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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第1章 聖女見習いと盗賊
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第10話「旅の目的」

「捨てないでくださいまし!後生ですから、捨てないでくださいましッ!!」

「あーもー暑苦しいなぁ。分かったから離れておくれよ。……そしてリリン、なんで杖を磨いているんだい?」



 段々と説明が面倒になってきたワルトナは、適当に話を切り上げて、さっさと盗賊の残党共を餌食にしに行こうと思っている。

 だが、リリンサが中途半端に本を出して話を掘り下げてしまった以上、このままというのも妙に気持ちが悪い。


 だからこそ、速攻で話を進めるべく一芝居打ったのだ。

 その結果、ローズハーヴは必死になって話に耳を傾ける事になった。


 リリンサが平均的な含み笑いで杖を拭いているのを見てしまった以上、話を聞く以外の選択肢は無いからだ。



「神託とは、その文字の通り、『神から託されし指示書』の事だ」

「神様から託された指示……ですの?」


「そう。……そもそもだけど、キミは神を信じているかい?」

「えぇ、信じておりますわ。神はこの世界を作り、命を愛し、人を尊ぶ。もっとも偉大なる御方であり、私達の生活を見守っていて下さるのですわ!」


「確かにキミの言っている事は間違っちゃいない。……が、正しくもない。神は、世界の傍観者なんだから」

「世界の傍観者ですの?」


「そう。神はこの世界を作った後、ずっと何千年もの長い時間、僕らの生活を見続けてきた。そして、この世界に飽きてしまったんだ。で、滅ぼそうとしたわけだけど」

「さらっと、すんごい事を言いましたわ!?」


「結果的にそれは中止となった。それは、七賢人と呼ばれる偉大なる人物が、神へ『この世界を見ていて楽しいものへと作り変える』と約束したからだ」

「ど、どういうことですの!?」



 世界の破滅神話。

 それは、世界に飽きた神が人間世界に降り立ち、当時、最も権力を持っていた七賢人の神殿を訪れる所から始まる。


 若き女性の姿をした神は、神殿の庭先に飾られていた盆栽を眺めた。

 小さな木々が雄々しき力強さを感じさせる見事な盆栽に心を動かされた神は、「うーん、イマイチ可愛くないなぁ」とデコレーション。

 それを見た役人が『不審者』として神を取り押さえ、裸に剥いた後で木に吊るすという、人類史上最悪の不祥事を起こしてしまった。


 そして、うっすらと額に青筋を浮かばせた神は、「この世界、滅ぼすねー」と切り出し、それをさせまいと七賢人は「世界を見ていて楽しいものへと変える」と約束をする事となったのだ。


 これこそ、人類史最初の黙示録。

 この話を聞いた人物は50%の確率で神を崇拝するようになる。



「神はこの世界に飽きたから滅ぼすと言った。それならば、飽きないように工夫するから滅ぼさないでくださいと七賢人は約束をした。話の根底にあるのはこんな簡単な事だけど、凄く理に適っていると思わないかい?」

「まぁ、確かにそうだとは思いますわ」


「で、七賢人は、神を楽しませるために世界を不安定にする組織として『不安定機構アンバランス』を作った。で、今は冒険者を管理している組織となって、僕らの生活に寄り添っている。ここまでは良いかな?」

「へー。不安定機構アンバランスって、そういう意味でしたのね」



 ローズハーヴの言うとおり、不安定機構の存在理由を理解している者は少ない。

 それは一般市民に限った話ではなく、冒険者もその殆どが理解していないのだ。


 これは、不安定機構の主な役割が、『世界の情勢を不安定にするために暗躍する事』だからだ。


 表の役割では、危険生物が出現した際などに冒険者を斡旋し、討伐に当たる。

 だが、その危険生物の発生理由も、『不安定機構の人間が連れてきたから』というマッチポンプ。


 そして、その仕組みを知るのは仕掛け人側だけであり、非常に数が少ないのだ。

 不安定機構では、問題を解決する側の組織を、『不安定機構・ブラン』とし、問題を起こす側の組織を『不安定機構・ノワール』として、名目分けして管理している。



「とまぁ、僕たち冒険者は不安定機構に所属している訳だけど、その実力が認められると、特別な任務が与えられるようになるんだよね」

「実力が爆裂して盗賊がパンツ一枚ですもの、納得ですわ」


「その特別な任務とは、『勅令』と『神託』というんだ」

「勅令ですの?……拒否権がなさそうですわね」


「この二つは基本的に拒否が出来ない。勅令書は『超級の大災害』が発生しそうな時などに発令され、無視すれば多くの命が失われる。当然そうなれば冒険者資格は剥奪されるし、懲罰も受けなければならない」

「他人ために命を賭けないと罰を受けるなんて、素晴らしい助け合いの精神ですわ。……私はごめんですけど」


「で、リリンが授けられた神託というものは、『神自身が抱いた願い』であり、神の言葉そのものだ。だからこそ、どんなものよりも優先されるし、例え勅令書と相違が生じた場合でも神託が優先される」



 ローズハーヴは、ワルトナからされた説明を聞いて、ふと、思う事があった。

 フーロ家に伝わる、一枚の古い紙と言い伝え。

 書かれている文字が薄くなってしまい、唯の古ぼけた紙となったものが額縁に入れられて、フーロ家の家宝として代々受け継がれているのだ。


 確かそれは、フーロ家の創始者が神から下賜され、家業を興すきっかけになったものだと父が言っていた。

 それを思い出したローズハーヴは深く頷くと、ワルトナに話を促す。



「思い出しましたわ。我がフーロ家にも神託書として受け継がれている証書がございますの。それで、リリンサ様の神託とはどのようなものなのでしょうか?」

「リリンが神から承りし、神託……それは……」


「それは……?」

「リ――」

「私、リリンサリンサベルは、英雄の息子『ユニクルフィン』と婚姻し!暖かい家庭を作る!!」


「良い所を持って行くんじゃないよッ!リリンッ!!」



 ちっくしょうめ!散々、僕に説明させておいて、良い所だけ掻っ攫うんじゃないよ!!

 つーか、クッキーはどうした!?

 もう食べ終わって……なに……?数が増えてる……だと……?


 おかしい。食べたのに増えるなんて、そんな事があるわけ……あ。別の缶だ。これ。



 リリンサの食い意地を見誤ったワルトナは、ぐぬぬ……と声を漏らしながら、チョコレートが挟み込まれたクッキーを摘まむ。

 そして、苦虫を噛み潰したような表情を和らげるために口に放り込み、乱雑に噛み砕いた。



「私の神託は、ユニクルフィンと出会って添い遂げること!私とユニクルフィンは、神に導かれし運命の赤い糸で結ばれている!!」

「えっと……。英雄を探しているというのは、どこに行きましたの?」


「英雄ユルドルードの息子がユニクルフィン。私の恋人!」



 満足げに胸を張るリリンサと、困惑して視線を巡らせているローズハーヴ。

 二人の態度は対照的であるが、どちらとも落ち着きが無い。


 なお、ワルトナはチョコクッキーを片手にラベンダーティーを楽しんでいる。

 完全に面倒になったようだ。



「えぇと、リリンサ様は、そのユニクルフィン様と婚姻するために、世界を旅して探しておられると?」

「そう!ユニクルフィンは英雄の息子。きっと凄い人で、凄くカッコイイはず!凄い魔法もバンバン使って、ドラゴンも一撃で木端微塵!!やる気になったら一人で国を滅ぼせる!!」


「……そのお方は、魔王か何かなんですの?」

「違う!英雄!!」


「へー。英雄って国を滅ぼせますのね。知りませんでしたわー」



 完全に棒読みなローズハーヴの相槌だが、リリンサは興奮していて気が付かない。

 今も一人で英雄についての憧れを語っていて、自分の世界の真っただ中にいるからだ。


 そんな光景を横で眺めていたワルトナは、ローズハーヴへ「甘いものでも食べて、疲れを癒しな」とクッキー缶を差し出した。


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