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つなぐ手

 私たち仲良し3人組は、それぞれ浴衣を着て、近所の神社の夏祭りに出かけた。

 もう日がとっぷりと暮れて、ずっと真っ暗な道を、3人手をつないで歩いてきた。それでも石につまずいたりして。なのに、鳥居をくぐり神社の参道に入った途端、両側にびっしりと並んだ露店の明かりに照らされて、辺りは煌々とまぶしい。

 まるで別世界。

 その照度の落差が、私たちをいっぺんに夢の国へといざない、高揚感を強める。

 そう、私たち3人は、その瞬間からワクワクし、興奮していた。

 だから、あちこち露店を見てまわるうちに、私がはぐれてしまったのは、考えてみれば当然だったのかもしれない。


 私、他の二人を探して、両側に露店の並ぶ参道を行ったり来たりしてみた。

 でも、見当たらない。

 参道をそれた西側には林が広がり、東側には川が流れている。

 露店の明かりで参道はまぶしいぐらいに明るいといっても、一歩脇にそれ、林の中に入ると、真っ暗。女の子二人だけでそんなところへ入り込むはずはない。とすると、東の方、河原にでも行っているのかしら?

 そんなことを考えながら、土手を登ると、河原側の斜面には、既に大勢の人が集まっていた。

 そういえば、毎年、夏祭りにあわせて、市の花火大会が開催されるのだっけ。

 土手から見えるのは、人人人。人の頭が露店の光の届かない暗がりに並んでいた。あちこちで携帯のバックライトに周囲がボーっと照らされ、あちこちで熱気にほてった身体をあおぐ団扇がヒラヒラと動く。

 もちろん、そんな状況だから、土手の上からは友達の姿は見つけられなかった。

 そうだ、携帯!?

 探そうとして思い出した。浴衣に着替えたとき、服のポケットに入れっぱなしだった。

 失敗した! 露店見てまわるつもりだったから、財布は忘れずに巾着に入れて持ってきているのに、携帯をわすれちゃうなんて・・・・・・

 一瞬、取りに帰ろうかとも思ったけど、でも、またあの暗い道を、今度は一人でなんて、無理!


「よっ、木村!」

 あれこれ思い悩んでいると、肩を叩かれた。男の声。

「えっ?」

 振り返って戸惑っちゃう。こんなだぶだぶTシャツの男子に知り合いはいない。でも、どことなく見覚えが。どこかで・・・・・・

 そうだ! 中学のとき、3年間ずっと同級生だった高山君。

 ん? でも、高山君と私って、中学のとき、接点なんてまったくなかったし、3年間一緒だったのに、ほとんどしゃべったことなんてなかったはず。

 困惑顔の私に構わず、明るい笑顔でしゃべりだす。

「さっき山中と川端が、お前のこと探してたぞ? 迷子だって?」

「え? 奈美ちゃんたちと会ったの?」

「ああ、10分ぐらい前に、神社の境内のところで」

 10分前か。それじゃ、今から境内の方へ向かっても、もういないだろうなぁ~

 なんて、思っていたら。

「なぁ、それより山田とか、渡辺とかに会わなかった?」

「えっ?」

 高山君、自分を指差した。

「実は、俺も迷子」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 プッ

 二人して、同時に吹き出す。

「なにそれ?」

「露店見てたら、いつの間にか・・・・・・」

「子供みたいだねぇ~」

 自分のことを棚にあげて・・・・・・ でも、それが正直な感想。

「あはは。だろ? でも、やっぱ夏祭りの露店っていったら、ワクワクしちゃって、ついつい周りのことが見えなくなるもんだろ?」

 まあ、たしかに・・・・・・ すくなくとも、私はすごく納得♪

「あ、そうだ! 高山君、携帯もってない?」

「え? ああ、家に忘れてきた。だから、アイツらに連絡とれなくてさ」

 なんだか、何から何まで私にそっくりなヤツ。

「って、ことは、木村も携帯もってないんだな・・・・・・」

 正直にうなずいた。

「さて、どうするか・・・・・・」

 腕を組んで、あごの下をなでながら、小首をかしげる思案顔の高山君。私より一回りほど背が高く、すらりとしているのだけど、ガッチリとした体型。なにかスポーツでもやっているのかしら? そういえば、中学のとき、どこか体育会系クラブのキャプテンをしていたっけ?

 とりとめもなく、考えていると・・・・・・

 ひゅ~~~~~どっか~ん!!!

 途端に、高山君の顔が赤く照り映える。

「おっ! 花火」

 土手のあちこちから『たまや~』だとか、『きれい♪』だとか、声が聞こえてくる。

 私も振り返った。その瞬間には、自分が迷子だってことをすでに忘れていた。


「きれい! きれい! きれい!」

 私、パンパン両手を叩きながら、子供のように飛び跳ねて喜ぶ。

 その隣で、高山君。

「おっ! すげぇ~ たまや~!」

 私と同じくらい楽しんでいるみたい。

「わぁ~ 素敵~」

「おわ! やばい! やばいぐらいデカイ!」

 赤、黄、青の光の乱舞。炎の舞。

 いがらっぽい煙が風に乗って時々流れてくるけど、でも、見ていて飽きない。すべてを忘れてしまう美しさ。

「ねぇ、ねぇ、今の見た? すごい! すごい素敵だったね?」

 嬉々として喜んでいる私に袖を引っ張られ、紫に染まった高山君、私を見た。そして、なぜだか一瞬、息を飲んだみたい。

「・・・・・・ああ、きれい・・・・・・」

 私はそれからも『きれい』とか、『素敵』って言葉を連発し、額にうっすらと汗をかきながら、ずっと夢中になって花火を見ていたのだけど、途中から、私の隣から聞こえてくる声は、『ああ』とか、『そうだね』だとかばかり。

 もうすぐ花火大会も終わりってころになって、そのことに気づいた。

 そっと、隣の様子を観察してみると、高山君、花火を見ないで、じっと私を見ていた。

 赤や青や黄色の光に染められながら、じっと私を見つめている高山君。同じ色に染められながら、見られている私。

 自然に頬が熱くなるのを感じた。タダでさえ、花火に夢中になって、興奮で身体が熱くなっているのに・・・・・・

 すこし、着崩れた襟元を、気づかれないようにソッと直したりして。


 ようやく、最後の花火が打ち上がり、河原に仕掛けられた仕掛け花火に火がついて、花火大会は終わった。

 土手中から、一斉に拍手が湧き上がる。

 私も、痛くなるぐらい両手を打ち鳴らす。

「ねぇ? すごかったね? きれいだったね」

「ああ、すごくきれいだった」

「興奮しちゃうね? 感動しちゃうね? うっとりだよね?」

 私、興奮して、なんどもなんども高山君に同じことを尋ねちゃう。

 そのたびに、ウンウンうなずいてくれる高山君。

 私のこの感動を共有していてくれている高山君。

 でも、なぜか、私と視線が合うと、急いで目をそらす。

 やがて、ボソッと

「そろそろ、行こうか?」

 私に右手を差し出してきた。

「え?」

 握手? ってわけじゃないよね。

「また、迷子になると困るから・・・・・・」

 左手の指で鼻の頭を掻いている。

 しばらく、よそを見ている高山君の顔と右手を交互に見比べて、私その場に突っ立っていた。

 でも、

 クスクスクス・・・・・・

 つい笑い声が出ちゃう。お腹を抱えて、すこし中腰になったりして。

 その様子に、最初、呆気にとられていた高山君、すぐに青い顔に、そして赤い顔になった。まるで、さっきまでの花火を見ていたときの再現のように。

 それもおかしくて、私の笑いの衝動なかなかおさまらない。

 ようやく、笑いが止まったときには、目の前の高山君、左手で頭を抱え込むようにして、私に背を向けて黙って立っていた。

 その姿を目にして、わけもなく、私、駆け出す。

 高山君のそばを通り抜けるときに、一度だけ立ち止まって、無理やりその手を握る。

「え?」

「ほら、行くわよ。ちゃんと私の手をつかんでないと、また迷子になっちゃうぞ。しっかりつかんでおいてね?」

 一瞬、間があった。でも、ちょっぴり弾んだような声で、

「お、おお」

 先を駆けていく私とつながった手は、あったかくて、ゴツゴツして、大きかった。

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