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恋を感じるとき  作者: 柏木杏花
柚希
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第十四話   帰り道 好きなひとには好かれたいよ


「碧さん、怒ってます?」

「瀬戸さんには怒ってない」

 ならば、松浦には怒っているのだ。

 顔をしかめてどんどん歩いていく碧に、柚希は引っかかるものを感じた。いままで、碧が自分に向けてくれていた気持ちを、勝手に好意と思い込んできたが、いまの碧の態度に疑念が沸き起こる。

 好意の先にいるのは、松浦ではないだろうか。

 もしそうなら、いままでの碧の言動はどういう解釈になるのだろう。恋敵を知りたくて探りを入れていた……と解釈しても不自然ではない気がする。いま思えば、最初に部室で会った日、碧はそれらしいことをいっていた。確か、『口説く突破口を探ってるんじゃないですか?』だった。あのときから、碧はこうなることを予感していたとしたら、符号が合う。

 なんだか一気に落ち込みそうだ。

「あの、松浦さん、あんなこといってましたけど、なにか違うと思いますよ」

 自分でいって、さらに気分が沈んだ。松浦と碧がまとまるようなことにでもなれば、こんな落ち込みでは収まらないのに。

 けれど、松浦の唐突な告白はやはり解せない。

 なにか他に目的があるのか、自分に興味があるとしても、生のニューハーフが珍しいとか、そんな理由に違いない。

「碧さん、もしかして、松浦さんのこと、好きだったりします?」

 碧は立ち止まって振り返った。キャンパスを歩く学生は、少なくなってきていた。

「そんな風に見える?」

「さあ………?」

「副部長って、一見、親切そうだし温厚な感じじゃない。でもどっか浮世離れしてるっていうか、飄々としてなに考えてるかわかんないとこあると思わない?」

「はあ」

 質問に答えてもらってないけど、しつこく追及するのも躊躇われて押し黙る。

「男は単純なひとがいいよね」

 単純なひとがいい。松浦はなにを考えているかわからない。ならば碧は、松浦を好きではないのだろうか。単純なひとがいい、とは、単純なひとが好き、とは違うのか判断が難しい。

「最近、女に生まれてきたことが残念だって思ってる」

 紙袋を握りしめて、碧は柚希と視線を合わせた。

「好きなひとには好かれたいよ。でも努力してもどうにもできないことは、諦めなきゃいけないの?」

 まるで、自分の心の中を指摘されたように思えて、胸を絞られた。

 碧の言葉はときどき難しくなる。いろんな言葉が抜け落ちているからだ。言葉が足りないのは、興奮しているか、混乱しているせいだ。そしてそんなときは柚希も動揺しているから、余計に会話が交わらない。

「わからないけど、そうかもしれません……」

 柚希の気持ちが先に進めないのは、最終的に諦めるしかないからだ。認めるのが怖くて、考えないようにしてきた。

「瀬戸さんだったら、どんな希望も叶えられそうだね。あたしみたいに、諦めることなんて、なにもないんだろうな」

「そんなこと、ないです……」

 柚希の声は、消え入りそうにかすれた。







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