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第10話 ただ、出し続けるだけ
特別なことは、何も起きなかった。
仕込みをし、
ラーメンを出し、
暖簾を下ろす。
それだけの日々が、積み重なっている。
異世界に来て、使命はない。
戦う理由も、救うべき誰かもいない。
ただ、腹を満たすために、
湯気の立つ丼を出している。
それでも、この店には人が来る。
理由は、それぞれだ。
うまいから。
静かだから。
居心地がいいから。
閉店後、鍋を洗いながら思う。
伽藍堂は、空っぽの器だ。
だが、何もないわけじゃない。
ここには、
時間があり、
匂いがあり、
また来ようと思える余白がある。
暖簾を畳み、灯りを落とす。
明日も、たぶん、開ける。
それでいい。
――伽藍堂は、今日も変わらず、開いていた。
(第1章・了)
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