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江戸一番といわれる医者を幾人も呼んだが、跡継ぎが息を吹き返すことはなかった。



男は跡継ぎの亡骸を前に立ち尽くすことしかできなかった。


力なく視線を落とした男は自分の手に幾筋か絡みつくものを見つけた。

よく見ると、それはまだ幼い、細くて短い髪。その髪は子供の持ち主を思わせた。


とたんに男を心臓の震えが襲った。


「は、初、初太郎は、池のどの辺りに沈んでいたんだね」


「松の木の下あたりでございます」


男は頭を巨大な槌で打たれた気がした。時といい場所といい、この髪といい、何で事実は昨夜の自分を思い起こさせるのか。


自分が沈めたのは土人形、確かに土人形だった。それなのに朝になれば同じ場所に跡継ぎが沈んでいる。


でも俺は初太郎を、跡継ぎを沈めてはいない。俺が沈めたのは土人形だ!男は心の中で叫んだ。








しばらくして番頭が女中を一人連れてきた。


「これが今朝、坊ちゃんを最初に見つけた女中でございます。さあ旦那様にお話しなさい」


番頭に促され、女中は涙ぐみながら口を開いた。


「今朝方、坊ちゃんを起こしに行ったらお部屋に見当たらなくて・・・・・・厠も探したのですがいらっしゃらなかったんです。それで、もしやと思って池を見に行ったらこんなことになっていて・・・・・・」


「え・・・・・・もしや池って?」


「坊ちゃんはお母様を亡くされてから、おっかさんの顔が見えると言ってお池のほうへ行きたがってらっしゃいました。

その度に危ないからとお止め申し上げていたのですが。もしかしたら昨夜もそれで行かれて・・・・・・足を滑らせてしまったのかも・・・・・・。

夜半とはいえ気付かず、大変申し訳ありませんでした」


男の心中では昨夜自分が沈めたのは土人形だった、いや跡継ぎだったかもしれない、そんなわけはないはずだ、という思いが渦巻いていた。


しかし、いずれにしても現に跡継ぎは死んでいる。


「謝って済むことか! 大切な大切な跡継ぎだったんだぞ。何のための女中だ! 大ばか者!」


「申し訳ありません!」


番頭はこらえきれず泣き崩れた女中を引きずるようにして下がっていった。女中はそのまま里へ帰された。








男は重い心を引きずり、自分の部屋に帰ろうとした。

とぼとぼと歩くその背中に視線を感じ男は振り返った。


「土人形!これはどういうことだ!なぜ跡継ぎを殺した!生き返らせろ!」


「ふん。我はあの子供の願いを叶えてやっただけ。それに殺したのは貴様だろう」


「なに・・・・・・!」


なおも言い募ろうとする男の前からすうっと土人形は消えていった。

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