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男は夜中、突然目が覚めた。激しい動悸がする。


水を飲もうと男は枕元に手を伸ばしたが水差しには水が入っていない。男は忌々しげに舌打ちし、月明かりでほのかに明るい廊下へ出た。


と、男の三間ほど先をとてとてと歩く小さな影がある。


「何者だ!」


やっと出した男の声に影は振り返り、にやりと笑った。男は凍りついた。



 影は何も言わず廊下を歩いていく。


「おい、土人形、どこに行くつもりだ」


 男は走った。土人形が足を速めたわけでもないのに土人形との距離は縮まらない。それでも男は土人形を追い続けた。


 土人形は中庭に降り、まっすぐ池を目指して歩いていく。


 中庭は月の光で青白かった。


 土人形が揺らめいた。


 土人形は足を一歩踏み出すたびにするすると大きくなって、池のふちに立ったときには三尺ほどの大きさにまでなっていた。


「どうしてお前は生きている。お前の噂が流れて店はがたつくわ、船も沈むわで、店を保つことすら難しくなっている。俺はこんなことは望んでいない」


 土人形は黙ったまま池の縁にしゃがみこんだ。


 男は目を血走らせた。


 土人形の首をつかみ、自分の肩が浸かりそうなほど深く水中に突っ込んだ。


「お前なんか消えてしまえ、池に溶けて消えてしまえ!」


 男は土人形が浮かんでこないよう、必死に押さえつけた。もうもうと上る土で濁った水の中で土人形がふっと笑みを浮かべた気がした。


 四半時も過ぎたであろうか、頭上の松がさわりと音を立てた。男は勝ち誇ったかのように胸を張り、それでいて臆病者のように部屋に逃げ帰った。









 翌朝、使用人達の走る音や叫び声で男は目を覚ました。


 廊下を「旦那様、坊ちゃんが!」という番頭の叫び声が走ってきた。何事かと障子を開けると番頭たちが口々に叫びはじめる。


「松の木の」「女中が」「お部屋に」「お池で」


 男ははっと袂を押さえた。袂はまったく濡れていない。なぜかほっとしている自分がいた。


「どうしたのだ。落ち着いて、落ち着いて詳しく・・・・・・簡潔に話しなさい」


「は、はい・・・・・・坊ちゃんが池に沈んでいるのが見つかったのでございます」


 男は目を見開いた。胸をずきりとした痛みが襲う。


「・・・・・・!」


「ただいま、医者を呼びに行かせております」


 男は初太郎の部屋に駆け込んだ。

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