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恋を感じるとき  作者: 柏木杏花
柚希
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第十二話   大学 カタツムリの写真


 それからしばらくは、大学とマンションを往復する日が続いた。

 長袖が半袖になって、湿度の高い空気は肌にまとわりつくように不快だった。空が厚い雲に覆われる季節になっていた。

 会えない時間は寂しかった。

 いま何をしているのだろうと、何度も思う。

 キャンパスや学食に行けば、碧の姿を探してしまう。

 ときどき見かけると、落ち着かない気分になる。

 男友達と話す懇意な様子に、イライラして、詮索してしまいそうになる。

 会うきっかけを掴めずにいると、碧からメールが来るようになった。内容は以前同様、特別なものではなく、そのときのささやかな出来事や、心情を短い文章にしたものだったが、自分に向けて発信してくれたことが嬉しかった。

 自分が会いたいと思っているときは、碧も同じことを考えてくれているのかと思うほど、メールの来るタイミングが重なった。都合のいい思い込みかと思っていたけど、その解釈が、それほど的外れではないと思ったのは、五、六回、メールのやり取りを繰り返した頃だった。

『前に送ってくれた添付写真の小説、読んでみたよ。難しそうなタイトルだったけど、読みやすかった。あの作者の本で、他に面白いのある?』

 メールを読んで、一緒に帰った夕暮れの坂道を思い起こした。

 あのとき碧は、途中で書店に寄った。あの小説は、そこで購入したのかもしれない。本を読んでいる間、自分に気持ちを向けてくれていたのではないだろうか。

 そんな風に思えてしかたがなかった。

 興味のないタイトルの、知らない作家の小説を普通、手に取らない。時間を費やして読み切ったのは、柚希の思考に近づくためだったと考えても無理がない。

 どんどん好きになっていく。どういう形にしたいかまだわからないのに、好きな気持ちだけが膨らんでいく。

 会いたいとメールで伝えれば、きっと碧は会ってくれる。けれど、なぜ会いたいかと問われれば、好きだから会いたいとはいえない立場である。

 それに、もし自分が情愛を望めば、応じてしまいそうな碧の気配が怖かった。

『あの作家は、当りはずれが大きいんですよ。面白かったのを貸しましょうか?』

 浮かれて書いたわりに、事務的なレスになった。

『貸して。明後日くらい、会える? エントラスホールでもいいし、学食でもいいけど』

『じゃあ、明後日エントラスホールの南側付近で。五時くらいで大丈夫ですか?』

『うん、大丈夫。ありがとう』

 最後のメールには写真が添付されていた。カタツムリの写真だった。カタツムリは葉っぱの上ではなく、レンガの上を這っていた。碧が暮らす家のレンガかと想像しただけで、ほほえましい気分になった。







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