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「--仕事が増えた」


 アクアがそう呟くと、前を歩いていたフェリルが振り返った。

 小さな農村を襲うゴブリンを退治したアクア達は、ペルキアに続く街道を歩いていた。道は荷馬車が通りやすいように整備されており歩きやすい。

 相変わらず、護衛の仕事をたまに受けては金がなくなるまで飲む、という生活していたアクアだったが、最近はガデス達の仕事を手伝うことが増えてきていた。彼らが依頼を受けに来ると、ゴードンが勝手にアクアを手伝いに出すのだ。おかげで自堕落に過す日は減りつつある。

 不本意なのだが断るわけにも--などと眉間に皺を寄せて独り言を言っていると、フェリルに聞こえたらしい。彼はアクアの隣に並ぶと、申し訳なさそうに謝ってきた。


「ごめんね、いつも付き合ってもらって」


「あ、いや。あのオヤジが強引だからな」


 世話焼き好きのゴードンは、最近はアクアを容赦なく叩き起こしてくるようになった。抗議をしたものの「自分の息子には、もう世話を焼いてやれないからな」としんみりと言われては、折れるしかなかった。もっとも、彼の息子は親離れしただけで、今は大型商船の船長として成功しているらしいが。

 紛らわしい言い方を思い出して眉間に皺を寄せていると、フェリルがじっと真顔で見つめてきた。心を覗き込むような翡翠色の瞳に嫌な既視感を覚え、アクアは警戒する。


「な、なんだ--?」


「--笑えばかわいいのに」


 いたずらめいた笑みを浮かべて言われ、アクアの頬が引きつる。元凶の方を振り返って睨みつけると、わざとらしく小首を傾げられた。


「--ぶん殴る!」


「うわ、怖っ」


 笑いながら逃げるガデスを怒りにまかせて全力で追いかけたアクアだったが、結局追いつけずに疲れただけだった。




 疲れ果てたところでヴァインにまで同じ事を言われ、膝から崩れ落ちたりはしたが、魔物に会うようなこともなくアクア達は町に着いた。

 日が落ちて、商店が並ぶ大通りは人通りが減っていたが、酒場や宿が並ぶ裏通りは返って賑いが増している。「陸の海鳥」亭も、今日はほぼ満席になっていた。珍しい事もあるものだと店主に声を掛けると、大規模な商隊の傭兵達が来たのだと教えてくれた。


「懐かしいな、あの雰囲気」


 養父と旅をしていた時を思い出す、とフェリルは微笑む。すっかり出来上がった傭兵達は、自分達が魔物や盗賊を倒した話で盛り上がっている。


「--この俺の大斧なら、サハギンだろうがサーペントだろうが一刀両断だぜ」


 自慢の大斧を掲げてみせる男に、連れの男が茶々を入れる。


「サーペントは言い過ぎだろ。"黒鉄の大斧"じゃあるまいし」


 茶々を入れた男はザックス=グレイブのファンらしい。オーガを投石で倒した、百のオークを一人でせき止めた、と有名な彼の武勇伝を熱っぽく語っている。いつものことらしく、大斧の男は適当に相槌を打っている。そこへ細身の男が近づくと、話に混ざろうと口を開いた。


「俺ぁよ、最近"黒鉄の大斧"と一緒に戦ったぜ」


 細身の男の言葉に、周囲の傭兵達が振り向く。ガデスやフェリルも近況が気になるようで、アクアに一言断ると話の輪に加わりにいった。細身の男は話し方を心得ているようで、自分が十分注目を集めるのを待ってから、ゆっくりと話し始めた。


「あれは、2週間前のことだ--」


 アクアが耳を傾けつつヴァインの様子をみると、彼も気にはなるらしく、ちらちらと輪の様子を窺っている。

 細身の男はもったいつけながら、騎士の亡霊が遺跡から出てさ迷っていたこと、それにはち合わせたこと、そこにザックス=グレイヴが通りがかって加勢してくれたことを話す。


「身の丈3メートルはありそうなソイツの攻撃を"黒鉄の大斧"は軽くいなすと、その自

慢の大斧でズバッと真っ二つに切り捨てた、ってぇ訳よ!」


 噂通りの武勇に男達が盛り上がる。折角なので、アクアは最近まで一緒だったというヴァインに真偽を聞いてることにした。


「今の話はともかく、噂はどこまで--」


「一刀両断っていえば、そんな事件があったよな」


 不意に耳に入った言葉に、アクアの体がびくりと震えた。


「ああ、強盗だろ?盾ごと衛兵を真っ二つって」


 その言葉をきっかけに、話題は"黒鉄の大斧"から移ったようだ。男達は口々に、自分が知っていることを話し始める。


「身の丈ほどの大剣を軽々振り回してたんだろ」


「鋼の鎧が紙みたいに斬れたってよ」


「どっかの町じゃ、警備についてた奴らが全滅したらしい」


 アクアは心臓が絞め上げられるような感覚を覚えた。喉が締め付けられたように、息が出来ない。

 視界が徐々に暗くなるに伴って、男達の会話がはっきりと聞き取れるようになる。逃げればよかったのに、などと話す男達に、ガデスが口を挟むのが聞こえる。


「そういえば、ユグドラシルでも施設が1つ襲われたな」


 ストーンゴーレムがバラバラになったのだと言う。あそこには、天候を操れる遺産があった。思いのままに天候を操れるという鏡が。


「白銀の兜と鎧を身につけた、白い法衣の男だって」


 白いから、浴びた血が鮮やかに映える。確かに人をころしたのだというあかしが。


「"血塗れの聖戦士"だろ?会ったら逃げろって大騒ぎになったよな」


 にげてくれれば、おわないのに、なんでむかってくるのか。


「結局、最後はどっかの凄腕冒険者が倒したって話だったな」


 たオシターータオサレタ。アノトキ、コロシテクレレバーー。


「……クア、アクア!」


「っ?!」


 急に腕を掴まれ、アクアは我に返った。気が付けば、ヴァインが心配そうに顔を覗き込んでいる。


「大丈夫ですか、顔が真っ青ですが……」


「え、あ、ああ」


 平静を装って、頷く。傍らのグラスを手にすると、手が震えているのが分かった。


「--悪い……少し、飲み過ぎた。もう寝るよ」


 そう言うと、ヴァインはもの言いたげだったが腕を放した。アクアは席を立つと話の輪から戻ってきたガデスとフェリルにも同様に告げ、自室に戻った。


(5に続く)

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