サンタさん、お願い
春菜に彼氏ができた。同じクラスの鈴木君。
「今の時期、一人だと悲しくなるじゃん。だから、あいつでもいいかなって」
春菜はそう言って笑っていた。
実際、私の記憶にある限り、今までに春菜の口から鈴木君の話題がでてきたことはないし、鈴木君が春菜を好きだなんていう噂を耳にしたこともなかった。
おそらく、鈴木君に尋ねれば、春菜とそっくり同じ答えが返ってくるのだろうな。眼鏡をキラリと光らせながら。
どっちもどっち。
「晶も彼氏つくりなよ。晶って巨乳だし、男子の間じゃそこそこ人気あるから、その気になれば、すぐに彼氏とかできるのに」
「えっ? そんなことないよ。私、全然モテないし」
「またまた~ 青野なんか、晶にぞっこんじゃん!」
「えぇ~! そんなことないよぉ~!」
「そんなことあるの!」
春菜はそんな風に私をたきつけようとするけど、私、これだけは断言できる。これまでの人生で一度もモテたことなんてない。まして、青野なんて、私の顔を見るたびに『ブス』とか言ってくるムカツクヤツ。私のことが好きだなんて絶対にありえない!
けど、ついに春菜にも彼氏かぁ~
はぁ~ 私にも彼氏できないかなぁ~
あっ、もちろん、春菜みたいに適当に妥協するんじゃなくて、キチンと私のことを気に入ってくれていて、私も相手のことが好きでいられるような人。
そんな人、どこかにいないかなぁ~
って、いるわけないか。私、モテないし・・・・・・
ああ~ 今年も、私、クリスマスは、家族と一緒に過ごすんだろうなぁ~
「あ、そうだ、晶、今年もサンタさんに手紙を書くつもり?」
春菜がニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでくる。すこしだけムッとしたけど、そんな感情は巧妙に隠して、
「うん。書くよ。春菜は書かないの?」
「あたし? う~ん、どうしよっかなぁ~」
春菜は歌うように節をつけて、くるりと一回転してみせる。スカートがふわりと花のように広がる。
「今年は、あたし、彼氏持ちだから、あいつにおねだりしちゃおうかな」
「そうなんだぁ~ いいなぁ~」
「いいでしょう。ふふふ」
正直、鈴木君も今年は大変だねなんて同情しつつ、二人で声を出して笑いあった。
「ねっ? 今年はなにお願いするの?」
「う~ん、今、考えてるとこ。まだ決まってない」
「そうなんだぁ~」「うん。そうなんだ」
春菜には、そんなことを言ったけど、本当はもう私のお願いは決まっている。というか、毎年、私のお願いはただ一つだ。
けど、そのお願いを手紙に書いても、たぶん、サンタさんはかなえてくれそうにない。
だから、今年もサンタさんでもかなえることのできる全然別のお願いを手紙に書くことにしてる。本当は大して欲しくもない物をおねだりして、私の本当のお願いを隠すのだ。
サンタさん、お願い。先週の日曜日、お母さんと出かけたデパートで見つけたクリーム色のコートをくださいって。
私の本当の願いは心の中にしまっておく。
だって、彼氏が欲しいだなんて書いたら、サンタさん、きっと卒倒しちゃうかも。