幸運の・・・・・・
私、藤田香茄。16歳。
こう書いて、『フジタカナ』って読むんだけど・・・・・・
子をつけて、フジ・タカ・ナ子・・・・・
富士・鷹・茄子・・・・・
一富士、二鷹、三なすび。
はぁ~ 私のパパは、ほんとつまらないことにこっちゃって。こんなヘンな名前イヤ! 私、もっと普通の名前の方がずっとよかった!
この名前のおかげのせいか、私、友達からヘンなあだ名つけられてる。
――藤田大明神。
なんでも、私に触ると幸福が訪れるとかで、試験の前に私に触ったからヤマがあたっただの、私に触れられたから告白がうまくいって彼氏ができただの、私が触ったから病気がなおっただの、いろいろと噂が広まっているんだよねぇ~
私に触ったぐらいで、本当に、幸福になるんだったら、とっくの昔に、私のパパもママもお金持ちになって、立派な豪邸に住んでるっていうの!
ほんと、人の噂ってあてにならないわ!
今朝も、駅で電車を待っていたら、幼馴染の女の子がやってきて、握手していった。今日は、懸賞の当選発表の日だから、私に触って、運気上昇させたいんだって。
電車の中では、友達のお兄さんと握手したし。今日は、自動車免許の試験をうけるとか。
学校へ来る途中では、同級生の男の子が、こないだのインフルエンザ治してくれてありがとうだなんて感謝されちゃたし・・・・・・
・・・・・・・!?
って、今気づいた! 昨日まで、私がインフルエンザで寝込んでたのは、彼のせいだったんだ!
なんか、腹立つぅ~!
なにが、幸福をもたらす藤田大明神よ!
私、家の外へ出ると、まるでアイドルか何かみたいに追いかけられ、握手攻めにあって腱鞘炎ぎみになっちゃうし、だれも触りたがらない病人に触らされたり、痴漢まがいの男たちにベタベタ触られたり、いやなことだらけ。
私が不幸なのに、私に触っただけで、みんなが幸せになれるなんて、絶対おかしい! なんか、不公平!
もう、こんなのヤだ!
はぁ~
思わず、学校の教室、机に頭を伏せて、ため息なんて、ついっちゃった。
「よぉ。藤田、いいか?」
またか。確か、この声は、同じクラスの二宮くん。で、二宮くんはな~に? 次の試験のヤマが当てたいの? なにか大きな病気を治したいの? それとも私に触って、彼女でも作るの?
私、机の上に顔を伏せたまま、黙って右手だけを声のした方へ伸ばしてあげた。
すぐに暖かい大きながっちりした手が、私の右手のひらを包み込んだ。
軽くシェイク。
さあ、もう私に触ったんだから、いいでしょ! 早く、あっちへいってよ! 私に構わないで!
私、右手を下ろして、机の角で軽くこすた。その様子を見てたら、二宮君、傷ついてるだろうなぁ~ でも、たぶん大丈夫。大抵の子、私に触ったら、とっとと私に背を向けて離れて行っちゃうし・・・・・・・
私は、幸運をもたらす道具。用が済んだら、ポイッ!
でも、次の瞬間、頭の上からためらいがちに・・・・・
「藤田、ちょっといいか?」
え!? 二宮くん、まだいたの?
思わず、顔を上げてしまった。その途端、その私の左の頬の辺り、暖かい大きなものが・・・・・・・
え! ええ!? な、なに?
予期しない出来事に私、目を白黒させ、目の前の二宮君を見上げていた。二宮君が私の頬を触っていた。
「な、な、なにしてるのよ!」
私、慌てて、二宮君の手を払い、にらみつけた。でも、二宮くん、にこにこして、
「お前、昨日まで病気だったし、さっきもため息ついていただろ? だから、お前に触ってもらった手で、お前を触ったら、お前にも、なにかいいことが起きるんじゃないかなって思って」
「えっ・・・・・・・・・」
なにもいえなくなった私。笑顔のまま、じゃぁなって、二宮くん、自分の席へもどっていっちゃった。私、その背中に口の中でつぶやいていた。
『ありがとう』
ちょっとだけ私の名前、好きになったかも。