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第5話 注文しない客
最近、伽藍堂の噂を聞いて来る客が増えていた。
昼のピークを少し外した時間。
常連が静かにラーメンを啜る中、その男はやけに大きな音を立てて入ってきた。
「ここが伽藍堂か」
誰に向けるでもなく呟き、店内を見回す。
「おすすめは?」
「全部」
「雑だな」
男は笑ったが、注文はしない。
そのまま席に居座り、他の客の丼を覗き込む。
「儲かってんの?」
「原価、結構高そうだな」
空気が、少しずつ重くなる。
グロムが箸を止めた。
リリアは視線を落とす。
「注文しないなら、席は使えない」
「は?客だろ?」
「客は、注文する」
男は鼻で笑った。
「評判落ちるぞ?」
そのとき、常連の商人が静かに口を開いた。
「落ちない」
男が振り返る。
「何だよ、お前」
「この店は、そういうの、気にしない」
俺は、暖簾に目を向けた。
「合わない人は、来なくていい」
数秒の沈黙。
男は不愉快そうに立ち上がり、出ていった。
暖簾が揺れ、元の静けさが戻る。
誰も何も言わず、またラーメンを啜る。
「……増えてきたな」
グロムが言った。
「噂が広がると、こうなる」
「まあ、いいさ」
伽藍堂は、何でも受け入れる店じゃない。
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