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姫は勇者で魔法使い。  作者: 不忍唐傘
第一章 【姫と愉快な仲間たち】
14/26

#14

「何度言ったら分かるんですか? 兄を連れて行くことは出来ません」

「じゃあ、どうして連れてきたし」


オルドルの相変わらずな返答にミコガミが全員の疑問を代表して質問した。

妾もてっきり「連れて行くから挨拶がてらに」という理由で連れてきたのかと思っていたのだが……。


「ほら、兄さん」

「わ、分かってるってば」


オルドルに促されてリヤン殿が妾の前に歩み出る。


「僕は、昔、国立の研究施設で研究員として働いていたん……ですが、そこで事故に遭ってしまった時に、内臓をいくつかダメにしてしまっていて、医者にあまり動いてはいけない、と言われているん……です」


リヤン殿がいつもの地方訛りを抑えて、慣れない敬語でそう言った。

隣のオルドルが心配が二割程度だけ含まれた熱い視線を送り続けているのがすごく気になるが、きっと、そこには触れてはいけないのだろう。


「しかし、汝に来てもらわないとオルドルも来れないのじゃ……」


一番の問題点はここだ。

介護が必要なリヤン殿を置いて、オルドルを遠い異国の地に連れて行くわけにはいかない。

他に家族や親戚がいれば、その人に預ける、という手段も選択できたのだが、お互いが唯一の肉親であるオルドル達にそんな選択肢は存在しないのだ。


「みゅっ、みゅっ!」


シリアスな空気を壊しにかかってくる小竜の愛らしい鳴き声が時折聞こえてくるのが気になるのだが、クロヌは此奴をしまう気は無いのだろうか。


「こっちに来い」


妾がそう思っているのを知ってか知らずか、クロヌが小竜を呼び寄せ、何か指示をしている。

時折、小さく頷く小竜が非常に可愛らしい。


「みゅーっ!!」


クロヌから指示を受けた小竜が、行動を開始する。

小竜は一直線にオルドルの方に飛んでいき、あろうことか火を吹いた。


「何をするんですか!」


突然の攻撃をとっさに発動させた結界で防いだオルドルが、クロヌに抗議する。


「回りくどい。 結論を言え」


クロヌがオルドルにそう告げる。

何もあんな火力の高い魔術を使わずとも、軽く小突いてから言っても、同等の効果はあったのではないかと思う。


「私は同行できません」


遠回しに言うのを諦めたオルドルが、率直に結論だけを言う。

とりあえず納得したらしいクロヌが小竜をしまい、妾に目配せをする。

結論を下せ、と言いたいらしい。


「うむ……」


妾の護衛はクロヌとミコガミがいるから、最低限は大丈夫だろう。

身の回りの家事などは、クロヌもミコガミも出来るし、洗濯機や掃除機の使い方くらいは妾にも分かる。


「分かった、有給休暇扱いにしても構わぬか?」


妾の安全も大事には大事だが、妾にはクロヌとミコガミがいる。

それに、頼めば護衛はもっとつけることが可能だ。


しかし、リヤン殿を介護してあげられるのは、オルドルしかいない。


「はい、大丈夫です」


オルドルが顔を輝かせて、コクコクと何度も頷く。

対するリヤン殿はあんまり嬉しくないようで、もともと垂れている目尻が心配そうに更に垂れ下がる。


実はオルドルの行き過ぎたコミュニケーションをうざったい、と思っていたりするのだろうか。


―*―*―*―*―*―


『パパー、お出かけするの?』


紫色のくせの強い髪、ぱっちりと大きい髪と同じ色の瞳、小さめな背丈や童顔の影響でだいぶ幼く見える少年が、50センチ近くありそうな大きな茶色い熊のぬいぐるみが抱えているホワイトボードに丸っこい字を書いた。


「あぁ、お前も行くんだぞ」


少年に「パパ」と呼ばれた人物は10歳の子供がいるようには見えない若さで、黒髪に黒目とそこは一般的な日本人と大差はない。


ただ、さすがは先のぬいぐるみを持った少年の親というだけあって、顔立ちは大きめの目や薄い桃色の唇が少し幼げに見せているものの、かなり整っている。

本人は年の割に童顔なのを気にしているようだが、ぬいぐるみを持った少年の方は、自分の父親にはこのまま変わらないままでいて欲しい、と思い続けている。


瑠果(るか)ちゃんと(すなお)ちゃんも一緒?』


ぬいぐるみを持った少年がホワイトボードに文字を書く度に、小さくキュッキュッという小気味のいい音が部屋に響く。

実はこのぬいぐるみを持った少年は生まれつき口が効けず、このようにいつも筆談でコミュニケーションを取っている。

だから、今は亡き彼の母親と今も彼のすぐ近くにいる父親が彼の誕生日にくれたホワイトボードを茶色い熊のぬいぐるみを常に持ち歩いているのだ。


熊のぬいぐるみを持ち歩いている理由は、口が効けないということ以外にも理由があるのだが。


「あぁ。 二人も一緒だよ」


熊のぬいぐるみをギュッと抱きしめている少年の頭を優しく撫でながら、優しげな笑みを浮かべてそう言った。

更に「久しぶりに家族旅行に行きたいな、と思って」と続けた。


『いつ行くの?』


父親に撫でられたのがよほど嬉しかったのか、顔を綻ばせながら、そう書いた。


「明日」


少年の父親の言葉に、少年がひどく驚いた表情で口をパクパクさせている。


「ちょっと急がないといけないんだ。 だから、早く準備しような」

『うん!』


父親の言い分に納得したらしい少年が、笑顔でホワイトボードに肯定の意を示す言葉を書き込む。


「じゃあ、一緒に荷物まとめようか。 ――――(かなめ)

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