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すーぱーまーけっと

 人使いの荒いママが、今日も私に財布とメモを押し付けてきた。

『近所のスーパーで買い物して来い!』ってことだ。

 なんでこんな寒い日に、学校から帰ってきたばかりの私が、買い物へ行かなくちゃいけないのよ!

 まったく、もう!

 不満顔の私だったけど、お釣りで好きなもの買ってきてもいいというので、しぶしぶ出かけることにした。


「えっと、白菜とネギと大根と・・・・・・ ポン酢に、お魚の切り身、豆腐。って、ことは、今晩は、またお鍋か。今週、何回目だよ! ったく!」

 メモを見ながら、ぶつぶつつぶやいている私。

「まあ、お鍋好きだけど・・・・・・」

 入り口近くの野菜のコーナーで白菜とネギと大根を次々とカゴに放り込む。

 さて、次はお魚のコーナーへ。

 歩いていこうとして、後ろから肩を叩かれた。

「え?」

「水野、買い物?」

 振り返ると、同じクラスの阿部君。

「う、うん・・・・・・?」

 教室では、席が離れているし、友達というわけでも、共通の友人がいるというわけでもない。

 ただの同級生。

 そのただの同級生が、なんで私に声をかけてきたのだろう? それも、満面の笑みで?

「水野って、料理とか詳しい人?」

「え?」

「お袋に買い物頼まれたのだけど、いまいちよく分からなくてさ。ここいろんな種類あるだろ? 手伝ってくれない?」

 ニコニコ・・・・・・

 うう、そんな無邪気そうな笑顔で頼まれちゃったら、断れないよ。

「う、うん。いいけど・・・・・・」

「おっ! いいの? やった!」

「・・・・・・」

 阿部君って、こんな明るいキャラだっけ?

 いつも休憩時間には、教室の隅で文庫本とか読んでいるだけのイメージしかなかったのだけど・・・・・・


「で、なに買うの?」

「ああ、これ」

 阿部君が渡してくれたメモには・・・・・・

「じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉。ってことは、今晩、肉じゃがか、カレー?」

 私の質問にキョトンとした顔。

「え? そうなの?」

 た、頼りにならないヤツ!

 ハァ~

「ま、いいわ。じゃ、じゃがいもから、そこの長いめのじゃがいもとって」

「え? これ?」

「ちがう、丸い男爵じゃなくて、そこのメークインって書いてあるヤツ」

 阿部君、メークインの袋をひとつとって、しげしげと眺めてる。

「ねぇ? なんで、これなの?」

「メークインは、煮込んでも型崩れしにくいの。そっちの男爵だとか、カレーに入れると溶けちゃうよ」

「へぇ~ そうなんだ」

 納得したようで、手の中のメークイン、ようやく自分のカゴに放り込んだ。

 そんな調子で、時間をかけてにんじんも玉ねぎもカゴに放り込んで、

「次、お肉ね。そこのシチュー用ってヤツならどれでもいいわよ」

「ああ、これ。分かった」

 阿部君が牛肉のパックを選んでいる間に、私は、隣の鮮魚コーナーで魚の切り身の詰め合わせをチョイス&ゲット。

 ついでに、美味しそうな牡蠣もカゴに。

「で、どう、いいの選べた?」

「あ、うん、ありがとう」


 それから、ふたり並んで、乳製品コーナーで明日の朝食用に牛乳を買って、ヨーグルトも手に入れて。

 パンのコーナーへ移動して、食パンだとか、菓子パン。

 調味料のコーナーでポン酢を買って。

 で、最後に行ったのが、お菓子売り場。

 途端に、阿部君、決まり悪そうな表情を浮かべた。

「なあ、悪いけど、俺の代わりにチョコ買ってくれない?」

「え? なんで?」

「だって、ほら、もうすぐ、その・・・・・・」

「ああ、バレンタインか」

 まじまじと阿部君の顔を見つめちゃう。

 阿部君、赤い顔でもじもじとして、下向いて。

 ぶっ!

 思わず、噴き出しちゃう。

「わ、笑うなよ! こんな時期に、男が一人でチョコなんて買ってたら、可哀そうに思われちゃうだろ!」

「はいはい。うふふふ」

「大体、なんでチョコなんぞ、お袋俺に買わすんだよ! それぐらい、自分で買って来いってんだよ!」

 テレながら、文句を言ってる。

「あら? 知らなかった? カレーにちょっぴりチョコ入れると、まろやかな味わいになるのよ」

「え? ホント?」

「うん」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 ビックリした眼をして、私を見つめてる。

「ふふふ、じゃ、この板チョコにするね。いい?」

「ああ、頼む」

「はーい」


 というわけで、私たち、レジで精算してもらって、レジの向こうの台で持参してたエコバックに品物を詰め替えた。

 もちろん、さっきの板チョコは、代金と引きかえで阿部君に渡して。

「水野って、料理得意なんだな」

「え? そうでもないよ」

「すごく料理のこと知ってたし」

「ううん、全然、あんなの普通だよ。それより、阿部君の方が、料理のこと、知らなすぎるわよ! そんなのじゃ、将来、苦労するよ! いまどき、男の子でも料理ぐらい出来ないと、もてないし」

 真面目な顔で説教しちゃう。

 まあ、実際、私の将来の旦那さまには、やっぱり時々手料理ぐらい振舞ってくれる人がいいし。

「ははは、まあ、頑張ってみるよ。そのうち」

「そのうちじゃないから!」

「でも、やっぱ、俺、結婚するなら、料理のうまい人がいいな。料理がうまくて、やさしくて、可愛くて・・・・・・」

 都合よすぎ! まったく、男の子ってヤツは!

「ふん! そんな子、いまどきいないわよ」

「えっ? そうか?」

 なぜだか、赤い顔で私をじっと見つめる。

「な、なに?」

「だって、今、俺の目の前に、そんな子いるし・・・・・・」


「あ、ねぇ、ちょっといい? しばらく、ここで、私の荷物見ててくれる?」

「え? ああ、いいけど・・・・・・?」

「すぐ、もどってくるから」

「ああ、ゆっくりしてくるといいよ」

 なにか勘違いしているみたい。外のトイレの方、指差している。

「ば、バカね。そんなんじゃ、ないわよ!」

 それから、私、カゴを持って、中の方へ引きかえしていった。

 お菓子売り場の方へ。

 パパの分も弟の分も、それから友達の女の子同士交換する分も、すでに買ってあるけど、私、一人分、追加しなくちゃいけないみたい。

 今年は、手作りチョコ作ろうかしら。料理上手の私だし。うふ。

 そういえば、ハートの型、押入れの隅にあったはず、出しておかなくちゃ。

 ちょっと、ウキウキした気分で、あれこれチョコのことを考えてる私。

 で、でも、念のため、言っておくけど、これはあくまで義理なんだからね!

 ほ、本当だよ!

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