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 世界樹の結界の中では、マールも狩りができない。

 獲物に爪を立てようとした瞬間に、結界からはじき出されるのだ。

 結界は目には見えないので、森に住む獣にもだいたいこの辺りとしか分からないようだ。


 マールと共に結界の外を目指して歩くと、数分で違和感のある場所にきた。マールは気がつかないのかそのまま歩いて行くが、私は足を止める。


「マール、そっちは、あまり行きたくないな」


『あっち、獣の匂い』


 三歩先行くマールが振り返る。


「ここまでが結界の中で、マールのいる方が結界の外みたい」


 ここが暖かな家で、あっちが豪雨の屋外のよう。


 目に見えないが、私が伸ばした手の先に、結界がある。

 力を入れなくても通り抜けられる壁。壁というのは語弊があるが、手で少し押すだけで破れるくらい薄い。感覚で言えば、卵の黄身の薄い膜を破るように少しの抵抗があるが、無視できるほどの抵抗なので気がつくものも少ない。破られた膜は直ぐにまわりから膜が伸びて修復される。

 私の場合は世界樹の欠片のおかげで、その気配を感じ取れるようになったのだろう。


「結界の感覚を覚えたいから、この周りを歩いてみてもいいかな?」


 目の前にこないとこの結界を認識できなかったので、遠くからでも感じ取れるように慣れたいのだ。


『分かった』


 マールは私の隣まで戻ってきた。


 結界を右手に感じながら歩き出す。

 結界の周りに木々は生えているが枝は結界に触れない所で成長は止まっている。下から見上げると空が細く、長く結界にそってみえる。


『華、臭い』


「え?…………………臭い?」


『焦げる、臭い』


「焦げ臭い? ーー焦げる匂いがするのね……………びっくりした」


 あ、あせったぁーー。

 私が臭いのかと思ったわ。

 寒いけど、後で泉で水浴びしよう。




 私には分からないけど、マールの鼻には匂いが感じられるのだろう。


「何が出るか分からないけど、行ってみようか。マールは私の左側にいてね」


 右側では、何かの拍子に結界の外に出てしまうかもしれない。


『行くのか?』


 不思議そうに尋ねてくるマールに頷く。マールの鼻に従って歩いて行くと、私も焦げた匂いに気がついた。すごく焦げ臭い。そして変な匂いも混じっている。髪の毛を焦がしてしまったような匂い。


 臭いの元に近づいていくと、遠くに黒い塊が見えてきた。

 大きさは大人の牛ほどの塊。


 動きはなく、周りの草が焦げている。

 結界の外の草が焦げているが、中は全く変化がない。

 黒い塊は脚の先だけ外に出ていて、全体が中に入っている。


『これ、強い雷で、やられた?ーーー誰が?』


 よく聞いてみると、マールが獲物を狩る時、雷の威力を強くしすぎてしまった時の獲物に、状態が似ているそうだ。


 これは、結界の外で焦げて、倒れる時に中に入ったってことかな?


 なんだか覚えがあるようなーー。


 私が間違えて発生させたサンダーボルトが、確かこっちの方で発生したと思ったなぁ……………。

 攻撃魔法の使えない結界の中で魔法をつかって空から雷を落とそうとしたら、結界にそって落ちてくるのではないだろうか。




「……………………私が殺りました」


『華が?いつ?』


「あぁ、マールが寝てる時に、間違って魔法使っちゃったの………」


『ふーん、そうなの』


「わざとじゃないんだよ!!まさか、呟いただけで発生するとは思わなくて」


『ーーー? 何故、慌てる?……中、食べれる?』


 あれ?一瞬、冷たくなかった?

 気のせい?眠ってるところを起こされて怒ったんじゃないの?




 違うんならいいんだけど………。



「ーーーー焦げてるところ剥がせば食べれるかな?」


 捌き方は欠片を検索すれば分かる。

 けど、


「実際にやってみると、結構難しい」


 ナイフが骨に当たって上手く開けない。

 髪の毛が焦げた匂いは、毛皮が焦げた匂いだった。焦げていたので簡単に剥がれ落ちたが、生焼けの中身は結構切りにくい。


 この多機能ナイフは刃渡り10センチと小さいせいもあるが、牛と同じ大きさの獣を捌くには無理がある。


 結局、両手の平に乗るくらいの塊二つ切ったところで、待ちきれなかったマールが残った獣にかぶりついて食べ始めた。

 切ったものより、こうやって食べるのが当たり前の子を、待たせる必要はなかったのだ。


 生焼けの部分を(体の中心部だけだったのでそんなに多くはなかったが)食べ終わったマールが、一生懸命に肋骨を取ろうとしているのを眺めながら、私はこの肉を食べられるのかなと考えていた。

 多分、食べられる。

 世界樹の記憶にある人間種は焼いて食べていた。

 

焼いて食べてみるか。


 

大きさは牛だが、大きな三本のツノは鹿のようで、このツノは固く丈夫で武具の素材として使われる。何かに使えないかとツノを持って引っ張ると、簡単に取れた。

 根元の部分が焦げたせいかな?ツノ自体は焦げることもなく頑丈そうだ。

 60センチ程の枝分かれしたツノを二本取って、リュックに沿うように紐で縛ってみた。

 あと一本は30センチ程で湾曲したものだが、肋骨をしゃぶっていたマールが見ていたので渡す。肋骨を地面に落として、ツノを咥えて振り回し始めた。体全体でツノを中心に振り回す。いつか、マールが飛んで行ってしまいそうだ。


「マール、危ないよ」


 言ったそばから、振り回しすぎて、口から離れたツノが、私の横を勢いよく飛んで行った。

 思わず避けて、飛んで行った後ろの草むらを見る。



「ゥグッ!」





「……え?」



 何か、いる?




読んでいただきありがとうございます。


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