表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/105

プリントを届けに

――ピンポーン

 玄関のチャイムが鳴ったようだ。

 寝ているのも、いい加減うんざりしていて、ベッドの中で文庫本を読んでいた俺は、スリッパを突っかけながら、パジャマのまま、インターホンとつながっている電話をとった。

「はい」

「あ、えっと、智也くんと同じクラスの三浦といいます。智也くん、いらっしゃいますか?」

「え? あ、はい。ちょっと待ってて、今行くから」

 なんで、三浦が俺の家を訪ねてくるんだ? 確かにクラスの中では家が近所な方だが、だからといって、俺を見舞いに来るほど親しいというわけでもない。なんだ、一体?

 不思議に思いながら、そのまま玄関に移動し、ドアを開ける。

「なに? どうしたの?」

「あ、うん」

 そう言って、三浦は手に提げたカバンの中をゴソゴソ探る。やがて、何枚かのプリントを取り出した。

「今日のプリント。届けに来た」


 子供の頃から、この時期と秋になると、いつも病気になった。

 毎年、寒い季節と温かい季節の変わり目に体調を崩し、学校をやすむ。一日のうちでの気温の変化が大きくなるのとすごしやすくなる時期で気が緩むのとで、そういうことになるのだろう。逆に本当に寒い真冬にはピンピンしていて、ここ10年は風邪にすらかかったことがないのだし。

 というわけで、今年もこの季節がやってきて、案の定、昨日から38度を越える熱を出して寝込んでいたのだった。


 俺は玄関に転がっていたサンダルを突っかけて、外へ出、門越しに三浦からプリントを受け取った。

「ちゃんと渡したからね」

「ああ、ありがとう」

 三浦は学校帰りらしく、制服のブレザーにスカートをきっちりと着崩れなく着こなしており、うしろでひっつめにした黒髪と黒縁眼鏡にだいぶ傾いてきた太陽の光を反射しながら立っている。あいからず優等生っぽい雰囲気だ。

 ついついそんな三浦の姿を頭の天辺から足元までしげしげと眺めまわしてしまった。

「なによ?」

「あ、いや。なんで、三浦だったのかなってさ」

「私じゃ不満なわけ?」

「ううん。全然。そんなことないよ」

 なにしろ曲がりなりにも女の子が我が家を訪ねてくれるイベントなんて、そうそうあるようなことじゃないし。

 けど、そんなことより、本当になんで三浦だったのだろうか?

 同じクラスには、三浦よりも自宅の距離的にも、人間関係的にも、近いヤツがいるっていうのに?

 はっ! ま、まさか、三浦のヤツ・・・・・・

 そんな疑惑が顔にでていたのだろうか。三浦は、これ見よがしにため息をはいた。

「ったく、なんで男子って、どいつもこいつもうぬぼれが強いのかしら」

「ん?」

「あんたら、どこまで仲良しなのよ。二人して病気になるなんてさ」

「えっ?」

「今中くんも、今日は休みだったわよ」

「あっ、そ、そうなんだ」

「そうよ。あんたら、友達なんでしょ? お互いメールとかで今日休むって連絡しなかったの?」

 あっ・・・・・・ 忘れてた。けど、ま、女子ならともかく、男同士って、これが普通なんじゃ。

「ったく、さっき、あっちの家に行ったら、家の人に彼女だと間違われるし、アンタはアンタで、私のこと誤解するし。今日は散々だわ」

「あはははは・・・・・・」

 頭の後ろを掻きながら、ごまかすしかないわけで。

「とにかく、次、病気になるなら、今中くんと同じ日にならないように気をつけなさいよね!」

「ああ、なるべく、そうするよ」

「じゃあね」

「ああ。プリント届けてくれてありがとうな」

 そうして、三浦はきびすを返して、まだ門扉にもたれかかるようにして見送る俺の方を見もせずに、立ち去ろうとするのだった。

 けど、その後姿をながめていたら、なんかまだ言い足りないような気がしてきた。だから、それを口に出し、三浦の背中にぶつけた。

「けど、三浦が同じクラスでホントよかったよ。マジで、すげぇ、うれしかった」

 一瞬、三浦の足が止まった。けど、また、すぐに歩き始める。さっきよりも、いく分かテンポを速めて。若干、背中を丸めて。

「三浦がもし寝込んだら、今度は俺がプリント届けてやるよ」

 その声が三浦の耳に届いたかどうか、俺にはわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ