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「今度は何を望む。我に何を叶えて欲しい。我が何でも叶えてやる」


珍しく自分から声をかけてきた人形神に、男は「何かが足りない。金も地位もあるはずなのに何かがむなしい」と答えた。


人形神はすっかり定位置となった神棚の上でフッと笑うと視線を男の背後に動かした。

その視線の先の表通りには若い男と美しい娘が仲良く並んで、楽しげに歩いていた。


「あの娘、なかなかの美人ではないか。あんな娘と道を歩けるとはあの男も社会的に一人前ということ。羨ましくないか?貴様には女の一人もいないではないか。あの男が羨ましいだろう。吉原一の太夫を囲うのもいいな。さあ、望みを言ってみろ。我が何でも叶えてやろう」


言われてみれば、自分には金も地位もあるが、妾はおろか妻がない。上級遊女を身請けするのはよほどの大尽でなければできない。



「人形神、俺は妻が欲しい。叶うなら昔愛していた女を。吉原の太夫はそれからだ」





数日もしないある日、男は、昔好きだった女が店の前をうろうろと歩き回っているのを見つけた。


「久しぶりだな。お前、どこぞの小金持ちと夫婦になったんだろう?」


「そうだったんだけど・・・・・・あの人新しい事業に手をだして失敗したのよ。それで首を吊ってしまって・・・・・・それに引きかえお前さまはこんなに立派に。お前さまの才能を見抜けなかったあたしがばかでした」



男は女の頬につたう涙をぬぐい、笑みを浮かべた。自分の能力が認められた気がしてとても嬉しかった。


女は借金取りに追われていたので、それを全て肩代わりしてやり、女と所帯を持った。





名実共に〝一人前〟になった男はその頃から吉原に通うようになった。




五千両を超える大金で身請けした高尾太夫を江戸郊外に建てた妾宅に住まわせ、男は得意になっていた。



しかし気になることがあった。何年たっても妻妾に子ができない。


男は不意に声をかけてきた人形神に跡継ぎを望んだ。



大して経たないうちに妻は身ごもり、翌年には玉のような男の子を出産した。


急に子ができたことを男は不気味にも思ったが、妻とすくすく育つ跡継ぎに囲まれ、華やかな生活を送っているうちに不気味さは消えていった。

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