#10
「嘘でしょ、いくらシャルロット様がサフィールちゃんのことを嫌ってても、宿泊費くらいは……」
「嘘だったら、俺もサフィールも野宿しなくて済むんだがな」
クロヌのため息混じりの言葉に、横からミコガミが「オレだって、暖かいベッドの方がいい」と同じくため息混じりに呟いた。
「岡崎要という少年が国のために必要だ」と言っておきながら、妾らにろくな予算も渡さない母上は何を考えてこうしたのかをしっかりと説明して欲しい。
妾と腹違いの者らを含めても、現在、後継者候補は女性しかいない。
今のところ、最年長で健康体である妾が第一王女、ということになっている。
兄上が失踪していなければ、男性は兄上一人のみ故、兄上が国のトップに立つことになっていただろう。
妾より四歳年上の彼は今頃、王となっているはずだったのだ。
ところが、兄上が失踪してしまったがために、女性でも国のトップに立つことが可能になってしまった。
やはり、知らない女が産んだ子供よりも自分の産んだ子供の方が可愛いのか、彼女は妾ではなく彼女の一番上の子供を王位につけたい、と考えているらしい。
「だが、野宿なんて今までしたこと無かったからのぅ。 楽しみじゃ」
「……ポジティブで何よりだ」
「うへへ、照れるのじゃー」
妾が頭をかきながら笑うと、クロヌが「皮肉っているんだ」と妾を小突く。
「当てが外れちゃったわ……。 しょうがないから、私は自費でホテルに泊まるけど、サフィールちゃん達はどうするの?」
残念そうな表情でニナルヴァ殿が妾らにもう一度問いかけた。
「妾らは野宿じゃ、と言っておるではないか。 安宿でも三人で何日も滞在すれば宿泊費がバカにならぬからの」
これは出発前から決めていたことで、宿代がかさんで大変な資金難に襲われることになるだろうから、ある程度開けつつも身を隠すことができる森があればキャンプだと割り切ってそこで野営をしようと決めていた。
森があれば、といいつつも野営する気しかなかったため、最初から森に向かっていたのだ。
「本当に野宿するつもりなの? なんならサフィールちゃんの分だけなら宿代出すわよ?」
クロヌとミコガミの安全に対してはあまり興味が無いらしいニナルヴァ殿が妾の手を握って心配そうに言った。
気持ちは嬉しいが、受け取ったところでその気持ちにそぐうものを返すことはきっとできないだろうし、なにより一度宿に泊まったら、怠惰な妾の性格からして「もう出たくない」と言い出してクロヌ達に迷惑をかけるのが目に見えている。
きっと、クロヌは引きずり出してくれるだろうが、彼の立場にたって考えてみると、毎回それを繰り返されたら面倒極まりない。
「妾の怠惰な性格故、宿にはなるべく泊まりたくないのじゃ。 故にクロヌ達と共に野宿をするのじゃ。 キャンプなのじゃ!」
妾がそういうと渋々といった様子でニナルヴァ殿は妾の手を離し、クロヌの方を向いた。
「キャンプって……あんたち日本に観光に来たの?」
「……サフィールが楽しそうなだけで、実際はただの不本意な野宿だ」
「あぁ……」
クロヌの答えを聞いたニナルヴァ殿がどこか残念そうな目で妾を見やる。
「とにかくリヤン殿が見つかったら連絡するのじゃ。 もちろん、そちらが見つけても連絡をよこして欲しいのじゃ」
「分かってるわ、何かあったらお互いすぐに連絡ね」
ニナルヴァ殿がこくりと頷きながら言った。
リヤン殿に関してはニナルヴァ殿が増えたお陰で少し楽になった気もするが、正直彼が【探索】のかからない位置にいる限り、一人捜索に加わったくらいでどうこうなるとは思えない。
――それでも、いないよりは一人でも多い方が発見の期待値は上がる。
「クロヌ、私の可愛いサフィールちゃんに傷をつけないでね」
「サフィールはお前のじゃないがな」
クロヌの言葉を肯定として捉えたニナルヴァ殿が手を振ってその場から【転移】していった。
案外あっさりと引き下がってくれたのはそろそろ眠くなってきた妾にとっては嬉しい誤算だ。
「ニナルヴァも帰ったし、歯磨いて寝ろ。 ミコガミは俺と3時間交代で見張りだ」
ミコガミはあからさまに嫌そうな表情をしながらも「はいはい」と相づちをうち、妾もクロヌに対して頷く。
―*―*―*―*―*―
「おはようございます、姫様」
クロヌよりも少し高い聞き慣れた声の主が妾の体を寝袋越しに揺らす。
それでもしぶとく寝袋にしがみつくと、寝袋のファスナーが開き、見慣れた執事の手が妾をそこから引きずりだした。
なんだか糸を剥ぎ取られた蚕みたいな気分だ。
「お目覚めになりましたか?」
「うむ……」
カーディガンがずれて露出している肩の辺りに触れる風が冷たい。
春とはいえ、朝夕はまだまだ肌寒い。
「三人揃ってぐっすり眠ってしまって……。 不用心すぎますよ」
そう言いながら妾の髪をとかす彼の話を聞きながら、ずれたカーディガンを肩にかけ直す。
「……ひゅっ!? 何故、汝が此処におるのじゃ!?」
そこにはエキャルラット王国においてきたはずの妾の執事、オルドルがいた。
笑うと優しげに垂れた目尻が兄であるリヤン殿にそっくりだ。
「ひとまず、部屋でおとなしくしていたのですが、どうしても心配で……」
「オルドル……」
彼とリヤン殿が一緒にいるところはあまり見たことはないのだが、それでも見たことのある少しやオルドルのいつもの態度から彼の兄への溺愛っぷりはよく分かっている。
クロヌから「ホモなのか?」と聞かれた時には、しれっとした表情で「そうかもしれませんね」と返していたため、兄として好きなのかそれとも一人の男性として好きなのかは謎だが、できれば前者であって欲しい。
「あぁ、もちろん、兄さんが心配だから来たんですよ? 姫様達はついでです」
優しげな笑みを浮かべて、優しいとは言い難い言葉を放ったオルドルが妾にタッパーを差し出した。
「む? 開けてよいのか?」
「どうぞ。 あの二人のことですから、昨日はレトルトとジャンクフードだったのでしょう?」
タッパーの蓋を開けると、中には堅そうなバケットで具材をはさんだサンドイッチが二つ入っていた。
片方はローストビーフ、もう片方はツナがメインなようで、どちらも甲乙つけがたいほど美味しそうだ。
「野菜も入っていますから、ちゃんと食べてくださいね」
オルドルが妾と同じように抵抗しているミコガミを引っ張りながら言った。
ミコガミは妾と違い力が強いため、なかなか引きずり出すのが大変なようだ。
イラストはもうフラグ踏みぬきまくりですね(;ω;)
きっと上げられても線がったがたのラフ画になると思われ(´・ω・`)




