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手編みのマフラー

 今日も、通学路の先に、マフラーをグルグル巻きにして、うつむきがちに歩いている陽菜の姿が見えた。

「おっはようっ!」

「・・・・・・」

 マフラーのせいでくぐもって聞こえないけど、たぶん、陽菜も『おはよう』って返してくれたんだろうな。

「今日もさむいねぇ」

「・・・・・・」

 今度は『寒いね』かな。それから続けて、

「・・・・・・」

 えっと、今度はなんだろう? たぶん『寒いから、もう学校行きたくない』とかなんとかかな?

「なんて言ったの? マフラーのせいで聞こえないよ」

 ようやく、すこし口元のマフラーを下げて、

「さむいから、もう帰りたいって言ったの」

 当たっていた。



 その後も、おしゃべりしながら二人して並んで学校へ向かっていると、駅の方からの道と合流する交差点にでた。

「あ、間部だ」

「・・・・・・」

「オスッ」

「おすおす」

「・・・・・・」

 私の声に気が付いて、間髪入れずに挨拶をしてきた間部。それがちょっとうれしくて、すこしだけ弾んだ声になったかも。私の隣で陽菜はまたマフラーの中に埋もれているし。

 けど、間部の首元にはなにもない。外気に吹きっさらし。見るからに寒そう。

「間部なんでマフラー首に巻いてないの? 寒くないの?」

「ん? ああ、まあな」

 あいまいな返事。う~ん・・・・・・?

 たしか、そういえば、昨日も、その前の日の一昨日も、マフラーしてなかったような。いや、もっと前からか。ひょっとして、今シーズン、一度もマフラーしているのを見かけたことないかも。

「もしかして、マフラー持ってないとか?」

「ん? ああ、あるよ、家のどこかに」

「家のどこかにって・・・・・・」

「どっかに去年の冬物といっしょにしまったはずだから、探せばあるはずだ」

「なんだ」

「でも、探すの面倒くさい」

「面倒くさいって。それぐらい探そうよ。寒くなってきたんだから。風邪ひくよ」

「まあな」

 なんて、笑ってごまかすし。本当、ものぐさなヤツ。

「あ、分かった」

「ん? なに?」

「もうすぐクリスマスだから、間部のカノジョがマフラー編み上げてくれるの、待ってるんでしょう?」

 ちょっと得意げに私の名推理を聞かせてやったら、キョトンとした顔して、

「えっ? 俺、カノジョいないよ」

「なんだ、違ったか」

 途端に、私の脇腹をツンツンしてくる指がある。って、もう、くすぐったい!

「もう、陽菜、くすぐったいよ」

 陽菜の伝えたいことは分かっている。うん。チャンスだってことだな。間部って、おバカで怠け者だけど、黙って立っているだけなら、クラスでもイケメンの方に入らないこともないタイプ。それほど女子にモテはしないけど、いいヤツだとは思う。いいヤツなんだけど。

 だからって、なんで私が。

 けど、マフラーか。一日十ニセンチ編み上げるとして・・・・・・

 頭の中で計算していたら、

「それに、手編みのマフラーって重たいだろ」

「お・も・た・い・・・・・・」

 その一言に衝撃を受けてしまった。やっぱり、男子にとって、女子が心を込めて編み上げる手編みマフラーって重たいものなのかな? 面倒くさい女って思われちゃうのかな?

 もし、私に好きな人ができたら、クリスマスプレゼントに手編みマフラーあげるのって、ひそかな夢だったのに。

 呆然としてしまった。




 今朝も、マフラーに埋もれた陽菜を見つけて元気に朝の挨拶をする。

「おはよう」「・・・・・・」

 いつものように並んで歩きながら、交差点のところまで来ると、

「オスッ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 マフラーの中で意味不明の言葉をつぶやいたのは、陽菜だけじゃなかった。

「なんで、間部がマフラーなんかしてるのよ。しかも、それ手編みじゃない。重たいんじゃなかったの?」

 そう、間部のヤツ、首に毛糸で編んだマフラーなんかしてる。しかも、全然、嫌がっている素振りもないし、あったかそうだ。

「へへへ、いいだろう」

 白い歯を見せながら、嬉しそうに見せびらかせてくるし。

「そんな・・・・・・ ヵノ――いないって言ってたの、ウソだったんだ・・・・・・」

 声もなく立ち尽くしているしかない。

「ん? どうした?」

 間部が様子が急に変わった私のことを心配そうに覗き込んでくるんだけど、今は、それどころじゃなく。

――そうか、間部って付き合っている人とかいるんだ。って、そもそも、なんで私、衝撃受けているんだ? 別に間部のことなんか、最初から全然・・・・・・

「そ、それ、どうしたのよ」

 それだけを口にするので、精いっぱいだった。

「ああ、うちのばあちゃんが、俺にって」

 猛烈な脱力感が――へなへな~



「けど、これ重いんだよな。なんで手編みマフラーってこんなに重いんだ? 元の毛糸ならあんなに軽いのに」

 不思議そうに間部が首をひねっている。

「首に巻いてると、肩とか首とか凝るんだよな。まいるよ、本当」

 間部のそんな愚痴みたいなことを聞き流しながら、私は頭の中で考えていた。

――細めの毛糸で針を太目にすれば、軽くしあがるし。今からでも、私の速さなら十分クリスマスに間に合いそうね。

 ちょっとウキウキした気分。って、よく考えたら、なんで私が編むこと前提にしてるんだろう。しかも、この間部になんかに。

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