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モミの木に星は輝く

もうすぐクリスマスなので、クリスマスにちなんだ作品をいくつか

 勇介から、その話を聞いたとき、俺は正直あまり良いやり方だとは思わなかった。

 でも、一緒に聞いていた美加が妙に乗り気になっていて、わざわざ水を差すことでもないかと思い協力することにした。

 計画の決行は23日天皇誕生日。場所は美加の両親が経営するピアノ教室の中。

 まだ詰めきれていない計画の細かい部分は俺に一任されることになった。

「敏、頑張ってね」「敏、頼むな」

 はいはい。せいぜい頑張ってみせますよ。いろいろとな――。


 俺と勇介は、2メートル半はある本物そっくりの大きなモミの木を教室に運び込んだ。

 隅に立てる。

「わぁ~ ホント、おっきいよねぇ~」

「ああ、毎年のことだけど、デカいよな」

「ああ、そうだな」

 遥と俺、それに勇介が、聳え立つという言葉がしっくりくるようなモミの木を見上げながら、感嘆の声を上げる。

 毎年のことだ。

 毎年、この時期になると、美加んちの教室に集まって、4人でクリスマスツリーの飾り付けをする。

 近所に住む幼馴染み4人組。

 しょっちゅう、喧嘩をしたり、いがみあったりしていたけど、不思議とこのツリーを飾り付ける時期だけは、いつもみんな仲良くしていたなぁ~

 昔を思い出し、そんな感慨にふけっていると、家の奥から飾りの入ったダンボール箱を抱えて、美加が教室に入ってきた。

「ほら、みんなボヤボヤしてないで、飾りつけ手伝ってよ。早くしないと、教室の生徒さんたち、来ちゃうでしょ!」

「はーい」「ほーい」「あーい」

 モミの木を見上げて、微笑んでいた俺たち3人は口々に返事をして、美加が足元に下ろしたダンボール箱の中を物色し始める。

 でも、その美加はというと・・・・・・

「今年もよろしくね」

 ほけーと見上げて、モミの木にそう話しかけている。そして、そのまま口を閉ざして、見つめ続けた。いつまでも、いつまでも・・・・・・

「って、こらこら、美加、お前も手伝えよ!」


 紫色に光るボールを枝に引っ掛ける。

 はじめて、この3人に会ったのは幼稚園のころだったっけ。

 両親が中古で家を買って、引っ越してきて、まだ友達がいなかったので、ひとりで庭にでてオモチャで遊んでいると、妙な視線を感じた。で、そっちを見てみると、生垣の隙間から子供の顔が3つ並んでいた。

 思わず、あのときのことを思い出して、一人で噴き出してしまう。

「えー、なになに? なにか面白いことでも思い出したの? ねぇ~、なになに?」

「あ、いや、なんでもない。なんでも」

 慌てて手を振ってごまかして、ダンボールのところへ戻る。

 ふっと見ると、遥がソリの飾りをつけている。

 遥は泣き虫で、ちょっとしたことで、いつも泣いてばかりいたな。

 小学校のとき、俺と勇介が近所の神社でカブトムシを捕まえたので、おつかいの帰りでたまたま通りかかった遥に自慢げに見せたら、なぜか怖いと大泣きをはじめて、二人してオロオロしてたら、美加が俺たち二人がかりで遥をいじめてると勘違いして、近所中、追いかけ回されたな。

 結局、折角捕まえたカブトムシもどこかへ逃げていっちゃって、泣きたかったのは俺たちの方だった。

 そんなことを思い出しながら横を見ると、美加がくつしたの飾りを手にとっていた。

「ん? なによ? なにか私の顔についてるの?」

「あ、いや、別に?」

――ガチャガチャ

 勇介が脚立をもって教室に入ってきた。そのままツリーの前に立てる。

 中学卒業後、ずっと一緒だった4人が、それぞれ別々の高校へ進学した。

 それぞれに勉強やら部活やらバイトやら家の手伝いやらで忙しく、たまに街角で見かけるぐらいで、話すこともなく、もう一緒の時間をすごすことはないのだと、すごく寂しい思いでいた。

 そんな高1の天皇誕生日、突然、俺の家を勇介が訪ねてきた。

「いくぞ!」

 玄関に出た俺に開口一番そう言う。

「え、どこへ?」

「美加の家。今年もツリー手伝いに行こうぜ」

 見ただけで人をひきつけるような明るい笑顔で俺を誘った。思わず、俺は突っ掛けを履いて、フラフラとついていったっけ。

 その後、遥の家を回り、美加の家へ。

 美加も驚いた顔をしていた。後で聞いた話では、勇介は別に美加と約束なんかしていなかったらしい。

 俺たちは突然、美加の家に押しかけ、ツリーの飾り付けをしたのだった。

 結局、そんなことがあったおかげか、俺たち幼馴染み4人は、大学を卒業した後もこうして集まって、わいわいツリーの飾り付けをしている。

 勇介のおかげだ。

 小柄な美加が早速その脚立に登って、モミの木に雪に見立てた綿をかけている。

 その足元にいる勇介と眼があった。うなずき合う。

 いよいよ活動開始だ!


 俺は、みんなに気づかれないように隅の椅子に掛けて置いた自分のダウンの中から、こっそりとリングを取り出した。

 みんなからすこし離れたところでステッキの飾りを手に持ち、どこに飾ろうか悩んでいる遥の隣に静かに移動する。

「あ、あの、遥・・・・・・」

「あ、敏くん。これ、どの辺りがいいと思う」

「・・・・・・」

 なかなか返事をしない俺を不審げに見る。

「ん?」

「ちょっといいか。頼みたいことがあるんだ」

「なに? 私でできることだったら・・・・・・」

 俺は手に握っていたリングを遥の手に握らす。

「えっ! な、なに? なんで、私に!?」

 なぜか焦ったような声。かすかに頬を染めている。って、これって、絶対なにか勘違いしてるよな。

「って、お前にじゃねぇよ! バカ!」

「・・・・・・はぁ!? なによ、それ! もう!」

 憤然とした眼をして俺を睨む。

「それ、美加に渡したいんだ。手伝ってくれ」

「えっ? でも、そういうのって自分でやった方が・・・・・・?」

「分かってるよ。それぐらい。でも、ちょっと計画があってな」

 俺は、遥の耳元に唇を寄せて、これからの計画を話した。

 後でモミの木の天辺に飾るクリスタルの星を遥に渡すから、星を乗せる前に、梢にそのリングをかけておいてほしい。クリスマスの後、ツリーを片付けるときに美加にその星を回収させるから、そのときに見つけるようにしたいんだってことを。

 途端に、遥の瞳の中に星がきらめいた。

「わぁ~ なにそれ。素敵~!! きっと美加も喜ぶよね。あの子って、案外、そういうロマンティックなことって好きだから」


 ツリーの飾りつけはほとんど終わった。

 後は、天辺の星を飾るのみ。

 うまくだれよりも早く星を手にして、ツリーを見上げる。それから、

「美加って、確か、高所恐怖症って言ってなかった?」

「え? あ、うん。そう。私、高いところって苦手」

 って、さっき脚立にのぼってたのだけど。それは見ないフリ。

「じゃ、遥。最後のコレ、よろしく」

 遥にだけ見えるようにウィンクをつける。

「はーい」

 よい返事で華やかに笑う遥。

 遥は、さっそく俺と勇介が抑える脚立に上り始めた。

 一歩一歩。慎重に。ゆっくりと。

 やがて、脚立の一番上に立つ。

「それじゃ、つけまーす」

「ああ」「よろ」「よろしく~」

――ッ!?

 と、不意に、上で息を飲む気配がした。

 やがて、

「なんで、もう梢に指輪が・・・・・・?」

 思わず、下にいるみんなの顔に笑みが。

 すぐに、俺のとなりの勇介が優しい声音で言う。

「遥、裏の刻印みてみろよ」

――?

 しばらくして、

「ゆ、勇介・・・・・・」

 突然、俺の抑えている脚立が大きく揺れた。遥が飛び降りたのだ。

――ドサッ! ガシャンッ!

 次の瞬間、遥に飛びつかれ、支えきれずに勇介がしりもちをついていた。それでも、遥の体をしっかりと受け止めている。背中に腕を回して、強く抱きしめている。

「結婚しよう・・・・・・」

 そうささやきながら。


「ねぇ? アンタ、遥のこと好きだったでしょ?」

 いつの間にか、俺の横に移動していた美加が、俺にそうそっとささやきかけてくる。

「ああ、高校のときな」

 正直にそう答えた途端、俺の脚に鋭い痛みが・・・・・・

「フンッだ! ご愁傷様ッ!」

 俺は肩をすくめ、ちょっとツリーを見上げ、すぐに美加に視線をもどす。目の前でアツアツの抱擁を交し合っている二人を見ているのが気まずい。

「これ、片付けるときは俺たち二人だけだな。きっと・・・・・・」

「ええ、そうね。この二人はあてにできそうにないわね。はぁ~」

 吐息だか、ため息だか、どちらともとれるような息を吐き出し、美加は笑った。

 その笑顔がちょっとまぶしくて、またツリーを見上げた。

 もちろん、その視線の先には遥がセットした輝く星があった。

「メリークリスマスだな」

「ええ、メリークリスマスね・・・・・・」


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