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「ーー少し話そうか」


 と言っても、この子はまだ小さくて言葉が話せない。

 聞くことは出来るはずなので、一方的だが話しかける。


「まずは、自己紹介かな、私は鳴上(なるかみ)華乃。君に呼ばれて異世界(ここ)に居る。世界樹の欠片をもらった人間種」


 最後の言葉に驚いて目を開く子。私は正座になおし視線を合わせて、話を続ける。


「なぜ、私が選ばれたのかはわからないけど、出来うる限り君の力になる。これから君がどうしたいか聞きたいし、話したい。ーーーだから、私と契約して欲しい」


 雷の子は飛び跳ねて後ろに下がり、警戒心を前面に押し出して唸り、こちらを威嚇する。


「………分かっている。世界樹の記憶を少し貰ったから。君の両親が無理やり契約で縛られそうになったことも、君が憤りを感じていることも。ただ、私は君を操ろうとか、騙そうとか思っていない…………って、言っても信じられないよね」


 黒いたてがみを逆立て、こちらを睨む雷の子なのだが、尻尾が股の下にくるりとしまわれていて、つい、モフリたい衝動にかられる。ネコ科のように見えたが、イヌ科っぽい。いや、ここは異世界だから、どちらも入ってるのも有りか。

 ああ、衝動に心が揺れてしまったが、雷の子の警戒心が倍増しそうなので話を戻そう。


「……警戒されているようだから先に言っておくと、すでに自己紹介した時に、私の真名は告げてるからね。それと君の真名も、世界樹の記憶から知っているから。……………絶対に悪用しない」


 雷の子が生まれた時に雷の両親によって世界樹に紹介されていた。お披露目?自慢話?雷の両親は、世界樹に対して最初は祝福をと祈っていたのだが、直ぐに自慢話に変わっていた。


 でも、凄く良くわかる。今でも可愛いが、生まれて数日の雷の子は目も開いておらず、母親に咥えられて力の抜けた様子が可愛すぎたのだ。これなら自慢して可愛がりたいのも理解できる。



 契約は四つ種類があるのだが、一つ目は一般的に商売などで使われる『縁の契約』。

 二つ目は結婚や養子などの契約で使われる『結の契約』。

 三つ目は主従や師弟で使われる『忠の契約』。

 最期は犯罪者に使われる『隷の契約』。

 最後の契約は国によっては禁止されている所もあり、その国内で見つかれば即、契約解除される国もある。


 グラスシス国が雷の両親を従わせる為に使おうとしたのも隷の契約だった。相手の真名を一方的に使って縛る契約で契約主に逆らえなくなる。

 真名を知られていなかった雷の子は契約に縛られることがなかったが、両親の真名を聞き出す為に囮にされ、もしかしたら痛めつけられたのかもしれない。


 世界樹の欠片も万能ではない。

 欠片というだけあって、世界樹の記憶の1000万分の1も入っていない。世界樹に生えている葉の一枚分の記憶。世界の始まりからここに在る世界樹なので、欠片でも人間には一度で理解するには途方も無い量の記憶だった。

だから私は脳を守る為に気絶してしまった。今は頭の一部に今までの人生や思い出を押しやって、世界樹の記憶を入れ込んでいる状況らしい。私より前に世界樹の欠片を得た種族が晩年検証した結果を先ほど見つけた。


「ガルゥ!」


 ああ、もふもふの誘惑から色々と考えるのに没頭して、雷の子を放置していた。しかし、雷の子も考えをまとめたようで、こちらをしっかりと見つめている。


「契約するかい?」


 手を差し出して聞いてみると、雷の子は視線を逸らさず一歩ずつ近づく。

 私を上目遣いで見ながら、手に近づき匂いを嗅ぐと、


「痛ッ」


 ガブリと親指の付け根に噛み付いた。

 血が滲む親指から口を離すと、ペロリと血の付いた親指を舐めて、ガウと鳴く。


「血を使うのなら、もうちょっと心の準備が欲しかったけどーーー君がいいなら契約しよう」


『我、マルーセは鳴上華乃と契約を結ぶ』


 喋れない雷の子と体液を交換し、契約を結ぶことにより思念の会話ができるようになる。

 ただ、契約に真名を使っている上に内容を指定していないので、後で契約する私の良いように契約内容を決めてしまえることが分かっていない。後で教えておかないと。

 まずは契約を交わしてしまおう。


「私、鳴上華乃はマルーセが必要としなくなるまで、彼を害せず、助け、できる限りの希望を叶えることを契約する」


 私から深い緑のキラキラした光が伸びて、雷の子から金色の光が伸びて、真ん中で繋がり結ばれた。

 これで契約が完了した。


「いつまでも雷の子っていうのもなんだから、マルって呼んでも良いかな」


『マールだ』


「マールね。改めてよろしく。ーー早速だけど…」


 契約について、いくつか注意点を話し、マールが納得するまで教える。

 最初は、縁の契約を結ぶつもりで、愛称や真名の一部で契約をするのだと私は勝手に思っていたのだが、マールは真名を名乗り、私の名も真名で呼んだため、忠の契約が交わされた。

 やはり契約についてよく知らなかったマールは、両親から断片的に聞いた方法で契約を交わした。


「マール、呼ばれたからにはあなたの事を精一杯で助けるよ。でも、何故私を選んだのか、教えて欲しいんだけど?」


『魔力が近かった』


「魔力が近いって、似ていたってことかな」


『似ていたーー契約、真名にもひかれた』


「真名………私の苗字かな。なるかみって昔は鳴る神って書いたらしいんだけど、雷様の別称らしいから。神様の名前が入るのはおこがましいからって、上の字に改名したらしいけどーー」


 魔力が近しいってことは、最初からマールがそばに寄ってきたのは魔力の回復を早めるためだったのか。親兄弟では魔力の質が似ているため、側で休息するだけで回復が早まるのだ。

 チョット残念。

 動物に好かれる体質でも無かったので、マールが初対面の時、あれだけ側で寝てくれたのが嬉しかったのだが。ーー嫌、これからも側で触りたい放題だと思えば、魔力が似ているのはラッキーだと思おう。


『水、飲む』


 喉の渇きを覚えたマールが、世界樹の樹から離れ歩き出した。マイペースだね。

 世界樹の近くによく使っていた水場があるそうだ。

 私の水筒も残り少ないのでこの機会に水場と、周りの様子をこの目で見に行こう。


「私も行くよ。食べられるものがあったら採りたいから、見つけたら教えて」





読んでいただきありがとうございます。

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