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飛ぶ鳥の向こうへ ―上―

 長い階段も終わりを迎え、視界が一気に開けていく。

 見えたのは少しずつオレンジ色に染まりはじめた世界と、何艘なんそうもの船、そして穏やかに揺れる海だった。


 一足先に家を出た虹色の鳥も、同じ景色を見たのだろうか。


 そんなことを考えながら、港をうろつく。



 もうしばらくしたら日が暮れるからだろう。

 港には人気がなく、船番をしている船乗りくらいしかいないように見える。


 どの船に乗るのが安全か。

 そんなの考えてみてもさっぱりわからず、運任せにかたっぱしから声をかけていくことにした。


 はじめは、端に泊めてある貨物船からだ。


「すみません! 話を聞いてくれませんか!?」

 船番をしている緑のバンダナを巻く男に声をかける。

 だが、男は俺の身なりを見てきた途端、渋い顔をして手で払う動作をしてきた。


「食うもんねェガキは、ヨソへ行けよ」


 向けられたその瞳に、身体を小さく震わせる。

 船番の目は、害虫を見ている時のそれにひどくよく似ていて、嫌悪の感情に満ちているように見えた。


 恐らく、俺がいま浮浪者のマントを身にまとっているからなのだろう。

 物乞いをしにきているのだと思われたのだ。


 いくらローレンス地方が安定しているとはいえ、世界を支配するネラ教会に逆らった者には誰も慈悲を与えてはくれない。

 浮浪者となってしまうことも珍しいことではなかった。



「物乞いじゃないんです。話を聞いてください!」

 慌てて弁解するが、「どうだか。最初は皆そう言いやがるんだよ」と船番は唾を吐いてくる。


 屋敷にいた頃は、こんな扱いをされたことなど一度も無くて、心に衝撃が走った。



 “お前は甘い”

 “負け犬の人生でいいのか”


 お父様の言葉がふと浮かんで、俺の胸を締め付けてくる。


 ここで黙っていないで何か言葉を続けて、必死に頼みこまなければ。

 そう思う一方で、あまりにも冷たい瞳に口が開かない。


 結局それ以上は何も言うことなど出来ず、退散するしかできることはなかった。



 それからも乗せてくれる船を探し続けたのだが、どこも同じような返答ばかり。

 だからと言って、身分を明かすわけにはいかず、途方にくれた。


 あと残る船は三艘さんそうのみ。

 ここに望みをかけていくと、一艘目でようやく話を聞いてくれる船乗りが現れた。


「このあとすぐ船長に相談してやるから、港の端で待っていろ」

 ネズミみたいな顔をした船番がそう言ってくれたのだ。


「よろしくお願いします!」

 ほっと息をついて深々と頭を下げ、返事を待つために人気ひとけのない港の端へと向かった。

 どうやら今日は船が少ないようで、端のほうには一艘も停泊していない。


 しゃがみこんで、船を繋ぎとめる係留柱ビットに背をつけて、空を仰ぐ。


 あとは船長の返答次第……


 どうかいい返事をもらえますように、と強く願った。



 どのくらいそこで待ち続けていただろう。

 待てど暮らせどあの船番がやってくる気配はなく、港には夜の気配が近づいていた。


 待つ場所を間違えたのかもしれない。

 もう一度、船番のところに行ってみよう。


 ゆっくり顔を上げていくと、複数の足が視界に入る。

 質の良い靴とズボンとが見え、びくりと身体を震わせ、慌ててうつむいた。



「ボウズ、ここらでエヴァンズのぼっちゃんを見ていないか」


 海にもお父様の手が迫りはじめていた。

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