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初詣で

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

というわけで、今回は年末年始の作品を集めてみました。

 大晦日の夜、幸平が我が家へやってきた。

「おばさん、こんばんは、由佳いますか?」

「あら、幸ちゃん、こんばんは。もうすぐ着付け済むから、ちょっとコタツにでもあたって、待っててくれる」

 玄関に向かって、そう叫びながら、ママは私の帯をきりっと締め上げる。

 一瞬、息がつまりそうになった。

 帯の端を始末して、帯締めと帯揚げで押さえて、完成の合図に、ポンと叩く。

「ほら、由佳、出来たわよ」

「ママ、ありがとう」

「どう、苦しくない?」

 ちょっと深呼吸。とくに息苦しくはない。

「大丈夫だよ」

 私の返事に満足そうにうなずいて、

「ほら、幸ちゃんが待ってるわよ。出かけてらっしゃい」


 いつからだろう?

 大晦日の夜に、幸平と二人きりで、初詣でに出かけるようになったのって。

 お隣同士で、幼稚園の頃からの腐れ縁。

 小学校の頃には、近所の何人かのお友達と連れ立って、初詣でに出かけていたのに、親の都合で、一人引っ越していき、二人引越ししていくうちに、結局、幸平と私だけが取り残された。

 幸平も私もすぐ川向こうの新町までいけば、いくらだって友達がいるのだけど、初詣では、毎年、近所の神社にお参りすることにしているので、結局、一緒に行くことになっちゃうんだよねぇ。

 いくら近所だとはいえ、大晦日の真っ暗な中、女の子が一人で出歩くなんて、やっちゃいけない。親たちが話し合って、いつのまにか、私のエスコートが幸平の一年で最初の仕事になってしまった。

 毎年、幸平、私の隣を歩いて、初詣でに出かけるけど、いつもブスッとしちゃって、無愛想。

 いくら親の指示だからって、女の私と一緒に歩くの、いやなのかな?

 幼馴染だといっても、学校でもクラスは別だし、話をすることなんて、ほとんどない。

 もちろん、一緒に登下校するなんてこともないし。

 小学校のときから、そういえば、幸平と気安くおしゃべりしたことって、ほとんどなかったような。


「いってきまーす」

 私たち、連れ立って、家の玄関を出て、ゆっくり神社へ向かって歩き出す。

 冬の冷たい空気を震わせて、お寺の方から、除夜の鐘の音が聞こえている。

 向かいの家のテレビからは、蛍の光の合唱が、かすかにもれ聞こえる。

「さむいね?」

「ああ」

 幸平との会話はそれだけ。

 あとは、黙々と歩く。

 と、冷たいものを鼻の頭に感じた。

 顔を上げると、淡い白いものが、真っ黒な夜空から、落ちてくる。

「雪」

「ああ」

「雪降ってきたね」

「・・・・・・」


 神社に着くと、すでに大勢の人がいた。

 居合わせた顔見知りの近所のおじさん、おばさんに挨拶して、参道の屋台を二人してみて回る。

 たこ焼きをほおばって、焼きとうもろこしにかぶりつく。

 そうこうしているうちに、時計の針が0時を過ぎて、参拝が始まった。

 私たちも、人ごみに押されるようにして、本殿前に立ち、お賽銭を投げて、二礼二拍。

「どうか、無病息災で家内安全でありますように。それと、みんなが幸せでありますように」

 横目で見ると、幸平、なにやら熱心に祈願している。

 やがて、願い事が済んだみたいで、さっと一礼して、後ろの人に交代した。

 私も、同じようにして、ついていく。

 脇の社務所でおみくじを引いたら、二人そろって、小吉。

 境内の木の枝に結んで、破魔矢を買って、家路についた。


「ねぇ? 幸平、なに祈ってたの?」

 破魔矢を手の中でもてあそびながら、来るときと同じゆっくりとした足取りで、もと来た道をもどっていく。

「ああ」

 まただ。また、会話が終わった。『ああ』じゃ返事になってないでしょうが!

 すこしカチンときた! 体ごと向き直り、目を怒らせて、幸平をにらむ。

「ねぇ? もしかして、私と一緒にお参りするの、いやなの?」

 幸平、慌てて、目をそらし、困ったような表情を浮かべて、道の端に止めてあるよその家のバイクをにらんでいた。

 やがて、ポツリと・・・・・・

「いや、そんなことない」

「じゃ、なんで、毎年、なにもしゃべらないのよ!」

「・・・・・・」

 ちらりと私を見たみたい。でも、すぐに視線をもどす。

「お前となに話せばいいんだよ」

「なに、それ!」

 ギリッ! 奥歯をかみしめる。

 幸平、はぁ~とひとつため息。

「なに、ため息ついてるのよ! ため息つきたいのは、私の方よ!」

 私、破魔矢を握る手に力が入った。ダメ、このままじゃ、元旦早々から、喧嘩して、幸平を殴っちゃうかも。一年の計は元旦にありとかいうのに、縁起でもない。

気をおちつけるためにも、幸平に背を向けた。

 そんな私にむかって。

「あのさ、ずっと思ってたんだけど、小さいころから、お前と一緒に大きくなって、幼稚園はいって、小学校はいって、中学だろ? ずっと、ただの友達だったのに、古い付き合いのヤツだったのに・・・・・・」

 幸平、ちょっと口ごもった。

「今、お前、すげぇ、かわいいし、綺麗だし。一体、なに話せばいいんだよ」

 え? いま、幸平なにか言った?

「その着物、すごく似あってるよ。すごく、お前かわいいよ」

 慌てて振り返ったら、幸平、もう歩き始めていた。

 すぐに追いかけて、幸平と並んで歩く。ふたりともかたくなに黙って。

 やがて、私の家の前まで来た。

 じゃ・・・・・・

 ふたりして、同じ言葉をつぶやいて、私、玄関へ。

 ガラッとドアを開けた。

 何か忘れているような、物足りないような気がして、振り返った。

 そしたら、自然と口が動いて、背を丸めるようにして、隣の家へ去っていく背中に叫んでいた。

「ありがとう。それと、明けましておめでとう! 本年も、来年もよろしくね」

「ああ」と返事があったような気がした。

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