#8
「そこで考えたのじゃが、兄上を一緒に連れていけばよいではないか!」
自室に戻り、オルドルと訓練から戻ってきたミコガミに一通り事情を説明した後、妾が考えついた案を発表する。
自分で言うのもなんだが、なかなかの名案だと思う。
「姫様はバカなのですか?」
「いや、バカだろ」
「姫様がバカじゃなかったら、世界中の他の奴もバカじゃないぜ」
三人が鼻で笑いつつ、妾をバカにする。
いつも大体こんな調子だが、真剣に考えた案を鼻で笑われるのは良い気分ではない。
「ダメなのか……?」
兄上について一番詳しいであろう彼の弟であるオルドルに尋ねてみる。
小さい頃からクロヌを見ていたせいで感覚が麻痺しているが、改めて見ると、オルドルもなかなかデカい。
そのため、上を向かないと視線が合わない。
「無理ですね。 兄はほとんど寝たきりですし……」
オルドルが俯き気味にそう答える。
俯いている原因の六割は妾とオルドルの身長差のせいなのだが。
「……サフィール」
「な、なんじゃ!?」
突然、クロヌに腕を掴まれた。
しかも、片腕ではなく両腕ともだ。
これはいわゆる羽交い締めという状態か……?
「オルドルの兄に会いに行こうだなんて考えるな。 会ったことがあるから分かるが、事情を説明したら、あの人は気を遣って同行してくれるだろうからな」
「むっ! なんで妾はあったこと無いのに、汝は会ったことがあるのじゃ!?」
ミコガミの家族には会ったことがあるし、無論、クロヌの家族とも面識があるのだが、オルドルの家族とだけは会ったことが無い。
写真を見たことは有るのだが、写真では人柄や能力までは図れない。
「そうだぜ! もし無理に連れて行って悪化したりしたらどうするんだ?」
ミコガミが珍しくまともな言葉を口にする。
「うぬぅ……。 そこまで言うのなら何か他の案を練ろうかのぅ……」
やむ終えないので、ひとまず折れる。
とりあえず――――
「クロヌ、そろそろ降ろしてはくれぬか……?」
―*―*―*―*―*―
部屋のドアが開く音が聞こえた。
今日はえらい帰りが早いなぁ。
「オルドル、もうお仕事終わったん?」
唯一の肉親である弟――オルドルに声をかける。
ベッドから降り、ドアの方へ行ってみる。
「…………あれ?」
誰もいない。
近くのドアが開いた音と勘違いしちゃったのかな……。
真面目に考えてみれば、オルドルがこんなに早い時間に帰って来られるはずがない。
もう一度寝ようかとも考えたが、今ので目が覚めてしまった。
あんまり長時間立ってるのは辛いから、本でも読んで待っていよう。
そう思い、ベッドの方へ向かって歩き出したところ、服の裾をくいくい引っ張られた。
リスとか子犬でも迷い込んできちゃったのかなぁ……?
「汝! リヤン・ヴェリテじゃな!」
何故僕の名前を知っているのかは分からないが、さっき服の裾を引っ張ってきたのはこの茶髪と青い瞳が印象的な小さな女の子だったらしい。
「こういう妹がいたらいいかもしれない」という犯罪と紙一重の発想を振り払い、女の子に話しかける。
「どうしたん? 迷子?」
「妾がここで迷子になるはずがなかろう。 汝がオルドルの兄か?」
小さい女の子が上目遣い気味に上から目線な口調で問いかけてきた。
子供はちょっと生意気なくらいが可愛いと思う。
「そうやけど……。 あっ、食べる?」
少女の問いかけに答えつつ、ポケットから飴を取り出し、差し出してみる。
すると、少女がコクコクと首を縦に振り、僕から飴を受け取る。
「えーと、僕に何か用があるん?」
「そうじゃ! ……別に本題を忘れていたわけでは無いのじゃ!!」
口の中で飴を転がしながら、少女が慌ててポケットからメモを取り出し、僕に突き出す。
どうやら、読め、ということらしい。
オルドルはいい子だから問題を起こしたりなんてしないだろうし、また女王からかな……?
あの人は、いつもいつも飽きずに誹謗中傷の手紙やら何やらを送りつけてくるし……。
僕達が追い出されないのは、オルドルが仕えている姫様がそれに抗ってくれているお陰らしい。
とりあえず、手紙のメモに一通り目を通す。
「え? これ本物?」
メモの内容に思わず目を疑う。
「もちろんじゃ!」
少女がグッと親指を立て、肯定する。
ただ、一つ気になるのは――――
「なんで姫様からなのに、オルドルじゃなくて君が持ってきたん?」
姫様からのメッセージであれば、どちらも知っているオルドルを通すのが一番確実だろう。
最悪でも、ある程度身分が高い使用人などが来そうなものだが、こんなちびっ子に預けるのはいささか危険だろう。
女王にバレないように渡すためのカモフラージュなのかもしれないが、こんな小さな子に持たせるというのも逆に怪しい。
「オルドルから、妾のことを聞いておらぬのか?」
少女が飴を転がしながら、キョトンとした表情を浮かべる。
「うーん……。 救いようの無いアホなちびっ子の話なら聞いたことがあるんやけど……」
僕がそう呟くと、少女の表情が固まった。
「奴は妾に対して、そんな認識であったのか……!!」




