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第三十五話   部室 発想の転換


 待ち合わせの場所に行くと、柚希は携帯電話でだれかと話していた。

 碧が近づくと、柚希は気がついて駆け寄ってきた。

「ちょっと待って。いま、碧さんがここに着いたから。碧さん、亜衣から電話なんですけど、ちょっと代わって話してもらえますか」

 柚希に携帯を渡されて、戸惑いながらも、慣れない携帯に耳に押し当てた。

「亜衣ちゃん?」

『碧先輩、すいません。昨日か今朝、うちのブログ見てもらえました?』

「ごめん。見てない。この間名画協力の記事、載せてくれたときに見ただけなの」

『やっぱり。いえ、ちゃんと見てくれとかじゃなくて、あの記事を読んだひとがコメント残していってくれてるんですけど、今日の撮影に行きますってコメントが三十くらいあるんです』

「三十?」

 碧は声がひっくり返りそうになった。柚希に視線を合わせた。柚希も戸惑った顔をしている。

『柚希に訊いたら、写すのはなんとかブルーって色だけだっていうし、わたし名画のことは、よくわからないんですけど、同じ色の写真が六十枚とか、まずくないですか?』

「六十枚? なんで六十枚なの? コメントは三十なんでしょ」

『コメントのほとんどが『友達と行きます』とか『家族みんなで行きます』って書いてるんですよ。コメント書いた人がみんな来るかどうかはわからないんですけど……』

「あ、そっか。嬉しいけど困るね。たぶん、フェルメールブルーだけ余っちゃうな。撮影させてもらってその写真使わなかったら、問題になるだろうし。わかった。ありがとう、亜衣ちゃん。佐々木くんと連絡取ってみる」

『はい。お願いします。じゃあ』

 碧は柚希に携帯を返した。

「佐々木さんの携帯番号、入ってるんですか?」

「うん。赤外線で登録したから。出るかなあ」

 自分の携帯を開き、アドレスから佐々木の電話番号を呼び出して、コールする。三回目で佐々木の声が対応した。

『碧ちゃん?』

「佐々木くん、よかった、捕まって」

 碧が事情を話すと、佐々木は驚いたり喜んだり慌てたり、忙しい反応をした。

『今日の三時から五時なんだな。俺も部室にいくわ。で、お前ら、いまドコにいんの?』

「駅前。瀬戸さんが、碧いターバンに光が当たってるとこ、水色みたいに白っぽいっていうから、薄い色の色画用紙、いまから買うとこ」

『すげー。超ナイス。じゃあ、肌色の色画用紙もついでに頼む』

「色画用紙はいいけど、ストールの肌色とか、たぶんないよ」

『ストールとかじゃなくていい。タオルか布なら手に入んねえ? 肌色じゃなくても、薄い茶色でもいけるし』

「わかった。たぶん見つかると思う」

 電話を切って、鞄に入れた。

「亜衣ちゃんのブログって、すごいんだね」

「私もあれから見てなくて、びっくりしました」

「とにかく、急いで買い物すませて大学いこ」

 碧と柚希は、画材店を目指して足早に歩いた。


 大学に着いたのは、二時前だった。

 写真部の部室は壁に多くの写真を飾ってあるので、大きな画用紙を貼る場所の余裕はなかった。先日、貼りつけたフェルメールブルーの画用紙がまだ残っているので、これ以上の場所は残っていない。

「早めに来たけど、準備もできないね。佐々木くんが来るまで、なんか飲んで待ってよ」

「じゃあ、部室のコーヒーもらいましょうか」

「うん。そうだね」

 碧はポットの水を入れ替えて、コンセントを差し込んだ。その間に、柚希がマグカップにコーヒーを入れている。

「碧さん、お砂糖いくつですか?」

「二つ。そういえば瀬戸さんは?」

「私も二つです」

「そうなんだ。案外、甘党なんだね」

 先日の電話で、ぎこちなさが払拭されていた。さくらのおかげといえなくもない。

 初夏に切った柚希の髪は、また少し伸びてきた。近づくと香る柑橘系のコロンの匂いにも、最近は慣れてきた。

 いまでも会うたび、緊張したり穏やかでいられたり、碧の気分は安定しないけど、柚希のそばは居心地がいい。

(宇宙人……には見えないよね)

 亜衣の言葉はたとえなんだから、気にするようなことではないのだろうけど、宇宙人に匹敵するほどの秘密が、柚希にはまだ、あるのだろうか。

「碧さん、この間、もしも願いが叶うなら、男になりたいっていってましたよね」

「え? ああ、うん」

「そうなんですか?」

「うーん、あのときは急に話を振られて、他に思いつかなかった、ってのもあったんだけど……」

 男になってみたいと思い始めたのは、柚希に気持ちを傾けてからだ。男になりたいと積極的に願っているわけではないけど、女に生まれてきたのは少し悔しかった。

 結局自分は、恋愛は男女間でするものだという、漫然としたこだわりを、捨てきれないのかもしれない。

「あたし、同性相手にこんな気持ちになったことないし、よくわからないの。瀬戸さんに触られたり、キスされると変になるし、気持ちよくなるんだけど、それが性欲みたいなものかどうかの判断ができないんだ」

「そうですね…」

 柚希は考え込むように俯いた。

 ポットのお湯が沸いたので、カップに注いで柚希に差し出した。指が触れ合って、碧は一瞬、緊張した。そして、本当はもっとちゃんと、手を繋いでみたいとも思った。

「正直、気持ちが定まらない。女同士でよかったって思うときもあるし。キスの続きがわからないから、好きなのかもって考えたりもするの。でももしあたしが男だったら、瀬戸さんのこと、いまよりもっと好きになってた気もするし。…なんかごめん。だんだん、なにいってるのかわかんなくなってきた」

「いえ……」

「瀬戸さんはいままで、どっちとつきあうことが多かったの?」

「私は、碧さんが初めてですよ」

 柚希の言葉を、碧は信じることができなかった。柚希のような華やかなひとが、だれとも交流を持たなかったとは考えられなかった。気を遣ってくれているのだろうけど、過去のことにまで、焼きもちを妬くつもりはなかった。

 亜衣のことも、衝撃的な事実を告げられたけど、いまの二人に感情がないなら、もう気にはならなかった。

「碧さん、私は最近、ひとが生まれてきたことには、それぞれ理由があるような気がするんです。性別も、理由があってその性別で生まれてくる必要があったんじゃないかって……」

「だとしたら、瀬戸さんにはこの先、運命の男のひとが現れちゃうね」

 ぬるくなったコーヒーに口をつけて、マグカップの模様を指先でなぞった。結局、考えを進めると、柚希への恋情には先がない。

 柚希がもし、同性愛者だといってくれれば、自分にとっては有難いが、そうした発言がないのは、亜衣との経験があるとしても、本来は異性に向かう感情が強いのかもしれない。

「発想の転換をしてみる気にはなりませんか?」

「発想の転換?」

「碧さんは、もし自分が男だったらって考えるけど、逆に私の方が男だったらって考えてみたことはないんですか?」

「へ?」

 あまりに意外なことをいわれて、碧はきょとんとした。

 考えてみたこともなかった。柚希ほど女らしいひとを、碧は他に知らない。理想の女性とはこういうひとのことなんだと、見本のようなそんな存在だった。

「考えられない。想像できない。あり得ない」

「…………そうですか」

 柚希は大きく息をつくと、肩を落とした。






ここで小説を投稿している他の方が、どんなふうにしているのかわかりませんが、私はだいたい、十話くらい先を書いてる状態で投稿します。後から書いた話の状況で、前に書いた話を書き換えないといけないことが多いからです。実は、十話というのは少なすぎで、いろいろ困ることもあります~。辻褄合わせとか、辻褄合わせとか、辻褄合わせとか……。なにしろ、その場の思い付きで書いてしまう体質なので…。で、いま四十五話まで書き終わっているかというと、四十三話でございます。というわけで、明日はお休みです(笑) 最終話は、結局何話なんだろう……?

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