#2
「確かにサフィールがジャンプしたところでどうこうなる高さではないな」
妾のすぐ横から、ミコガミでもオルドルでもない別の男性の声が聞こえた。
此奴はかなり昔から妾のボディガードをしてくれている故、横を向くまでもなく、声で判断出来る。
勿論、ミコガミやオルドルの声も判断できるが、此奴に関しては、例え声を変えてきても分かる自信がある。
「クロヌか。 あそこに覗き犯がおるのじゃが」
既に彼も気付いているようだが、一応、ミコガミを摘発しておく。
それを聞いた直後、右側のもみあげ部分につけられた透き通った赤色の宝石のような飾りが特徴的な銀髪、それと同じく綺麗な銀色の目の青年――妾のボディガードであるクロヌ・リールが背中に背負った大剣を引き抜き、両手で構える。
クロヌが愛用しているこの大剣は彼の背丈よりも20センチほど短いらしい。
確か、クロヌの身長が185センチちょっとだったから、165センチ程度と言ったところだろうか。
妾と比較すると、妾よりも25センチ近く高い。
自分が、同年代の女子より身長が低いことは承知していたが、クロヌが背負っている剣より小さいというのは少しばかりショックだ。
大きさに比例して、質量も大きく、以前触らせてもらった時には、持ち上げるどころか、その場から動かすことさえ出来なかった。
その後、足の方が力が強いと聞き、試しに蹴ってみたところ、その場からほんの数センチだけ動かすことが出来たが、かわりに妾の足に骨折したかと思うくらいの衝撃が走ったのは今でもトラウマだ。
実のところ、ヒビが入ってしまっていたらしいのだが、オルドルに頼んだら治癒魔法を使って治してくれたため、大事には至らなかった。
その代償としに、オルドルが母上に事の次第を伝えてしまい、物凄い怒られたことはあの痛みの数段上をいくトラウマである。
「……このまま魔術使ったり、刺したりしたらミコガミが死ぬよな」
大剣を構えたまま、クロヌがそう呟いた。
どうやら、「いくら覗きをしたとはいえ、ミコガミに自分の攻撃系魔術が直撃したら危険」と考え直したらしい。
「あぁ、多分死ぬぜ」
同じく直撃したら危ないと察したらしい、ミコガミがそう返した。
さっきまで余裕綽々だったミコガミの表情がひきつっている。
彼らが訓練等で攻撃力の高い魔術を使っているところは幾度となく見たことがあるが、クロヌの攻撃系魔術はそんなに威力が強いものなのか……。
「サフィール」
「何じゃ?」
クロヌに名を呼ばれたため、クロヌの方を見る。
「もうすぐオルドルが来るから、布団の中で着替えろ」
クロヌが、さっきミコガミが現れた際に妾が反射的に投げてしまった薄青色のワンピースをこちらによこし、妾の下着姿が見えないように妾に背を向ける。
ミコガミとはえらい違い……と言いたいところだが、此奴も妾の下着姿を見ていたし……。
クロヌの方は小さい時から側にいたせいか、異性といっても兄という感じが強く、抵抗もそんなに無い。
まぁ、少しは恥ずかしいという気持ちもあるのだがな。