5.【佐伯悠斗(巳樹本不動産・担当営業)の証言】
あの物件について、ですか。
ええ、まあ……お話できる範囲でなら。
……はい、確かに僕は、あの物件の担当でした。
でも正直、あまり詳しいことは知らされてなかったんですよ。
上司から『ちょっと訳ありだから、早めに売り切りたい』って言われてて。
でも“訳あり”って言っても、見た感じ普通だったし、室内に香水みたいな臭いがついてる事とか、家具が残ったままとか、そういうことを言ってるのかなって。
事故物件だったら、もちろん告知義務がありますし、僕もちゃんと説明します。
でも、上司は『事故じゃない。心理的瑕疵にも当たらない。気にしなくていい』って言ってて……。
だから、僕も深くは聞けなかったんです。新人みたいな立場ですし。
前のオーナーですか?
あの方、売却の手続きはすごく急いでて……。
必要書類もギリギリで、引き渡しの日程も何度か変わって。
僕も『大丈夫かな?』とは思ったんですけど、上司が『気にするな』って。
オーナーはたぶん……あそこに住んでた本人じゃないみたいでしたね。賃貸に出してたわけでもないと思うんですが。
……でも、正直に言うと、引き渡しのあとで連絡がつかなくなったんですよ。
山田さんから『荷物が届いた』って連絡をもらったときも、僕、どうしたらいいか分からなくて……。
上司に相談したら『処分してもらって構わない。前オーナーとは俺が話しておく』って。
でも、それって普通じゃないですよね?
僕もちょっと変だなって思ってたんです。
……僕、本当に何も知らなかったんです。
もし何かあったなら、ちゃんと説明したかった。
でも、上司が……伏見主任が何を知ってたのか、僕には今でも分からないんです。




