魔女の呪い
人生って、残酷!
私は、小さい頃から、パパやママ、ジジやババたちに可愛い、可愛いっていわれて育ってきた。
でも、家族以外の友達ができ、外で一緒に遊ぶようになると、友達も友達の家族も、だれも私のことをカワイイなんていってくれない・・・・・・
私、5歳で、家族みんな、うそつきだと思ってた。ううん、違う。私が本当のことを知って、傷ついたりしないように、かわいいって、ウソついてくれていたんだと思う。
そんな優しい家族たちを悲しませたくなかったから、私、精一杯明るく振舞うことにした。
ひょうきんで楽しい子。
みんながそういってくれるように、みんなが私を好きになってくれるように、私は私を演じることに決めた。
小学校では、私、クラスのピエロだった。
いつも、冗談をいっては、みんなを笑わせ、わざと失敗をしては、みんなをあきれさせた。
みんなが私を笑って、楽しんでくれれば、きっと私を好きになってくれる。そう、信じてた。
でも、そんなの私じゃない!
本当の私は、そんなおバカさんじゃない!
本当は、みんなに笑われたりするのなんかより、クラスのアイドル由貴ちゃんみたいに、黙ってても、みんなに好かれるような、だれからもかわいいって言ってもらえるような、そんな女の子になりたかった。
だから、私、由貴ちゃんのこと、大嫌いだった。
学芸会の劇の配役を決めるとき、私は、真っ先に魔女の役に立候補した。だれもなり手がなかったから、すんなり私は魔女になった。
クラスの女の子全員が演じたいと思っていたお姫様に選ばれたのは、もちろん、あのクラスのアイドル由貴ちゃん。私は、お姫様をいじめる悪い魔女・・・・・・
劇の最後には、悪い魔女は退治されちゃうけど、由貴ちゃんを思う存分いじめられるって、すごく気持ちいい。
私は、劇の練習のときから、とても幸せだった。
私みたいな女の子が、みんなの憧れ由貴ちゃんをいじめるなんて、快感!
翌年も、その次の年も、私は、魔女だったり、意地悪な継母だったり・・・・・・
そのときどきのクラスのアイドルたちをイジメにイジメ抜いた。
すごく爽快な気分だった。楽しかったぁ。
5年生になっても、私は、まだ魔女だった。
その日も放課後の劇の練習で、クラスのアイドルすみれちゃんをイジメて楽しんでいた。
彼女は、ボロボロの衣装を着て、眼に涙を浮かべながら、私が命じた部屋の掃除をしていた。本当、私から見ても、可憐な美少女だった。私が男の子だったら、一目ぼれしちゃったかもしれない・・・・・・
でも、私に一目ぼれする男の子なんていない。そう思ったら、無性に腹が立ってきた。
練習が終わって、私が魔女の衣装を脱ごうとしていると、廊下側のドアから男の子がのぞいていた。
先週、転校してきた隣のクラスの川上君。
「なに見てるのよ! エッチ!」
「あ、ごめん。ホント、本物の魔女みたいだからさ、つい」
川上君は、頬をポリポリ掻きながら、照れたような表情を浮かべて、私を見ている。
「ねぇ、ホント、魔女みたいだねぇ。魔法とか使えそう」
からかってるつもりかしら。私、ちょっと怖い顔を作って、
「いいかげん、私の前から消えないと、スズメに変身する魔法をかけちゃうぞ!」
川上君は、あははと笑った。
「ねぇ、ねぇ、ためしに、ボクに魔法をかけてよ。犬なんかいいなぁ。スズメになって空を飛ぶのも楽しそうだけど」
ちょっとビックリした。同級生の男の子たちは、私のことをブス魔女ってあだ名つけたりして、バカにしてばっかりだったのに・・・・・・
「ねぇ、魔法かけて」
川上君は心から楽しそうにしている。からかっているわけではないみたいだ。
私、川上君に魔法をかけるフリをしてあげた。
「アブダカダブラ、犬になーれ」
もちろん、私の指先から、魔法の粒が飛び出すこともなかったし、川上君の足元からポンと煙が立つこともなかった。
でも、川上君は、両手を胸の前でそろえ、ワンワン吠えながら、私の周りを一周した。そして、私にバイバイっていう風に軽く手を振ってから、ワオンと一声鳴いて、隣の教室へもどっていった。
私も、それから、教室にいた他の子たちも、あっけにとられて川上君を見ていただけだった。そして、気がついて、私、クスッと笑ってしまった。
私、そのとき、頭の隅で考えていた。
もう、魔女を今までみたいに楽しめないかも知れない。来年からは、私、魔女にはならないし、なれない! って。
なぜって?
川上君が、私の魔女の呪いを解いていっちゃったから・・・・・・