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魔法使いに出会ったら

 去年の秋、高校を卒業してから、半年経った中学時代の同窓会の帰り道、俺と岡島はドブにはまって動けなくなっていた魔法使いを助けた。

 ドブにはまるなんて、マヌケな魔法使いだ。

 いや、そもそも本当に魔法使いなのか?

 いろいろ疑問はあったが、そいつが言うには、命の恩人である俺たちに、一年間だけ効力のある魔法をなんでもかけてくれるらしい。


 俺は考えた。

 さっきの同窓会で、久々に会った石沢は、すごく可愛くて、初恋の甘酸っぱい思い出で、俺の胸をいっぱいにした。

 中学時代も、その後の高校時代も、俺には恋人なんていなかったし、できなかった。ただ、周りの幸せそうなカップルたちを呪いの目でにらみつけるだけの6年間プラス半年。

 リア充なやつらなんて、爆発してしまえばいい!

 それが俺の口癖だった。

 だから、一瞬、俺は、憧れの石沢と恋人同士になる魔法をかけるように頼もうとした。

 でも、俺が口を開くよりも、岡島が願い事を言う方が早かった。

「寺森あすかとつきあいたい。俺の彼女にしてくれ!」

 寺森あすか。俺は石沢に夢中だったけど、中学時代の男子同級生の間で、石沢についで人気があった女生徒。そういえば、岡島は寺森派だったっけ。

 つい苦笑してしまう。岡島も似たことを考えていたのだ。

 そっか、寺森と一年間付き合いたいのか・・・・・・

 ん? 待てよ? 一年間付き合ったとして、その後はどうなる?

 また、元のもてない冴えない男に逆戻りするだけじゃ・・・・・・

 折角、寺森を手に入れても、一年後には振られて、惨めな気分ですごす羽目に。

 俺は、慌てて、石沢とのことを願うのをやめた。

 もっと、幸せが長続きするように、一年後には惨めな思いをしなくて済む、後悔しない選択をしなければ・・・・・・

 俺は、考えた。そして、願った。

「俺は、自分を、男を磨きたい! 自分磨きを楽しんでできるような魔法をかけてくれ!」


 その魔法使いは本物だったようだ。

 俺は、その翌日には、自ら進んで大学の応援団に入っていたし、先輩たちにいろいろと指導され、鍛えられるのが、厳しくつらいもののはずなのに、とても楽しかった。

 それまで、ぶよぶよと水ぶくれしていた不健康な暗い青年だった俺は、半年もしないうちに、筋肉隆々のガッチリした体格のハキハキとモノを言う応援団員になっていた。

 そして、大学の各サークル・部活が参加する大会に出かけていっては、一生懸命、大声で応援し続けた。

 そんな中で、俺にも、春が来た。

 応援団の俺のことをよく面倒みてくれる先輩の妹の鈴菜が、俺のことを気に入ってくれた。

 さすがに、石沢や寺森のような美人ではないが、というか、平均より器量では劣るが、なによりも大切なことは、俺のこと愛してくれているということだ。

 自分磨きに余念のない俺を心の底から愛してくれていて、あれこれ世話を焼いてくれる本当にいい女だった。

 俺は幸せだった。俺も鈴菜を愛していた。

 そして、また秋が来た。


 秋が来て、魔法は解けた。

 俺にとって、自分磨きは苦痛になった。

 でも、この一年間、一生懸命、自分を、男を磨いてきたのだ。俺にとってはその経験は財産だし、自信にもなる。

 そして、気づけば俺は今や、かつてあれほど敵視していたリア充そのものになっていた。

 初恋相手の石沢をものにできなかったが、鈴菜と一緒にいられて、十分に幸せだった。

 そんなときに、街でバッタリと岡島に出会った。

 もちろん、魔法が解けてしまっている今、寺森と岡島は付き合ってはいないらしい。それどころか、ここしばらく連絡も取り合っていないのだとか。

 そして、俺たちは、次の土曜日、どこかへ遊びにいくことにした。


 土曜日、俺は岡島と喫茶店で待ち合わせをしていた。

 時間ぴったりに、二人とも待ち合わせ場所に到着しており、コーヒーをすすりながら、お互いの近況について情報交換しあっていた。

――カランコロン

 喫茶店のドアが開く音がして、女が一人、俺たちのテーブルの方へ近寄ってくる。

 鈴菜だ。

「あっ、待った? ゴメンね。着ていく服選ぶのに手間取っちゃって」

 そう、俺は岡島に見せ付けるつもりで最初からいたのだ。

 寺森と付き合うなんて、しょうもない魔法を頼むから、今は捨てられて、惨めな目にあっているのだろう? 見ろよ、俺のこと。ちゃんと将来を見越して、この一年、自分磨き、男磨きに専念してたから、顔は悪くても、俺のことを愛してくれているこんないい女と付き合ってるんだぜ。いいだろ? うらやましいだろう?

 そんないじわるな気分で、岡島を眺めた。

 岡島のヤツ、目をパチクリとさせ、ジッと鈴菜のことを見ている。

 どうだ? うらやましいだろう?

 まさに、勝者にのみ許される愉悦、そんな気分だった。


――カランコロン

 また、喫茶店のドアが開き、女が一人、俺たちのテーブルへ。

「あっ、大輝、待った? 出かけようとしたら、ひとみから電話かかってきちゃって・・・・・・ ゴメンね」

 サングラスをかけて、甘い声で岡島に声をかける女。

 こ、この声は・・・・・・

「いや、全然、待ってないよ。俺たちも、今来たところだからさ。本当のこというと、俺たちの方が遅刻してて、佳奈をひとりで待たせてるんじゃないかって、ひやひやしてたよ」

「ふふ、相変わらず、大輝ってやさいいね、うふ」

 サングラスを取って、岡島の隣の席に腰掛けたのは、・・・・・・石沢だった。

 ど、どうして・・・・・・?

 俺が混乱している間に、岡島のヤツ、俺と鈴菜を石沢に紹介した。

「こんにちは、私、石沢佳奈っていいます。大輝のお友達ですね? これからもよろしくお願いしますね」

 って、石沢、完全に俺のことを覚えてなんかいないみたいで・・・・・・

「私と大輝って、中学時代同級生だったんですよ。その当時から、大輝って、すごく格好よくて、輝いていて・・・・・・」

 って、ウソつけ! 俺に対してと同じように、汚いものでも見るみたいに嫌っていたくせに!

 その後も、石沢、さんざん俺にのろけやがった。

 な、なんなのだ! 一体、どんなことがあって、こんなことになってしまったのだ!

 俺は、俺は・・・・・・


 その後、俺たち、4人は、岡島の車でドライブへ出かけた。

 途中、道の駅で、俺と岡島は連れ立ってトイレへ。

「おい、なんで、お前、石沢佳奈と・・・・・・」

「ああ、ちょっとな」

「ちょっとってなんだよ?」

「あの後、最初のひと月ぐらいは、俺、憧れのあすかを彼女にできて、スゲーうれしかったんだけどな、でも、しばらくして、そうでもなくなってきたんだ」

「・・・・・・」

「あすか、俺に会うたびに、『もっと私のこと大事にしてよ!』とか、『もっと格好よくなってよ!』 『男らしくなりなさいよ!』 なんて、うるさく言い出した。最初のうちは、あすかに夢中だったから、喜ばせたくて、言うとおりに頑張ったし、努力してたんだけど、そのうち、我慢できなくなってな、で、半年ほどで別れた」

 要するに、寺森は、岡島に、自分に釣り合うような立派な男になってほしかったのだろう。そして、岡島はその期待に応えようと、一生懸命努力したってことか・・・・・・

「で、それで、なんで、石沢なんだ?」

「うん、それが俺にも不思議なんだよ。あいつの方から寄って来たっていうか、俺、ただ普通にしてただけなんだが・・・・・・」

 俺は愕然とした。岡島の努力の結果が、石沢をもひきつけたとでもいうのだろうか?

 あのとき、あの選択は、間違っていたとでも?

 実際、今は石沢、岡島にぞっこんだし・・・・・・

 そ、そんなバカなことが・・・・・・!?

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