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恋を感じるとき  作者: 柏木杏花
柚希
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第一話    新歓コンパ

厳密にはガールズラブではないんですが、表現的には男女というよりそっちかな? と判断しました。R15は迷いましたが、今後なにを書くかわからないので(笑)念のため入れました。苦手な方はご注意ください。

「では、ただいまより、M大写真部新入生歓迎コンパをはじめさせていただきます」

 几帳面そうな眼鏡顔の、男子大学生が立ちあがった。

 さっきまでコップにビールを注いだり、雑談していた部員たちは、部長の声に視線を向けた。

 新入生は、緊張した面持ちで持たされたコップを、乾杯の音頭でかかげて、口をつけた。いっせいになごやかな拍手が起こる。


 居酒屋の二階は、写真部の貸切りだった。

 新入生は三人。上級生は二十人ほど。上級生のわりに新入生が少ないのは、秋の学祭のあたりから、入部するひとが多いかららしい。

 新入生は最初に自己紹介をして、バラバラに配置される。大学生ともなれば、先輩後輩とはいえくだけた雰囲気で、居心地は悪くない。

 ざっと見たところ、男女の比率は半々だろうか。

 瀬戸柚希せとゆずきは、唇を離したコップのふちに、口紅がついているのを見て、眉をひそめた。出がけに慌てていたので、ウォータープルーフでない口紅を塗ってきてしまった。

 上唇についたビールの泡を指でぬぐいながら、辺りを見廻した。

 めあてのひとは、松浦碧まつうらあおいと記憶している。

 去年、この大学を志望していた友人と一緒に来た学祭で、心に残った写真の撮影者の名前である。名前しかわからないので、男か女かも判断できない。

 碧という名は、どちらの可能性が高いのだろう。

 よく考えたら、学年もわからないのだ。もしかしたら、この春、卒業しているかもしれない。

「瀬戸さん、モデルでもしてんの?」

 ふいに、隣に座っている上級生から話しかけられて、我に返った。

 串からはずした焼き鳥に箸をのばしながら、華奢な肩の女子が小首を傾げている。鎖骨あたりの長さのボブは、天然のようなゆるいパーマがかかってた。

 上級生のはずなのに、高校生くらいにしか見えない。うっかりすると、中学生に見えてしまいそうだ。

 着飾っていないとか、化粧っ気がないとか、そんな表面的なものだけではない気がしたが、表情には出さずに愛想よく微笑んだ。

「してませんよ」

「前にも?」

「はい。したことありません」

「へ~、なんか意外だな。街、歩いてるだけで、ガンガン、スカウトされそうな有り様じゃん」

「有り様って、なんかビミョーな表現なんですけど……」

「あるんだ?」

「スカウトですか? ありましたよ。このウツクシサなんで」

 茶化して肩を竦めて見せると、

「うっわ~、いまどきの若者はズーズーしいなー」

 可愛い顔でおばさんみたいなことをいうので、柚希はビールを吹き出しそうになった。

「先輩……って、先輩って、なに先輩ですか?」

「あ、ごめんごめん。あたし、自分の名前もいわないで絡んでたんだよね。松浦碧。文学部二年。一眼レフはキャノンだよ。よろしく」

「! 松浦、さん? 松浦さんって、あの松浦さん? 『汚れたガラスの向こう側』の?」

「あの松浦さん……なのかな? 汚れたガラスの向こう側はあたしの写真のタイトルだけど」

 柚希は、数か月前に見たあの写真を思い起こした。物憂げな雨上がりの街の一部分を切り取ったような風景だった。ガラスに反射した子どもの背中が、印象的な作品で、ずっと忘れられなかった。

 あの写真の撮影者に、会いたいと思っていた。

 会って、なにを話したいとか、なにを訊きたいとかは考えていなかった。

 ただ、年齢も性別もわからないひとに、会ってみたいと、ずっと思っていた。

 だからいま、目の前に松浦碧がいるのを、興奮しつつも不思議な気持ちになった。想像していたより幼いひとだったからだ。

「もしかして、去年の学祭、見に来てくれたんだ?」

「はい」

「今年は一緒にだせるね。カメラは?」

「…えっと、一緒です。キャノンの……」

 とっさに、碧と同じメーカーだと口にしてしまった。

 実はまだ、購入していないのだ。明日にでも販売店に足を運ばなくてはならないだろう。

「そうだ。副部長も松浦なの、苗字。だから、あたしのことは『碧さんか碧先輩』で。ほかの新入生にもいっといて」

「わかりました」

 そのあとは、碧も他の部員と話したり飲んだりして、喧噪のなかに紛れた。柚希も次々に話しかけられているうちに、時間が過ぎて、碧とゆっくり話をすることはできなかった。

 十時になると二十歳未満は帰らなければならない。

 なんでも、十年くらい前に、新入生が急性アルコール中毒で医学部に運ばれて以来、そういう決まりになっているのだそうだ。

 そもそも、未成年なのだから、飲酒は法律違反なのだけど、新歓コンパを二十歳過ぎてからすることもできず、ウーロン茶で飲み会もできない、といわけで、十時帰宅、一時会のみ、ということらしい。

 現役組は二年生までが、帰宅することになる。

「碧、明日サッカー部、試合じゃなかった?」

 碧と懇意そうな女子が、帰り支度をしていた。このひとも現役二年らしい。

「うーん、そういえば、そうだったかも……」

 携帯を開いて指をせわしなく動かしている。どうやら碧はスケジュールを、手帳ではなく、携帯で管理するタイプのようだ。

「あー、ほんとだ。明日、試合って書いてる」

「彼氏の応援、行くんでしょ?」

「来てくれとはいわれなかったし、パス」

「横着してると、捨てられるよ」

「その程度で壊れるんなら、無理して引き延ばしてもさ……」

 一、二年が上級生に挨拶をして店を出始めた。碧たちの会話を訊くともなしに訊きながら外に出ると、店の出入り口で、駅に向かう者、バス停に向かう者に別れていった。

 柚希と碧は、駅に向かう数人のグループと一緒に歩いた。

 歩道を歩くうちに、ほかの数人は、ずいぶん後方に行ってしまって、二人だけになっていた。

「彼氏、サッカー部なんですか?」

「うん、まーね」

「応援、来てほしくて、試合の日を伝えたんじゃないんですか?」

「そうかもしれないけど、そういうのを察して欲しい的なのは、嫌じゃない? 来てほしかったら、ちゃんと来て欲しいっていえばいいんだし」

 なかなか男らしい考え方の持ち主だ。あっさりと割り切ってくれるひとは、恋人にとって楽でもあり、物足りなくもあるだろう。

「彼氏の雄姿を撮りながら、ついでに応援するってのは?」

「絶対、無理」

「どうして?」

「サッカーのコートって、広いじゃない。で、やたら動くし、ン十万円のでっかい望遠持ってなきゃ撮れないよ。だいたいあたし、人物は双子と妊婦しかそそられないんだ」

「へー、双子と妊婦」

 おもしろい事をいうひとだなと、柚希は愉しい気分になった。

「でも、瀬戸さんはちょっとそそられる」

「え?」

「そのウツクシサだから」

 柚希は「光栄でーす」と声をあげて笑った。

「あたし、前に妊婦さんのヌード写真の撮影に助手で入らせてもらったことがあるんだけど、すごく感動したんだ。でも、妊婦さんのヌード撮影は、本来、カメラマンも助手もみんな、出産経験者なんだって」

 碧は憧れに思いを馳せる表情になった。繁華街の明かりに照らされたその横顔が、やけに大人びて見えた。

「瀬戸さんが将来、妊婦になったら、あたしにヌード、撮らせてよ」

「えっ…と、でも……」

 急に、冷水を浴びせられたような気分になった。とまどった柚希が言葉をつなげられずにいるうちに、駅に着いた。別々のホームに移動するため、短い挨拶をしてそこで別れた。

 さっきの発言は、特に意味のないものだったのか、碧は返事のないことを気にした様子はなかった。

 碧の姿が見えなくなると、柚希は大きくため息をついた。


 自分が将来、妊婦になることなどあり得ない。

 柚希は、男だからだ。






久しぶりに、小説書きました。この二人をどうにかハッピーエンドにしたいと思ってますが、どんな形で決着をつけるか、まだ決めてません。プロットも作らず書いてしまったので、どんどん変更してしまってます。いつまでも手元に置いておくと、書き直しばっかりしてぐちゃぐちゃになるので、見切り発車で投稿します。


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