第十八話 待ち合わせ 松浦さんって、ホモなんですか?
待ち合わせの場所に、松浦はすでに来ていた。
「こんにちは………」
硬い表情で頭を下げる柚希に、松浦は吹き出した。
「そんなに警戒しないでほしいな。俺のこと、信用できない?」
「松浦さんのことは信用してます」
「じゃあ、なんでそんな顔してんの? 俺が男だから?」
訊かれて柚希は、はっとした。
確かにそうかもしれない。松浦がおかしな告白をしてこなければ、信用していたし、緊張することもなかった。男女の関係を意識しなければ、いまでも松浦のことは信用できる。男の立場をにおわす態度に、柚希は不快感を覚えているのだ。
「そんなに男嫌いになった原因は、なんなの? 父親による家庭内暴力とか?」
「私は私生児なんで、父親を知らないんです」
「………………」
「自分の存在を知りもしないひとを、許せないのかな」
こんなことを考えたのは、初めてだった。柚希は自分が男嫌いだと思ったこともなかった。
けれど、否定する気になれなかった。長い間迷っていた迷路で、出口が見つかったような気分だった。
子どもができるようなことをしておいて、赤の他人でいる男の無責任さが許せない。そのひとと同じ男だから、自分のことも好きになれない。正しい答えに行き着いた気がした。
「カラオケ行かない?」
「なんで、カラオケなんですか?」
「ちょっと込み入った話がしたいし、喫茶店よりマシかなって思って」
「……わかりました。行きましょう」
松浦は告白の話をするつもりなのだ。柚希もそのつもりで来た。
人目のないところに行こうとしているのは、柚希の性別にかかわる話もあるから、その配慮だろう。
「松浦さん、一つ訊きたいことがあるんですけど」
「なに?」
「松浦さんって、ホモなんですか?」
率直すぎる質問に、松浦は一瞬驚いて固まったかと思うと、笑い転げた。
「いや、普通だよ。なんていうのかな。ストレート? ノンケ?」
まだおかしさが止まらないのか、クスクス肩を震わせながら逆に質問してくる。
「俺がホモかと訊くってことは、柚希ちゃんは現在、性別は男なわけ?」
「役にも立たないものが、まだ、ぶら下がってますよ」
今度こそ本当に窒息しそうな勢いで、松浦は笑った。なにがそんなにおもしろいのか、柚希は不思議だった。質問に答えただけなのに。
「柚希ちゃん、きみさ、自分で思ってるよりずっと男らしいよ」
柚希は心底嫌そうな顔で眉根を寄せた。