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第7話 静かな日のラーメン
迷惑な客が来なくなった、というわけではない。
ただ、伽藍堂の空気は、確実に落ち着いてきていた。
昼のピークを越えた時間。
店内には、箸の音と、スープを啜る音だけが残っている。
グロムは、いつも通り無言だ。
リリアは、湯気の向こうを眺めながら、ゆっくりと麺を運ぶ。
この沈黙が、嫌いじゃない。
前の世界では、店は賑やかなほど良いとされていた。
客の声、呼び込み、音楽。
静かな店は「流行っていない」と判断される。
だが、ここでは違う。
「……暇だな」
グロムがぽつりと言う。
「暇でいい」
「儲からねえぞ」
「潰れなきゃいい」
そう答えると、グロムは小さく笑った。
「変な店主だ」
それでも、明日も来るのは知っている。
暖簾が揺れ、新しい客が一人入ってきた。
若い男で、落ち着かない様子だ。
「……静かですね」
「そういう店だ」
「……嫌いじゃないです」
ラーメンを出すと、男は黙って食べ始め、
食べ終わると、深く息を吐いた。
「また来ます」
その一言で、今日は十分だった。
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