3.【五島尚弥(喫茶オールド・ムーン店主)の証言】
山田さんですか?
ええ、よく来てくれてましたよ。
ここらってほら、新しく来てくれる人ってそんなにいないから、覚えるんですよ。
だいたいそこの窓際の席に座って、読書したり書き物したりしてたかな。
コロナでリモートワークが増えて、この辺りに越してきた人も多少はいましたけど。まあ……基本は過疎が進む郊外なんでね。
バブルの時に家を建てて、でも子供は出てくし自分も年を取って手放して……って人が多いんじゃないかな。
そのおかげで若い人が安く買えるってのは、そう悪いことじゃないかもしれないですけどね。東京は不動産の高騰がひどいじゃないですか。
山田さんも、『売り急いでる人がいて、ちょうど安く買えた』って言ってたかな。
まあ水道とかインフラはちゃんとしてるんで、いわゆる"限界ニュータウン"ってほどじゃないし、車があればそこまで不便でもないですよ。駅も徒歩圏内ですし。
ウチみたいなお洒落なカフェもありますしね。なんてね、ハハ……。
え?……ああ。よくご存じですね。
一応、調度品はイギリス輸入のアンティークで揃えてるんです。
兄貴がそういう商売してるんで、これでも内装にはこだわってるんですよ。
そういえば山田さんも、そういうの詳しかったっけなあ。
いや、最初はそんな感じでもなかったんですけど、何か、来るたびにだんだん雰囲気が変わってきて……。
『引っ越して1年の記念日です』って言ってた日だったかな。
そこの棚が新しく入ったのを見て、『わあ、エドワーディアン様式のキャビネットだ』って目を輝かせて。スペードなんちゃらがどうとか、俺より詳しいんちゃう?みたいな事をニコニコ話してね。
前の住人が残した家具にこういうのがあって、それで興味持つようになったって言ってましたね。
最初来たときは地味な感じでしたけど、その頃は表情も明るくなって、化粧なんかも変わっててねえ。甘い、香水みたいな匂いがすることもあったな。
『きっとここでの生活が合ってたんだろうな』って思って、ちょっとほっこりしたのを覚えてます。人が減ってますから、やっぱり、『引っ越して来て良かった』って言ってくれる移住者っていうのは嬉しいですよ、ここで商売してる人間としては。
ただ……。
俺も詳しくはないけど、一応兄貴が輸入家具の商売やってるから、この手のアンティーク家具がそれなりの値段だってのは知ってます。
それを置いてくってのは、前の住人はよっぽど急いでいたのか……何かの訳ありなのかなって思いましたよ。
お客さんに嫌な思いもさせたくないので、山田さんには言いませんでしたけどね。




