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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第1話「英雄とドラゴン」

 

「お?街が見えてきたね」

「なんていう街だっけ?」


「『エルダーリヴァー』だよ。大山脈の渓谷の中にある街で、奥には深い森林が広がっている。恵み豊かな森の幸をふんだんに使った料理は絶品だって話だね」



 揺れる乗合馬車の中。

 可愛らしい声を弾ませている少女が二人いた。


 青い髪の少女リリンサと白い髪の少女ワルトナ。

 天使と悪魔なこの少女達は、本来の旅の目的『英雄・ユニクルフィン探し』の為にエルダーリヴァーに向かっている。



「絶品の森の幸!?今すぐ行こう!直ぐに行こう!!」

「馬車に乗ってるんだから僕らが騒いだって速度が変わるわけないだろ。大人しくしてな」


「いや、まだ手段はある!」

「……一応、聞こうかねぇ」


「バッファ魔法を馬に掛ける!ついでに御者台の人にも掛ける!!速度はきっと3倍以上!!」

「あぁ、それは迷案だ。超速攻で事故を起こして、天国へ全速力で連れてってくれるねぇ」



 絶品の森の幸と聞いて興奮しているリリンサでも、ワルトナの言葉を聞いて想像するくらいの余裕は残っている。

 そして、馬にバッファを掛けた場合、慣れない感覚で暴走した馬が荷馬車をひっくり返す姿を思い浮かべる事が出来た。


 ちょっとだけ頬を膨らませたリリンサは、馬へ「しっかりして欲しいと思う!」と罵声を飛ばしつつ、諦める。

 その声を聞いていたワルトナは、ひっそりと「馬の方が賢いかもしれないねぇ、ウマとシカ以下だねぇ」と呟いた。



「そんな訳で、空いた時間でこれからの予定を立てるよ」

「街に着いたら美味しいごはん!その後宿に行って、美味しいごはん!」


「食っちゃ寝してるんじゃないよ!働け!!」

「流石に冗談。運動をした後のご飯はとても美味しい。獲物を狩れれば、そっちの意味でもオイシイ!」


「悪くない答えだが、僕らがわざわざこの街に来た意味が抜けてるね。いいかい、僕らは英雄の子孫に会いに来たんだ」

「それも分かってる。私はユニクルフィンと結婚する!暖かい家庭を築く!!」



 リリンサに授けられし神託。

 その全文は、『英雄・ユルドルードの実子・ユニクルフィンと婚姻し、幸福ある時も、厄災ある時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かったとしても愛し続け、失われた家族を取り戻せ』だ。


 リリンサは、とある事件に巻き込まれ、母親と妹を亡くしている。

 父は既に他界しており、天涯孤独の身となっているのだ。


 そんな途方も無い悲しみに暮れるリリンサへ届けられたのが、神の導きである神託書だった。


 記されていたのは、『英雄の息子ユニクルフィンと暖かい家庭を作り、失った家族を取り戻せ』という、唐突な内容。

 だがそれは、孤独なリリンサにとって、確かな希望。

 もう二度と手に入る事は無いと思っていた幸せの道しるべは、それ以外の人生の選択肢を奪い、リリンサを冒険の道へ誘ったのだ。


 リリンサは微笑む。

 この馬車の先には、きっと明るい未来があると信じているから。


 リリンサには、憧れの英雄と一緒になると神に保障されているという安心感もある。が、なぜか、そのユニクルフィンという名前を聞くと、凄く胸が高鳴るのだ。

 出会った事も無いはずの、英雄の名前。

 英雄を記したどんな書物にも記載されていないその名前を口にするたびに、僅かな高揚感すら覚えていて。


 英雄の傍で添い遂げるのならば、きっと世界も救う事になる。

 幼い思考で、リリンサはその時が来るのを、ずっと夢見ている。



「そうそう。ユニクルフィンと出会えれば勝ったも同然だ。こんな可愛いリリンを放っておくはずが無いからね!」

「もふふ!」


「ほんと、小動物的可愛さがあるねぇ。ハムスターにそっくり」



 そして、ワルトナも笑う。

 リリンサの笑顔の横で、これこそが僕の旅なんだと、心の底から笑っている。


 リリンサは、一人で旅をし始めてすぐにワルトナと出会った。

 今と同じような乗合馬車に相席した二人は、同じくらいの歳なんて珍しいなと、どちらかともなく話しかけたのだ。

 その馬車の目的地は遠く、長い時間、話に花を咲かせた事も良かったのかもしれない。

 二人は意気投合し、一緒に旅をするようになったのだ。


 ワルトナの旅の目的も、人探しだった。

 だが、その目的は今や、自分探しに変わっている。

 想い人の所在は判明し、会いに行く気になればいつでも行く事が出来るからだ。

 だが、それではダメなのだ。


 ワルトナが『憧れの思い出』に辿り着く為には、まだまだ、色んな力が不足している。

 だからこそ、ワルトナは旅をしている。

 あらゆる理不尽に打ち勝つ力を身に付ければ、幼い頃に憧れた思い出と再会できると、ずっと信じている。



「僕が手に入れた情報だと、エルダーリヴァーには英雄の子孫を名乗る人物がいるらしい」

「英雄の子孫?ユニクルフィンなの?」


「分からないから確かめに行くって事さ。だけど、確率は低いと思うねぇ」

「どうして?」


「英雄の子孫という触れ込みより、英雄ユルドルードの実子と言う方がインパクトがあるだろ?」

「うん。ユルドルードは色んな意味で有名だし、そうだと思う」



 二人が探している英雄ユルドルードは、実際には、かなりの有名人だ。


 英雄として確かな実力と実績があり、数百万人の命を救ったとされる、伝説の人物。

  その偉業は数え切れないほどに上るが、その代表例は『皇種おうしゅ』と呼ばれる究極の化物の討伐だろう。


 皇種とは、『神が選んだ種族の中で最強となり、王となった個体』の総称。

 例えるならば、竜には竜の皇種が存在する。

 それに則って、狐には狐の皇種が、魚には魚の皇種が、鳥には鳥の皇種が存在し、その種族を統べているのだ。

 そして、その力は途方も無い程に膨大。

 それは意思を持つ大災害。

 たとえどれほど強力な生物であっても、皇種に出会ってしまえば、命を落とすことなど大前提。

 あたり前に訪れること、すなわち、寿命が尽きる事と同意義だとさえ言われている。


 そんな、抗う事の出来ない絶望から人類を救う為、ユルドルードは世界を旅していた。

 当然、直接会ったという人も多く、調べればそれなりに情報が出てきたりもする。


 だが、貴族の娘であり、様々な知識を持つローズハーブが知らなかったのはなぜなのか。

 それには、大きな要因が二つあった。


 一つは、ユルドルードは10年もの間、消息を絶ってしまっている。

 まるで、表舞台から下りたとでも言うように、ユルドルードの姿は人の目に触れる事が無くなった。

『死んだ』とも噂されるが、時折発見される山のような化物の死骸が、ユルドルードは健在だと物語っている。


 そして、もう一つの理由、それは……ローズハーブの父であるボウイスタッフが『教育に悪い』と隠していたからだ。

 ワルトナがポケットから取り出し、リリンサに見せている新聞の切り抜き。

 それこそが、世界中の子供達がユルドルードの名を知らない、答え。



「ほら、ユルドルードの写真だよ。よく見て顔を覚えておきな」

「何度も見たし、何度見ても情報が少ないと思う」


「だよねぇ……。肝心の顔がぼやけてるのも問題だが、こう、全裸だとねぇ」

「うん。全裸はすごい。流石英雄、一般人の私達とは価値観が違うと思う!」



 もう一つの理由。それは、ユルドルードは『全裸英雄』などと呼ばれ、世間から白い目で見られているからだ。


 誤解されてはいるが、あまりにもトンデモナイ姿で写真を撮られているのには、真っ当な理由がある。

 それは、その新聞記事にもしっかりと明記されていた。



『英雄ユルドルードは、無機物を融解する皇種『ロータストータス』の攻撃を無効化する為に、装備品を脱いで戦いに挑み、勝利を収めた。《写真1》』

『しかし、攻撃を受けたユルドルードは無機物を融解する液を浴びた副作用で、しばらくの間、無機物に触れる事が出来ない。溶かしてしまうからだ。《解説図2》』



 ユルドルードが戦ったのは、全長500mの巨大なる皇種、『夢幻霊亀・ロータストータス』。

 この絶望の亀の出現により、その地に住んでいた住民の生活レベルは原始時代へと巻き戻された。


 ただでさえ金剛石を連想させるほどの堅さの甲羅を持つ上に、あらゆる無機物を融解させる霧を吐き、どんな武器でさえも持ち込む事を許さない。

 ロータストータスの身を守る為の防衛本能は、人類が築き上げてきた文明さえも完全に破壊。

 石と毛皮の時代へと巻き戻された人々は、最後の希望として英雄ユルドルードに望みを託したのだ。


 その結果が、全裸で記者会見。

 本人の意思とは関係なく非常に不名誉な汚名を着せられる事になったユルドルードは、引きつった笑みを浮かべて写真に映っている。


 そして、名誉挽回をする事も無く消息を絶ってしまい、そのイメージは固定されたのだ。

 なお、一部の否定的なコメンテーターからは、全裸が恥ずかしくなって逃亡したのでは?という噂が広がっている。



「……こんな写真が最後の手掛かりって、難易度が高すぎると思うねぇ」

「うん。顔とか良く分からないし、所々塗り潰されてる」


「ソコは僕が塗ったんだよ。教育に悪いからねぇ」

「でもきっと見つかると思う。神様の神託だから大丈夫!」


「そういう前向きさは僕も見習いたい所だね。さてと……」



 目的の復習を終えた後、ワルトナは仕切り直しの声を上げた。

 そして、これから行う計画の全容を発表する。



「いいかい。僕らは新人冒険者を語り、英雄の子孫が率いているというパーティーに潜入する。そして、その正体を調べるんだ」

「分かった。ちなみに、ユニクルフィンじゃないと判明した場合はどうするの?」


「そしたら、そのパーティーを乗っ取ってドラゴン狩りだねぇ。あぁ、不安定機構から僕に任務が届いていてね。ドラゴンの目撃情報があるから原因を突き止めてくれってさ」

「どんなドラゴン?」


「赤いって言う話だから、『ファイナル・炎・ドラゴン』か『ドグマ・ドレイク』じゃない?」

「ふーん。敵として申し分ないと思う!久しぶりに本気出す!」


「そうだねぇ。僕も本気出そうかなー」



 揺れる乗合馬車の中。

 二人の少女は可愛らしい声を弾ませて、和気あいあいとはしゃいでいる。


 その近くでは、信じられない事を聞き、絶句している冒険者たちがいた。

 恐ろしき名を聞いたせいで震えているその手には、危険生物図鑑が握られている。

 そして、必死にページをめくり目的の場所へと辿りつくと、一心不乱に読み漁り始めた。



『ファイナル・炎・ドラゴン』

 *動物界

 *脊椎動物亜門

 *爬虫類網

 *翼竜科

 *炎竜族

 *炎竜種


 全長20mを超える二足歩行型の中型翼竜。

 その口内から放出される熱線は、人と鎧と剣を瞬時に融合させる。

 あまりにも高温な炎を受けた冒険者の辿る運命は――、『炭』なのだ。


 判別不能な物体を数百単位で創り出す『ファイナル・炎・ドラゴン』は、一匹でも街に姿を表せば、壊滅的な被害を呼ぶ。

 危険生物としての脅威度は『S~特A』クラス。


 ※速やかに不安定機構の上級使徒を呼ぶべし。



『ドグマ・ドレイク』

 *動物界

 *脊椎動物亜門

 *爬虫類網

 *翼竜科

 *炎竜族

 *ドレイク種


 全長30mを超える二足歩行型の中型翼竜。

 当然のように熱線を吐くが、その真髄は高い格闘能力にある。

 筋骨隆々な肢体から繰り出される殴打や薙ぎ払いは魔法効果を宿しており、一撃で丘を盆地へ変える程に威力が高い。


 木も人も、地も建物も、池も涙も、支離滅裂に掻き混ぜる『ドグマ・ドレイク』は、一匹でも街に姿を表せば、滅亡的な被害を呼ぶ。

 危険生物としての脅威度は『S~特A』クラス。


 ※速やかに不安定機構の上級使徒を呼ぶべし。


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