表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/105

ネコネコ通信 B-side

「山本舞って、いいよなぁ~」

 そういうと、上村や松田は決まって、「そうか~? 俺、あんな暗い地味な子より、秋田実夏とか、戸村みたいな、もっと明るい華やかな子の方がいいけどな!」って言いやがる。

 あんなキャーキャーうるさいだけで、頭が空っぽな女たちのどこがいいんだか、俺には理解できないよ。

 昨日も、俺がバントの練習をしていると、山本が近くを通りかかった。俺、すんげー緊張してしまってさ。いつもなら、構えて、バットを動かすだけで、簡単にボールに当てられるのに、何度も当て損なった。バットに当たらなきゃ、バント練習になんないのに、これじゃ意味ねぇ~

 だから、仕方なく、ピッチャーがスクイズ警戒して、大きく外してきた、つまりウェストしてきたつもりで、体ごとぶつかっていったら、ようやくバットにボールが当たった。

 俺は、イチローみたいな華麗なセーフティバントをしたかったのに・・・・・・

 体ごといちいちいってたんじゃ、一歩目から出遅れて、一塁でセーフにならねぇ~!

 山本さえ近くにいなけりゃ、俺、もっとうまくできるのに。ったく!

 でも、じゃ、どっかいってほしいかっていうと・・・・・・

 俺、どうすりゃいいんだよ!


 今日から、中間テスト前のテスト休み。

 久しぶりに部活が休みで、学校が終わってソッコー家に帰り、勉強していたんだけど、全然頭に入ってこねぇ~

 普段から、授業中は机に突っ伏して、寝てることが多いから、授業なんて聞いてないし、まともにノートなんてとってない。こんなんで、いまさら勉強しようって方が、そもそもムリってもんだ!

 それでも、俺、がんばって机にかじりついてはいたけど、結局1時間ももたなかった。

 しかたなく、勉強机の上の教科書を閉じて、台所へ水を飲みにいった。


 台所では、ばあちゃんが、玉三郎に煮干をやっていた。

 ホント、玉三郎、煮干をパリポリパリポリ美味しそうな音を立てて、食べてやがるし。

「おい、玉? 煮干って美味しいのか? それ、一匹くれよ!」

 俺が玉三郎の皿から、煮干を失敬しようとすると、玉三郎のヤツ、するどい爪見せて、俺の指先を引っ掻こうとする。

 ほんの小さな釘の頭ほどの爪のくせに、ちょっとかすっただけでも、血まみれになるから、こいつは要注意!

 俺は、慌てて、指を引っ込めた。

「こら! 悠太、いじきたないまねしないの!」

 ばあちゃん、台所のテーブルの上で、玉三郎の首輪にくくりつける手紙を書きながら、俺を叱る。

 玉三郎は、その間、小気味いい音を立てて、煮干をがっついていた。


 ばあちゃんが手紙を書き終えた頃、玉三郎も煮干を平らげ、いつものように、ばあちゃんの膝の上へ。

 みゃ~ぅ

 ばあちゃんにあごの下をなでられて、ゴロゴロとご機嫌さん。

 いつもなら、そのあと手紙を手早く首輪にくくりつけ、放してやるんだけど、今日は・・・・・・・

 トゥルルルル・・・・・・

 電話だ! ばあちゃん、玉三郎を床に下ろすと、「はい、はい」って呼び鈴に返事をしながら、歩いていった。

 その途端、玉三郎、トトトっと、開けっ放しになっていた勝手口の方へ移動し、外へ。

「あ、玉ちゃん! 悠太、玉ちゃんに手紙つけてない! 追いかけて! 追いかけて、手紙つけてきて!」

 ばあちゃんの叫びを背にして、俺、慌てて、玉三郎の後を追って行った。


 玉三郎は、名前の通り丸々とした猫のくせに、意外と俊敏で、足が速い。

 野球部でも1番か2番を打つ、俊足な俺なのに、全然追いつかない。

 裏庭を抜けて、通りを横断して、角を曲がって・・・・・・

「こ、近藤君!」

 山本舞が角を曲がった『山本』って表札のかかった家の前でしゃがみ、玉三郎の頭をなでていた。

「お、山本! 玉三郎って、山本の家の猫だったのか?」

「え? う、うん・・・・・」

 そ、そうだったのか・・・・・・

 玉三郎って、山本の家の飼い猫だったんだ! 意外な縁が俺たちにあったんだ!

 俺、心臓がバクバクいっていた。今全力疾走してきたからだけじゃなく、意外な発見に興奮して。

「そっか、うちのばあちゃんが、いつも玉三郎を膝に乗っけて、昼寝してるから、どこの猫かなって」

「そ、そうなの。へぇ~ 近藤君ちにも玉三郎、遊びにいってたんだ」

「うん、いつもばあちゃん、玉三郎に煮干をあげるんだけど、今日は手紙をくくりつける前に、玉三郎が帰っていっちゃったから、慌てて追いかけてきたんだ。あ、コレ、ばあちゃんから」

 俺、山本に手紙を渡した。なんか、なんか、すごく照れくさい!

 でも、どうせ山本に渡すんだったら、『煮干5匹上げました。福島』なんて、紙切れじゃなくて、もっと俺の思いのこもった・・・・・・

 あっ、俺、調子こいて、なに考えてるんだ! 自分でも頬に血がのぼったのに気づいた。やばっ! 山本に気づかれたかも! ともかく、なるべくさりげなく、自然に応答しなきゃ。

「え? 福島さんって、近藤君のおばあちゃん?」

「ああ、母さんの母さんだから、近藤って名字じゃないんだ」

「そ、そうなんだぁ~」

 だ、だめだ! 山本って、近くで見ると、眼がキラキラして、すごくかわいい! だれだよ、暗くて地味なヤツって言ってたの! 笑顔がまぶしいぐらいだよ。

 そういえば、山本と二人だけで話すのって、初めてのこと。

 た、たえられない!

「じゃ、そろそろ俺、帰るわ」

「うん。またね」

「ああ、また明日」

 俺、くるりと、山本に背を向けた。そして、もと来た道を引き返していった。

 明日、玉三郎が来たら、俺も手紙を首輪につけてやろうかな。

 キラキラ輝く瞳のあいつに・・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ