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兎が肩を震わせた気がするが、気のせいだろう。
まさか、私の笑顔が怖かったなんてあるわけ無いよね。
兎が鑑定結果を包み隠さず教えてくれたので私のステータス?で良いのかな、ゲームのような感じがするが。
地球でも自分のスキルがこんな感じでわかったら、天職が見つけられたのかな…………。
チョット思考がズレてしまったが、改めて、
名前 ハナ
種族 人間種
年齢 アラサー
ギフト 植物鑑定 念話 他
魔法 樹 他
こんな感じだ。
下級鑑定ならこの程度しか分からないらしい。善悪は鑑定した時の雰囲気でわかるらしい。
うん、年齢はこう言うようにと教えてあげた。
ギフトはまだいくつかあるらしいのだが、兎にはここまでしか見えなかったそうだ。
魔法は雷も使えるのだが、『他』にまとめられている。
もしかしたら、まだ何か使える魔法もあるのかもしれない。後で試してみよう。
ちなみに、兎のことも教えてもらったら、
名前 シル
種族 獣人種 兎
年齢 62歳
ギフト 鑑定 脱兎
魔法 風
有ったのだ。
まさかの脱兎が。
笑いを堪えるのに苦労した。
せめて、逃げ足とかにして欲しかった。
獣人の寿命は長い。平均500歳。戦闘好き種族なため老衰で死ぬより戦いで散る方が多いため、700歳過ぎれば長寿と言われるらしい。獣人は100歳で成人となるのでシルは人間に直すと12歳ほどだ。
名前 マール
種族 聖獣 雷
年齢 33歳
ギフト 瞬足 念話 他
魔法 明 風 水 他
聞いてもいないのにマールの鑑定も話し出す兎に、わたしたちの鑑定結果を、他の誰かに話さないように約束させる。
兎改め、シルが涙目になっているのは見なかったことにした。
個人情報は保護されなければならない。
マールの鑑定で雷獣なのに、魔法に雷が出ていなかったことに驚いた。
魔法については、初めの6種類、明、影、火、水、風、土が開示されるのだろうか?
私の樹魔法はなんで開示されたのだろうか?
グウーー。
「お腹空いたの?確かーーーそこらへんに肉の包みがあるから、持ってきてくれるか」
帰ってきてマールに駆け寄った時にどっかに放り投げた気がするんだが、どこにやったんだっけ?
周りを見渡すと徐々に明るくなってきているようだ。
泉に光が当たりキラキラ輝き出す。
樹海の中にポッカリと空いた穴から朝日が差し込んでくる。泉が大きいため空から見れば緑の中に突如現れた、水色の鏡が見えるだろう。
世界に光が差す。
彩りが増す世界をぼんやり見つめていると、膝でモゾモゾ動きを感じる。
「ーーーマール、おはよう」
柔らかく暖かい生き物の感覚に、私は嬉しくなり、自然と頬が緩む。
うーんと前足を伸ばしていたマールが、こちらを見て止まった。
隣に重い包みが落ちてきた。
兎、じゃ無くって、シルが包みを待ってきて落としたようだ。
ドジだなと思いながら、肉の包みを拾うと、マールが私の膝から降りて肉の包みの匂いを嗅ぎ始める。
「ご飯にするか、って言ってもほぼ肉だけだけど」
二人……二匹?に言うと、シルが動き出し、鞄を探り、一つの袋を取り出し渡してきた。
「ん?何?…………くれるの?」
大きく頷いたので、中を確認すると、お皿と岩塩と堅パンが小鍋に入って出てきた。
おお、パンだ!
この世界のパン。硬く頑丈に焼かれ日持ちがするように作られたもの。
少し赤みがかっているこぶし大の岩塩と、昨日の昼間に摘んだ野草とで美味しいものが出来そうだ。
焚き木もだいぶ小さくなってきたので、半分に枯れ木を足して、半分を熾火にして、強火と弱火を作る。
と言っても、シルが上手く調節してくれ、私は教わっていただけなのだが。
「じゃあ、シルはパンを薄く切って、軽く焼いておいて。マールは水飲みに行こう」
泉に行き、水を飲んでから、小鍋と皿を洗う。
隣でマールが一生懸命に水を飲んでいる。私もタオルを出して顔を洗って、さっぱりする。
午後になりもう少し暖かくなったら水浴びしよう。
リュックに入れておいた、昨日摘んだ野草と木の実を軽く洗う。全て食用で、美味しい食べ方も植物鑑定で調べてある。
焚き木に戻ってシルと交代する。
鉄の小鍋を強火にかけて、大きな肉塊の脂身部分から焼く。
小玉ねぎ似の野草の葉と球根をナイフでぶつ切りにして、焼けたパンを火から離す。
全体をよく焼いた肉に、水と小玉ねぎ似と、匂いが生姜似の野草の茎を入れて岩塩を削って入れて沸騰させた。肉をいったん取り出し、一口大に切って鍋に戻し出来上がりだ。
深皿に半分盛り、パンを乗せてシルに渡し、私は鍋の残りにパンを入れる。この世界の堅パンは名の通り物凄く硬い。釘が打てるくらいに硬いので、スープでふやかして食べるのが一般的なのだ。
マールにはもう一つの生肉を渡す。
調味料に塩があっただけでもありがたいが、圧倒的に足りない。
足りないものだらけだが、とりあえず
「いただきます」
「世界に感謝をーー」
お互い食事の前の挨拶も済ませ、シルはスプーンを、私は箸で食べ始めた。
読んでいただきありがとうございます。