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555字の掌編

現実を知らないものへ

作者:
掲載日:2025/12/21

 ヒールを鳴らし、スターバックスのカップを片手に「おはようございます」と職場に挨拶する。それがカッコいい大人だと思っていた。だが、現実はどうだ。日付を超えた電車に乗り、帰ってベッドに倒れそうになるのをなんとか堪え、化粧を落としシャワーを浴びて、簡単にスキンケアを済ましコンビニの弁当と缶ビールを流し込み、たまった洗濯物を見て見ぬ振りして、辛うじて残った理性で歯磨きをしてやっとベッドに入る。泥のように眠れたら良いのに、疲れすぎている体はなかなか眠りにつけない。

 まるで、明日が来ることを拒んでいるかのように。

 それでも明日は素知らぬ顔でやってきて、アラームが五回鳴ったところで飛び起きる。ヤバいヤバいと連呼して、朝ご飯はコンビニで買っておいたなめたけの味噌汁。熱いから蓋を開けたまま顔を洗ってまたスキンケア。

 味噌汁を飲みながら、どうせ今日もメイクしなきゃいけないのに、どうして毎晩落とさないといけないのだと、知らない肌のカラクリに怒りを覚える。

 適当に着替えて慌ただしく部屋を出る。急いでいるのに、こんなときに限って鍵をかけたか思い出せずまた部屋に戻る。ちゃんと掛かっている。今度はエレベーターを待たず、階段を駆け下りた。

 大人って、余裕を持ってヒール鳴らして、スタバ片手に仕事するものじゃないの?


当方の書くものは全てフィクションです。

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