欠けたハート
もうすぐバレンタインデー。というわけで、今回は、バレンタインに関連した作品を集めてみます。甘ったるすぎて、胸やけするかも!
「岳広いる?」
そう大声を上げながら、俺の部屋に飛び込んできたのは、同い年の幼馴染さくら。
家が隣で、親たちが同級生だったとかで、家族ぐるみ、やたらと仲がいい。
だから、いつも勝手に俺の部屋に入ってくる。
俺たちは、幼稚園のときからの腐れ縁で、小学校時代は、ずっと一緒に登校してきた。
そう書くと、まるで俺たち恋人同士かなにかのようだけど、隣同士なので、単に集団登校のグループが一緒だっただけ。近所の上級生たち、下級生たちも一緒の登校グループ。
でも、グループの中で同学年はさくらだけだったし、6年間ずっと同じクラスだったから、さくらのことはよく知っている。
あいつの靴のサイズや、期末試験の成績。それから、あいつが初めて好きになった男・・・・・・
「あ、やっぱいた!」
「いちゃ悪いか! ここ、俺の部屋だぞ!」
「はいはい、そうね」
俺の鼻先で、チッチッチッと指を振る。
ふっと、甘ったるい匂いを感じた。
「ほら、岳広、さくら様が、あんたのために、わざわざ、これもってきてあげたのだから、感謝しなさい!」
俺に小さな紙袋を押し付ける。
「ん? なに?」
ガサゴソと紙袋を開けると、甘い匂いが立ち上ってきた。
中にあったのは、茶色い物体。
「チョコレート?」
「そ、もうすぐバレンタインでしょ?」
「って、チョコなら、14日に渡すべきものだろうが! 今日は、11日の建国記念日だぞ!」
折角の休日で、のんびりお気に入りの音楽を聴きながら、大好きなマンガを読んでいたのに・・・・・・
「そそ、だから、村田先輩のために、チョコつくってたの!」
ん? だからって、3日も前に、村田先輩でなく俺にチョコを寄越すことに、どういう意味があるというのだろうか?
「岳広、チョコ大好きだったでしょ? それあげる、食べて!」
「んん・・・・・・ ああ、いただいとくよ」
感謝の気持ちをこめて、軽く押し頂くようにしてから、チョコの袋をそばのテーブルの上に置いた。再びマンガに戻ろうとすると。
「ほら、岳広、たべてみなよ!」
慌ててテーブルの袋をとって、押し付けてくる。
「ん? なんだよ? 今、たべればいいの?」
コクリと、うなずいた。
ガサゴソと袋の中をかき回し、チョコをひとつつまみ出す。
ハート型のチョコだった。ただし、ハートの耳の部分が半分欠けていたけど。
「えへ、失敗しちゃったんだ」
村田先輩のためのハート。今のさくらの気持ち。
なにか、苦々しいものを感じた。その苦さを消すために、手の中の一口サイズに割ったチョコを、口の中に放り込んだ。
濃厚な甘みが口いっぱいに広がった。
「どう? おいしい?」
心配そうな大きな瞳で俺の顔を覗き込んできた。
「ああ、おいしいよ。ちょっぴりほろ苦くて・・・・・・」