狩りと銃
狩場である森の入口に到着し、馬車を降りる。
そこには、ノット家の長男と次男、彼らの父君、そして、フォード家の長男と、彼の父君がいた。
彼らは表面上は穏やかに話しているし、笑顔を見せてはいるが、その目は猛禽類のように鋭い。
誰一人として、他の家の者に負けるつもりはなさそうに見えた。
お父様が話した“鹿狩りは戦争”というのと“力を見せつけようとしている”というのも、あながち間違った表現ではないのかもしれない。
人数を合わせるため、三人いるノット家は父君の狩った数を加えないことに決まり、それぞれの家から二名ずつ参加する方向で、狩った獲物の大きさと数とを競うこととなった。
森での狩りは、誤って人を撃ってしまうことのないように、横に並んで固まりながら森を行く。
つまりは、早いもの勝ちで、獲物を見つけ次第正確に仕留めないと横取りされてしまう、というわけだ。
「バド様、お久しぶりです」
草をかき分けながら歩いていると、隣にいるノット家の長男がにこやかに話しかけてくる。
「ああ、貴方のお誕生会でお会いしましたね」
「その節は、どうもありがとうございました」
細い目をさらに細くさせて、彼は笑う。
「いえ、私も楽しかったですから。お招きくださいまして、ありがとうございました」
正直、自慢話ばかりで面白くもなんともなかったが、社交辞令でそう話す。
そんな俺の返答がつまらなかったのか何なのか。
彼は声のトーンを落とし、俺だけに聞こえるようにこう言ってきた。
「いつも狩りで圧勝してらっしゃるようですが、それは周りが遠慮しているだけなんですよ。チビが調子乗らないでください」
釘をさしてくるような彼の言葉に、思わず噴き出して笑う。
確かに俺はチビで、童顔で。
お世辞にも強そうには見えないし、余計なことを言わないよう言われてきたこともあり、貴族のあれこれに極力口をはさまないようにしてきた。
それが頼りなく見えるのもわかるし、こうやって舐めてくるのもわかる。
だけど、他の何がダメでも、狙撃のことだけは誰にも負けたくなかった。
好きなこと、得意なことではちゃんと実力で一番になりたい。
ズルをしたのだと、周りに思われたくなどない。
そんなのは、当然の気持ちだ。
「調子に乗ってるのは、どっちだろうね」
にかっと笑い、鬱蒼と茂る森に向かって銃を構えた。
「は?」
隣で目を丸くするノット家の長男を横目に、すぐさま銃のロックを外し、引き金を引く。
それと同時に火が走る音がし、わずかに腕へと衝撃がやってきた。
弾が森の中に吸い込まれ、硝煙がふわりと広がるのを見ながらまたロックをかけていき、再び弾を込めて銃を背負う。
噛みついた自分への威嚇の意味で撃ってきた、とノット家の彼は思い、周囲の人々も、いたずらに発砲したのだとでも思ったのだろう。
「エヴァンズのぼっちゃんは、透明な獲物が見えるようだ」と笑うノット家の長男の言葉に、お父様以外の皆は、同調して笑っていた。
――・――・――・――・――・――・――
俺たちは、そのまま少し森の中を歩く。
すると、ノット家の長男の顔が、だんだんと青ざめ、引きつりはじめた。
「嘘、だろ……」
その言葉に皆の視線が、彼の見ている方向へと向かう。
全員の視線の先には、イノシシが一体、胸から血を流しながら倒れていた。
「狙撃されている……」
フォード家の父君が険しい顔で言い、「まさか!」と、皆が俺を見つめてきた。
「よかったよ。透明ではなくて」
ふん、と笑いながら嫌味を言う。
先ほど不自然に草むらが動いているのを発見し、微かにイノシシの姿をとらえたため、狙撃したのだ。
距離は遠かったが、銃のメーカーや弾の飛距離とクセは頭に入っているし、動体視力と動きの予測に関しても自信があった。
適当に撃ったわけじゃない。
まったく、狙いも付けずに宙に発砲する馬鹿がどこにいるというんだか。
そんなことを考えながらふと隣を見ると、ノット家の長男は恥ずかしさと怒りからか、顔が真っ赤に染まり上がっていた。