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 4人でオーク退治を果たした翌日、二度寝をして布団にくるまっていたアクアだったが、昼前にゴードンに叩き起こされた。部屋を掃除するので夕方まで帰って来るなというのだ。ならばと1階の食堂で待とうとしたが「太陽を浴びてこい」と宿を追い出され、アクアは仕方なく散歩をすることにした。

 昨日の朝ほどではないが痛む頭にうんざりしつつ、アクアは港に向かった。ペルキアの港は商船が多く停泊しており、今の時間も荷の積み下ろしが盛んに行われている。ぼんやり作業を見ていると、顔見知りの船員がアクアに気が付いた。


「よう、今日は仕事か?」


「いや。寝てたら、日光浴びてこいって追い出された」


 アクアの言葉に「お節介なアイツらしい」と船員は笑った。ゴードンは元船乗りで、船員の昔の同僚だったらしい。


「今度また、うちの護衛してくれや。力持ちなアンタがいると、積み荷の上げ下げが早く終わる」


「用心棒に積み下ろしさせるなよ。……まあ、その内な」


 そのままいると「手伝っていけ」と他の者から声をかけられそうなので、アクアは会話を切り上げて別の場所に行くことにした。

 海沿いの道には露店が立ち並び、新鮮な魚介類や異国の果物などが並ぶ。さらに先に進むと海を望む公園があるのだが、休息日以外に訪れる人は殆どおらず賑やかな通りからも離れているため、静かに過ごせる場所になっている。昼寝をするには最高の場所だ。しかし今日は珍しく先客がいた。

 海風を受けて、銀色の髪がそよいでいる。背を向けているので表情は分からないが、風に耳を傾けているように見える。声を掛けようか迷っていると、先客が振り返った。

 一瞬だけ、瞳がエメラルド色に見えた気がした。

 先客、ガデスはアクアに気が付くと、人懐っこそうな笑みを浮かべてアクアの薄茶色の目を覗き込んだ。


「よう、どうした?」


「あ、いや」


 彼の瞳は、変わらず海を思わせる青色だ。錯覚だったらしい。

 気を取り直して公園に来るまでの経緯を話すと昼食に誘われた。起きてから何も食べていないことに気が付いたアクアは、腹ごしらえをしてから昼寝をすることにした。




 港近くの食堂は、休憩中の船乗りで賑わっていた。すでに顔を真っ赤にしている者もいる。二人は外の席に座り、魚介とウィンナーが入った鉄鍋飯と羊の骨付き肉を頼んだ。


「天気が良いから潮風が気持ちいいな」


 外洋に出て行く船を眺めながらの食事は、何故かいつもよりも旨く感じる。誘いに乗ったものの何を話せばいいのか分からなかったが、ガデスが今まで行った土地の話をしてくれたので、話題が途切れることはなかった。


「随分、いろんな所に行ったんだな」


「付いてっただけだけどな。アクアは、ずっとここを拠点にしてるのか?」


「俺はーー」


 ペルキアに来る前の事を思い出し、一瞬言葉に詰まる。


「ーーここで商船の護衛とかをやっていた」


 アクアは意図的に「いつから」を言わずに答えた。ガデスは気にした様子もなく相づちを打ったが、唐突に真顔になると、アクアの顔をじっと見つめた。


「な、なんだ……?」


 青い目が、底の見えない海の様だ。まるで心を覗こうとしているようで、アクアは警戒する。しかし返ってきたのは、予想外の言葉だった。


「……アクアって、きっと笑えばかわいいよな」


「え……はぁッ?!」


 予想外すぎて、声が裏返った。ガデスは「かっこいい? いや、かわいいでいいよな」などと真顔のまま見つめ続けてくる。


「な、おま、なに言って--」


 どう反応していいのか分からず慌てる。その様をじっと見ていたガデスだったが、突然吹き出した。一度笑ったら止まらなくなったようで、体をくの字にして腹を抱える。


「ぷっ、くくくっ、そ、そんなに反応、してくれ、るとはっ、思わなっ、あっはははははは!」


 目に涙を浮かべて爆笑するガデスに、アクアは恥ずかしさと腹立ちと悔しさで耳まで赤くなった。


「--ッ、帰る!」


 ぎりぎりと歯ぎしりしながら立ち上がると、ガデスは慌てて袖を掴み引き留める。


「ごっ、ごめん、悪かった! 辛気くさい顔してるから、つい出来心で」


「……」


 じっと非難の目で見下ろすと、ガデスは手を合わせて謝ってきた。「お詫びに何でもするから」などと謝り倒されたアクアは、その日の夕食を奢って貰うことで許すことにした。


(4に続く)

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