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姫は勇者で魔法使い。  作者: 不忍唐傘
第一章 【姫と愉快な仲間たち】
3/26

#3

「……何があったんですか?」


扉を開けたオルドルの目に映ったのは、悲惨な部屋の状況だろう。


クロヌに異常は見られないが、ミコガミの方は満身創痍(まんしんそうい)疲労困憊(ひろうこんぱい)の様子でソファの上にうつ伏せに倒れている。

更に、妾はせっかく起き上がった布団の中で、毛布を被り震えている。


挙げ句の果てに――


「爆発系統の魔術を使わなかったのは有り難いのですが、カーペットに血が……」


カーペットには小範囲だが、不規則なまだら模様が染み着いていた。

無論、その血はミコガミのものだ。


「オルドル、覗き犯がいたから退治しておいたぞ」


クロヌが妾達の食事をワゴンに乗せて運んできたオルドルに向かって、挨拶をするかのように片手を上げてみせる。


そして、ミコガミは指先でさえほとんど動かない。

とはいえ、よく見ると背中がわずかに上下しているから、呼吸は出来ているようだし、見た目よりも軽傷なのだろう。


なかなかグロテスクな光景だが、いつもこんな調子だからか見慣れてしまって、あまり恐くはない。

ミコガミがちゃんと立ち上がってくることも分かっているし、クロヌが手加減したのもよく分かる。

本当に死んでいたら、妾は泣き叫びながら、扉の外へと駆け出しているはずだ。


「姫様はテーブルについていてください。 姫様のお世話は私が見ますので、クロヌも食事をとってきてください。 ミコガミ、生きてますか?」


オルドルに指示された通り、部屋の中央より右よりの位置にある1人で使うには明らかに大きいテーブルにつく。


父上は既に亡くなっているし、母上は妾のことをあまり好きではないらしい。

故に母上と共につく食卓では、お世辞にも食事を美味しいとは思えなかったのだ。


向こうも同じようなことを思っているようで、気づいた頃には、1人で食事をとるようになっていたのだ。


あの他人行儀な空気が苦手だっただけで、妾は母上のことが好きだ。

嫌え、と言われたとしても、そう簡単に人のことを嫌いになれる性分ではないのだ。


「生きてるけど、痛いから治して」


ソファの上でうつ伏せになっているミコガミがいつもと寸分違わぬ声の調子でそう言った。

なんたるタフネス。


「しょうがないですね……」


呆れた表情のオルドルがミコガミの背中に手をあてる。

すると、オルドルの手が当たっている部分を中心にして、円状にミコガミの傷が癒えていく。


傷が見当たらなくなると同時にオルドルが手を離す。

それを合図にミコガミがソファの上で寝返りをうち、仰向けになる。

そのまま目を閉じて二度寝を試みた瞬間に、オルドルがエルボードロップをミコガミの腹に打ち込んだ。


今のは目が覚めるというか永遠に目覚めることのない眠りにつけそうな威力に見えたのだが……。


「寝るのなら、自室でお願いします」


オルドルがミコガミに背を向けて、そう言い放った。

言い終わるや否や、妾の方へやってきて、ワゴンの上に載せられている朝食達をテーブルに並べていく。


やはり、此奴は何をするにしても要領と手際が良い。


「さっきのは痛かったぜ……。 あっ、このパン美味いんだよなぁ」


そう言って、いつの間にやら何事も無かったかのように立ち上がっていたミコガミが用意されたばかりの妾の朝食の一部であるオレンジブレッド手を伸ばす。

しかし、案の定、その手はオルドルに払われた。


「構わぬ。 少しくらい味見したとて、問題あるまい」


オレンジブレッドを半分にちぎって、片割れをミコガミへと手渡す。

もちろん、彼はそれを受け取ってくれた。


「サンキュー! やっぱり、美味いな」


満面の笑みで椅子を引きながら、オレンジブレッドをかじったミコガミがそう言った。

椅子に座るまでは我慢するべきなのだろうが、それが出来ないくらいに彼は落ち着きが無い。


まぁ、妾が言えることでは無いがな。


「ほれ、オルドルも座れ」


妾の隣の椅子をポンポンと軽く叩いて、オルドルを呼ぶ。


皇位継承候補者である妾と騎士団内ではかなり高い評価と実績を誇っているとはいえ、平民階級であるミコガミが同じ食卓に着いていいはずが無いのだが、「友人ならばいいだろう」という今思えば、短絡的極まりない考えの下、同じところに座らせている。

実際のところは妾が寂しいだけなのだが。


「失礼します」


初めてオルドルに「隣に座れ」と言った時は、ビックリするくらい全力で拒否されたのだが、素直に「寂しい」と伝えたところ、座ってくれるようになった。


やはり、見える位置と僅かながらも他の人の体温を感じる位置に親しい人がいてくれるというのはなかなか良いな。

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