みたいな、凄い事が出来るんですよね!?」

「ふむ、できますぞ!で、サインが欲しいんですかな!そんなものなら、いくらでも書いてやりますぞ」


「わーい!ありがとうございます!!……じゃ、ここにサインをお願いします!!」

「この線の所に名前を書けばいいのですかな?」


「あ、指の跡も押して欲しいです!カッコいいんで!!」

「押印を知っているとは、流石はランク1の冒険者でありますな!」



 そしてモンゼは、ワルトナが差し出した妙に高級な紙に名前を書き、押印をした。


 それは、悪魔の契約書。

 名前と押印は、確かにそこに記載された。

 そして、その周囲は空白だ。

 つまり、その余白に契約内容を後から書きこむことで、どんな悪辣な条件でも履行しなければならない悪魔の契約書が完成するのだ。


 ワルトナは、モンゼの知能レベルを試すついでに、法律と論理の首輪をかけたのだ。

 速攻で二人目の操り人形をゲットしたワルトナは、いよいよ本題に入っていく。



『いいかい、リリン。これから僕らの実力を偽る。しばらく僕に任せておくれ』

『何をするの?』


『リリンが頑張ってくれたおかげで、ソクト達は僕らに興味津々だ。だけど、あんまり凄い事をし過ぎると警戒されてしまうから、ちょっと状況を整える。僕らは新人だから、それに見合う能力にするんだ』

『なるほど。今の私は剣士!このままだと魔導師だとバレてしまう!』


『おや?正解だ。ドライフルーツのビタミンCって頭にも効くんだねぇ』



 そんな密談を交わしたワルトナは、年相応の可愛らしい笑顔で早速、仕掛けた。



「ありがとうございます、モンゼさん!それにソクトさんも!」

「拙僧などのサインなら、いくらでも書きますぞ」

「はっはっは!サインを欲しがるとは、子供らしい所もあるじゃないか。召喚契約履行を使われた時は熟練の魔導師が化けているのかと思ったか、勘違いだったようだな」


「いえいえ。僕らは見た目そのまんまの子供ですよー」

「それにしても、魔導師が二人組で冒険とは珍しいですな?それとも、何処かに仲間がいるのですかな?」

「確かにそうだな。盾役の前衛職がいないんじゃ、魔法もロクに使えないだろう?」


「あ、誤解してますよ!リリンは剣士なんです!!」

「「え”っ。」」



 さりげなくソクトからもサインを徴収し終えたワルトナは、リリンは剣士だと切り出した。

 そしてそれは、誰が聞いてもおかしいと思う言動。


 だからこそ、ソクトとモンゼはここから先の話を聞き洩らしたりせず、結果的に罠にはまるのだ。



「召喚契約履行を無詠唱で使えるのに、剣士ですかな?」

「ちょっと待ってくれたまえ。いくらなんでもおかしいだろう?」

「いえいえ。実際そうなんですよ。リリン、剣を召喚して見せておくれ」

「分かった《サモンウエポン=殲刀一閃(せんとういっせん)桜華(おうか)》」



 ワルトナの先導に従い剣を召喚したリリンサは、二人の目の前で鞘から剣を抜いて見せつけた。


 その剣……いや、刀は、陶磁器のように透き通った輝きを放つ、美しい魔刀。

 一目見ただけで業物だと本能が理解するそれは、空気さえも切り裂くような鋭く凛とした雰囲気すら纏わせている。


 リリンサは、心の底から自慢そうにしながらも、渡して見せたりはしない。

 ソクト達も、出会って間も無い冒険者の装備に触れるなどという、愚かな行為はしない。


 そんな冒険者の常識の上でのやり取りの結果、静かだったテーブルは更に静かになった。

 ソクトとモンゼが、リリンサの召喚した『殱刀一閃・桜華』を見て、息を飲んでいるからだ。



「……。な、なんと美しい剣、いや……これは刀と呼ばれるものですな」

「あぁ、まるで宝石のようだ。透き通った黒い刀身を見ていると、吸い込まれそうだよ」

「ということで、リリンはこの剣を使って戦う剣士なんです!」

「そう。ちなみにこの殱刀一閃・桜華は凄まじい切れ味を誇る。刀身の長さまで厚さならば、簡単に両断出来る!」



 ワルトナの説明に合わせて、リリンサは可能な限り大きく胸を張った。

 その対して膨らんでいない胸などには目もくれず、ソクトとモンゼは美しき刀を眺め続けている。

 殱刀一閃・桜華には、他者を引きつける魅力があるのだ。


 そうなるだろうと思っていたワルトナは、不意に手を叩いてソクトとモンゼを現実に連れ戻した。

 熟練の冒険としてありえない痴態を晒した二人は、どうにか場を取りつくろうと、思った事を口にする。



「確かに、召喚契約履行は剣士などの前衛職と相性がいいですが……」

「あぁ、それができる程の魔法の腕前なら、危険な剣士なんてしなくていいからな。どう考えても疑問が残る。ワルトナ君、説明できるかね?」

「それは簡単な話です。リリンが召喚契約履行を使えるのは、そこの魔導書がリンサベル家の家宝であり、一家相伝の魔法だからです」


「一家相伝の魔法?」

「なるほど。それならば確かに筋が通る」

「ですから、リリンは魔法なんて『召喚契約履行』と、あとちょっとした魔法くらいしか使いません!剣で戦う剣士です!」



 ワルトナがソクトとモンゼにした説明は、単純なものだ。


『とてつもなく品質の良い魔導書がリンサベル家の家宝として伝わっており、それに幼い頃から触れ続けたから召喚契約履行を無詠唱で使えるだけ。それ以外は、ちょっとした魔法しか使わない』


 一見無茶があるように思えるこの説明も、物証としてものすごい剣を見せられた後ならば、信じやすくなる。

 それに、この言い回しは本当でもないが、完全な嘘でもない。

 ワルトナが言っている『ちょっとした魔法』とは、『ちょっと(・・・・)どうかと思うくらいに理不尽で隔絶した(・・)、大規模戦略魔法(・・)』の略。


 大事な説明が抜けているというのは、子供の言動では良くあることである。



「リリンサ殿は剣士でしたか。なるほど、なるほど。特殊な技能を持ち、近接戦闘もそれなりに行えると……」

「あぁ、感服したという他ないな。それに、私はキミの方も気になるぞ、ワルトナ君」

「僕ですか?えへへ、照れるなぁ。僕なんて全然大した事のない魔導師なのに」


「いやいや、二人という少数でパーティーが成立するのは、卓越した技能を持つ魔導師でなければ不可能ですぞ」

「それに、キミにはどこか不思議な雰囲気がある。何か隠しダネがあるんじゃないのかい?」

「流石は英雄ですね!そこまで見抜かれちゃったら言うしかないですよ。後で見せて驚いて貰うつもりだったのにー」


「ほほう?魔法に自信ありですかな?」

「はっはっは!見せ場を奪ってしまってすまないな!だが、せっかくだし此処で見せてくれないか」

「いいですよー。ほい《氷結杭アイスニードル》」



 唐突にドスゥッ!という音を立てて、直系30cmはあろうかという氷の杭が、机に突き立てられた。

 それは、ありえぬ速さ。


 明らかに攻撃魔法であるそれにソクトもモンゼもまったく反応できず、急に現れた氷結杭にマヌケ面を映すのみ。

 その心の中で、「この氷が自分に向けられていたら、死んでいた……?」と肝を冷やしているのだ。



「どうですか僕の魔法!これ、よく使う必殺技なんです!!」

「ふぁ!?いや、すまないね。拙僧は驚いてしまったよ」

「私もだ。なんだ今の速さ。というか、詠唱が無かったよな……?いや、問題はそこじゃない……」


「おや?ビックリさせすぎちゃいましたか?」

「そうですな。問題はそこには無いように思いますぞ」

「あぁ、この魔法は……『氷結杭』だ。なんてことだよ……この魔法、ランク4だぞ……?」



 ワルトナは、あくまでも実力を隠す為『自分は対して凄くありませんよ』という気持ちを込めて、この魔法を選んだ。

 実際、ランク4の攻撃魔法という物は、それなりに普及率が高い。

 多彩な攻撃手段を欲するのは魔導師としての本能のようなものであり、ランク4の魔法は、誰もが夢見た末に一度は挑戦するからだ。


 需要があれば、それに付随して魔導書なども普及してゆく。

 だから、完全詠唱破棄は無理だとしても、パーティーの切り札としてランク4の攻撃魔法を隠し持っている事はよくある事だった。


 子供らしく、持っている最大の魔法を自慢した……風を装ったワルトナ。

 だが、その目論見は不運にも、亀裂が走ってしまった。



「えっと、何かまずい事しちゃいました……?」

「いや、ワルトナ君は悪くないんだ。ただ……」


「ただ……?」

「この魔法はナキが今、必死になって覚えようとしている魔法で、そして中々上手く行っていないものなんだ」


「えっっ。」



「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!今、なんばしよっとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」

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